第10話 夜の訪問者
あの夜、俺はマンガ喫茶で黒ずくめの特殊部隊の兵士たちに銃口を向けられていた。
「銃を下ろして!」
奥から黒いスーツに身を包んだ女が現れる。美人だが歳は30代くらいだろうか。
「大丈夫、私が話す」
兵士たちが一斉に銃を下ろす。不気味な静寂が立ち込める。口を開いたのは女の方だった。
「あなたのその、持っているのは魔滅の剣?」
女は俺の持ってる漫画を指差して言う。
「え、ああ・・・」
「それ、うちの息子も好きなのよね」
「息子がいるのか?」
女は自らのスマホを懐から取り出しホーム画面を俺に見せる。画面には女と小さな男の子が写っている。
「もう小学生なの。可愛いでしょう」
「息子自慢をするためにこんな大層な歓迎をしに来たのか?」
「失礼。申し遅れました 私は
「 防衛省?この気味の悪い黒づくめの連中は一体何だ」
「彼らは自衛隊の特殊部隊です。もしもに備えて来てもらったけどあなたは思ったより話がわかるみたい」
「このマンガ喫茶の他の客は?」
「彼らならこっそりと全員避難してもらいました」
「隣の男のイビキがとにかくうるさくてね。おかげで熟睡出来た。それより肝心なことを聞いてない。俺に何の用なんだ」
「それもそうね。百聞は一見にしかず。あなたに見てもらいたいものがあるの」
深夜のマンガ喫茶の空間で菅涼子は俺の前に持参したノートパソコンを置いた。菅涼子がノートパソコンを操作するととある映像が映し出される。はっと息のを飲む。あのアメリカのATMだ。俺が突っ込むと同時に粉塵が舞い上がる。映像にはバッグにドル札を詰め込んでいく俺の姿が映し出されている。
「ちょっとおイタが過ぎるわねえ」
菅凉子がやや皮肉っぽく呟く。
「俺を捕まえに来たのか?」
「アメリカ警察すら捕まえられなかったあなたを?まさか」
菅凉子は次の映像を再生して見せる。
「Put your hands in the air!」
「Surrender now!」
「これは当時の警官のボディカメラで撮影された映像ね」
空高く飛翔していく俺の姿がはっきりと撮影されている。
「He is flying!」
「What the fuck!」
警官たちが驚いて口々に叫ぶのが聞こえる。
「この映像はアメリカCIAから提供されたものです」
CIA?俺の知らないうちににこんなにも話が大きくなっていたのか。
「次の映像の入手ルートに関しては悪いけど教えられない」
菅涼子は次の映像を再生してみせる。
「これは・・・」
これは俺が戦った例の戦艦内の映像だ。兵士側の目線の映像らしく弾丸をはじき返しながら向かって来る俺の姿が映し出されている。
「これは当時、艦内にいた兵士の一人がスマホでこっそりと撮影したものよ」
「俺が戦ったこいつらは一体何なんだ」
「彼らは中国海軍。 千石諸島付近で軍事演習中に彼らのレーダーが高速で接近してくる未確認飛行物体を 感知。これを攻撃と受け取った彼らはこれを先制攻撃。そしてあなたと交戦になったというわけ」
「千石諸島って?」
「政治にはあまり詳しくないみたいね。千石諸島は政治的には非常にホットポイントでね。中国は前から この千石諸島の領有権を主張している」
菅涼子はノートパソコンの画面上ににマップの画面を出し千石諸島のある辺りを拡大してる見せる。それは小さな島々の集まりにしか見えなかった。
「何だ。ちっぽけな島じゃねえか。何でこんなものが欲しいんだ?」
「1960年代に国連の調査により千石諸島の海域の地底に地下資源があることを発見した。すなわち膨大な量の石油をね。中国が千石諸島の領有権を主張し始めたのはこれ以降。彼らも狙いが何なのかは明らか よね。中国がここを軍事侵攻により力づくで奪取するのは時間の問題ではないかと警戒されていた。そこにあなたが現れた」
いつのまにか話が大きくなりすぎて頭が追いついていかない。俺は気ままにやっていただけなのにいつのまにかこんな大事になるなんて。
「もう事態は外交問題にまで発展している。中国は今回の攻撃に関して我々日本政府が関与していると疑っている」
「俺はただ国に帰ろうと飛んでただけだよ」
「 軍事的には無断で相手のテリトリーに侵入した場合、攻撃と受け取られても仕方ないわ」
「何てこった・・・」
「ところであなたは緋呂力人さん。緋呂雅子の養子なのよね」
そうだった身寄りが全くない俺はマザーの養子となったのだった。
「ああ、そうだが」
「彼女には最近会った?」
「そういや心配してそうだし顔くらい出そうかと思ってたんだが会ってないな」
管涼子はやや沈黙したのちこう言った。
「緋呂雅子さんはね、今ちょっと大変なことになってるの」
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