第9話

かなり待たされた。

やっと、刑事たちが戻ってきた。


刑事は、何かの紙を私に見せながらこう言った。


「坂川由香。あなたを殺人及び放火の容疑で逮捕する」


「は?! 何言っているんですか? 指紋、調べたんでしょ?」


「ああ、調べたよ。凶器からあなたの指紋が出た。今から、あなたの部屋も調べさせてもらうよ」



連れていかれたのは、燃えた私の部屋ではなく、由香の部屋の方だった。

警察官が叫ぶ。


「血のついた衣服を発見しました!!」


「よし! 鑑識で調べさせろ!」


由香の部屋の浴室から、例の血の付いた衣服が発見され、押収された。

由香の部屋のあちこちを、鑑識が調べて指紋を採取している。


「この部屋、あなたの部屋でしょ?」


「違います。由香の部屋です」


「だからさ、あなたが由香でしょ? 今、指紋を採取しているんだけど、この部屋、あなたの指紋ばかり出てくるよ?」


「……それは……以前にこの部屋で、由香と一緒に住んでいたことがあったから……」


「ほう、そうきたか……だったら、あなたの言うところの『由香』の指紋が出てこないのはなぜだ?」


「……知りません……きっと、由香が拭き取ったんじゃないですか?」


「部屋から自分の指紋だけをすべて消し、あなたの指紋だけ残す。そんな器用なこと、あなたが言うところの『由香』さんにできるんですか?」


「…………」


言われてみれば、確かに由香にそんな器用な真似ができるとは思えなかった。


私は警察署の取調室に戻された。

このままでは、私は坂川由香になってしまい、殺人と放火の罪で刑務所に入れられてしまう……


私は榛名美織としてテレビドラマに出るはずだったのに……

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