第6話

誰だろう?

ドアスコープから覗くと、2人の男が立っている。

私は、チェーンをかけてから、恐る恐るドアを開いてみた。


男たちはこう聞いてきた。


「坂川由香さんですか?」


「……はい……」


私が生きているのがバレると、殺されてしまうのではないか。

その恐怖には勝てず、私は由香になりすまし、はいと言ってしまった……


「榛名美織さんとは、お知合いですよね?」


「…………」


私は何も言えなかった。

榛名美織は私だ。

しかし、男は私のことを、坂川由香だと思っている。

それもそうだ。

だって、この部屋は坂川由香の部屋なのだから、私を由香だと思うのは当然だ。


「昨夜、榛名美織さんのところには行かれましたか?」


「……いえ……」


これは嘘ではない。

昨日、私は自分の部屋にいた。

私の部屋に行ったのは、この部屋に住む坂川由香の方であって、私ではない。

しかし、先ほど、私は坂川由香だと答えた。

言っていることに整合性がなくなってしまった……


「そうですか。それでは、何か知っていることがありましたらこちらに連絡をお願いします」


そう言って、男は私に名刺を差し出した。

男たちは刑事であった。


「それでは失礼します」


刑事たちは帰って行った。

私はドアを施錠し、そしてまた、考え込んだ。



刑事だったのか!

だったら、私は榛名美織だと言うべきだったのでは?

私は警察に嘘をついてしまった。

いろいろとまずいことになりそうだ。


ひょっとして、私は幽霊かも。

そんなことも考えてみた。

しかし、はっきりと自分の体は存在するし、現に訪れた刑事たちと会話が成立している。

名刺も物理的に受け取った。

私は幽霊ではない。

私は死んでいない。


しかし、ニュースでは私は殺され、部屋は燃やされているとのこと。


ニュースは本物なのか?


火事の規模はどのくらいだったのだろう。

私の私物や財産は、どのくらい残っているのだろう。


……帰らなくちゃ……


この部屋はどうする?

私は、由香が合い鍵をどこに置いているのか、知っていた。

以前に同居していた時に置いていた場所を探してみた。

案の定、鍵はそこにあった。



私は、由香の部屋に施錠し、そして、自分のアパートに向かった。

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