第5話
ただ、これだと説明がつかないことがある。
由香が放火の犯人だとした場合、遺体は誰なのか、という点だ。
由香が、第三者の遺体を私の部屋に運び入れ、私が殺されたかのように偽装して放火した。
そう考えれば、一応は説明がつくが、動機が不明となってしまう。
なぜ、そんなことをするのか。
由香は、私を殺そうと思ったが、いざとなるとそれは実行できなかった。
それで、身代わりの遺体を用意し、私が殺されたように工作した。
私を殺すことができなかった由香は、私を自室に運んで寝かせる。
そして、放火をしに戻り、その後、行方をくらました。
この考えは、かなり無理があるように思えた。
動機がしっくりこないのだ。
私への嫌がらせにしては、手が込み過ぎている。
アパートで火事を起こせば、大家さんや近隣の部屋の方へも多大な迷惑をかけることになるので、放火犯は私にかなりの痛手を負わせることができる。
ここまでは納得できるが、なぜ、部屋に第三者の遺体が必要なのか。
話がつながらない。
こう考えてみた。
由香には私以外に殺したい誰かがいて、由香はその人を殺害した。
由香は、証拠隠滅として私の部屋にその遺体を運び込み、榛名美織の焼死体として発見させることで自分の殺人の証拠を隠滅した。
現に、その死体は私、榛名美織として取り扱われている。
死体を誤認させることには成功していると言えるだろう。
しかし、私、榛名美織は今こうして生きているのだから、私が警察に「生きています」と言えば、こんな偽装工作は何の意味も持たなくなる。
ん?
とてつもなく恐ろしい考えが思い浮かんだ。
私はこの後、殺される?
私、榛名美織は死んだことになっている。
私が生きていては、犯人にとって都合が悪い。
ピンポ~ン!
玄関のチャイムが鳴った。
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