リエリー(入国禁止)


 エルフの国アークヴにやってきた俺たちは、久しぶりにシャーリーさんとリエリーに会った。


 シャーリーさんもリエリーも種族はエルフである。長寿種と呼ばれる彼女達は、人間と比べて圧倒的に老いる速度が遅いため、見た目がまるで変わっていなかった。


 リエリーはもう少し身長とか伸びてもいい気がするんだが、可愛いからいいか。


「久しぶりだな!!アトラリオン級冒険者になった時に会っているから........一年ぶりぐらいか?」

「そのぐらいかしらね。と言うか、一年でここまで戻って来れるのね。結構な距離があるでしょう?」

「精霊さんにお願いすれば問題ない!!こう見えても私は精霊使いとしての側面もあるからな。空を飛んでいけば、それなりの時間短縮はできるんだ!!話し相手もいるし、退屈はしないぞ!!」


 そういえば、リエリーはスキルで精霊が見えるエルフだったな。


 エルフの上位種、ハイエルフだけが見ることができるとされている精霊。


 俺や人間の血が混ざっているエレノアでは、精霊王の加護を得てようやくその気配を何となく感じ取れる程度の存在。


 この世界のバランスを保っている俺達とは完全に生きる場所が違う生命であり、死んでもなお悪霊のように生き続けるのが精霊だ。


 その墓場を作ったら、管理している精霊が閉じ込められちゃって、孤独すぎて半泣きしていたからね。


 アートは元気にしているかな?後で顔を出してあげよう。


 魔界の旅の話はきっと聞きたがるはずだ。


「精霊も大変だろうな。こんな後先考えない魔術バカの相手をさせられるだなんて」

「失礼だなジークは!!精霊はむしろ、私と遊びたがってよく私のところに来るんだぞ!!」

「そうなのか?精霊王が“監視しておけ”とか言ってない?」

「言ってない!!........はず。だよね?........うん。言ってないって」


 リエリーを少しからかうと、不安になって隣にいた精霊に話しかける。


 俺には見えないが、何となくそこに気配があるのは分かる。


 アートのような上位精霊のような力は感じないので、おそらく中位精霊とかその辺だろう。


「ま、あまり迷惑はかけるなよ。シャーリーさんが疲れちゃうしな」

「もちろんだとも。そのために、態々庭と家を直す魔術を作ったんだからな!!」

「いや、そもそも庭や家を壊すなよ........」


 なぜ胸を張る?それは誇れる事では無いんだが?


 しかし、俺も似たようなことをやっていた記憶があるのでリエリーと同類である。


 庭の芝生を全部枯らしてお袋にとんでもなく叱られた記憶は、一生忘れられないだろう。


 マジで怖かった。背筋が凍るぐらい怖かった。


「それで、お嬢様。ただ顔を見せに来た訳ではありませんよね?私はそれでも嬉しいのですが........」

「そうね。シャーリーに用事があってきたわ。玄関で話すのもなんですし、中で話しましょう。とは言っても、ここはリエリーの家だからリエリーに聞かないとね。いいかしら?」

「もちろん。私の数少ない友人達の来訪を拒むほど、私は心が無いわけじゃないからな。と言うか、その話は私が聞いてもいいのか?」

「いいわよ。どうせ聞かれても困るものでは無いし」


 そんな訳で、リエリーの家にお邪魔させてもらう。


 リエリーの家は、前回訪れた時よりもかなり綺麗にそして可愛らしくなっていた。


 小さな家具や装飾がチラホラと見受けられ、子供の女の子の部屋と言う感じが強い。


 おそらく、シャーリーさんが色々と手を加えたのだろう。


 リエリーはこう言う飾り付けとかは絶対にしないだろうしな。そんな時間と暇があるなら、魔術の実験を1つでもやるような子なのだ。


「........随分と懐かしさを感じるわね。シャーリーが私の部屋の飾り付けをしてくれていた時は、こんな感じだったわ」

「ふふふっ、そうでしょう?リエリーちゃんを見ていると、どうしても昔のお嬢様を思い出してしまって........気がついたら昔のような飾り付けをしてしまっていたのです。リエリーちゃんが絶賛してくれました」

「味気ないつまらない家が随分と可愛くなったからな!!私には絶対にできない!!これだけでもシャーリーを雇った甲斐が有る!!」


 リエリーはシャーリーさんの雇い主である。


 シャーリーさんの飾り付けはリエリーにちゃんと刺さったようだ。


 ウチも偶に、メイドちゃんが飾り付けをして“見てください!!”って披露してくることがあるからね。


 ちなみに、全部ちゃんとセンスがいい。なんでなんやろうな。俺には絶対にないセンスのはずなのに。


 で、俺たちが褒めると満足して翌日には片付けられている。本当に褒めて欲しいだけでやっているんだなと分かるので、とても微笑ましい。


「ありがとうございます」

「まぁ、その分騒がしくなったがな!!私が実験を失敗すると、いつもシャーリーが飛び出してくるんだぞ?最初は私の心配をしてくれていたのに、今となっては庭と家の壁の心配ばかりだ。私は少し悲しい!!」

「妥当だよそれは」

「妥当ね。擁護できないわ」


 リエリーは、仮にもオリハルコン級冒険者の中で最も優れた魔術師である。魔術を失敗したとしても自分を守る術は持っているし、当たり前だが怪我のリスク管理はしっかりとしている。


 所構わず実験をして、周囲を破壊するその行動がとても目立つが、本人はかなり優秀な魔術師なのだ。


 俺もリエリーと合えば魔術理論についてよく話す程には、優秀なのである。


「リエリーちゃん、本当にそこらかしこで実験するから困っているんですよ。この前なんてここの部屋で実験をして、家を半壊させましたからね」

「ちゃんと直したのに怒られたぞ!!」

「当たり前だおバカ。家を壊したこと自体が問題なんだよ。そんなんだから大帝国を入国禁止にされるんだぞ」

「あはは!!あの皇帝のおっちゃんの顔は面白かったな!!あ、この前仕事で聖王国に行ったが、入国禁止になったぞ」


 サラッととんでもないことを言うリエリー。


 え、何?また入国禁止の国が増えたの?


「........ちなみに聞くが、何をしたんだ?」

「いやー最上級魔物が出て、場所的に討伐が難しいからという理由で私に依頼が来たんだがな?仕事を終えた後、王様と謁見している時にちょっといい感じの魔法陣を思いついて思わず実験してしまったんだ。そしたら、国王殺人未遂だのなんだの言われて、入国禁止になってしまった。あれは私が悪かったな!!アッハッハッハッハッ!!」


 すいません。全く悪びれた様子もなく、胸を張りながら笑わないでください。


 リエリーだから許されているが、オリハルコン級冒険者じゃなかったら絶対に処刑されてるよそれ。


 なんだろう。今まで閉鎖的で排他的なこの国が、一気に寛容な国に見えてきた。


 こんな問題児を抱えながらも、何とかやって行けている長老会って実は凄いのでは?


 エルフの中で唯一のオリハルコン級冒険者であるリエリー。


 その権力は凄まじく、国王の暗殺未遂容疑をかけられても入国禁止で済む。


 俺でもやらないからな。それ。魔界の王は経験値だったが、俺の中のルールでは人間の王は経験値では無いのだ。


 それこそ、冒険者ギルドに戦争を吹っ掛けるアホな国家があって、ギルドが本気で潰しに行こうとかしない限り、人類の王を手にかけることは無いだろう。


 特段恨みとかもないしな。


「リエリーってある意味すごいわよね。皇帝と王の暗殺未遂の容疑をかけられて、生きているだなんて」

「見習うなよ?絶対に見習うなよ?」

「安心しなさい。私なら確実に殺せるわ」

「違うそうじゃない。そもそもやるなって話だよ」


 何故か王を殺す方面で語るバトルジャンキーな相棒に、俺は頭を抱えるのであった。


 全く。オリハルコン級冒険者には本当にろくな奴が居ない。俺が一番まともなんだ。





 後書き。

 ちなみに聖王国の王様は、『悪気はないんだしいいんじゃ.....』と、ちょっとガッカリしている。

 聖王国の王様は、リエリーのファン。

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