スピル王国

久しぶりのドゴォォォォォン


 我らが愛弟子、デモットの旅路に幸があらんことを。そう願いながら、しばらくの間別れの感傷に浸った俺達は、エルフの国、アークヴ王国へとやってきていた。


 ここは世界樹のダンジョンと呼ばれる、“三大ダンジョン”の1つがある国。


 その真相は、死してなおこの世界に残り続ける堕落した精霊達の墓場であった。


 そういえば、精霊王と戦ってみたいんだよな。流石にこの世界のシステムの1つとも言えるような存在なので、殺したりはできないが闘ってどちらが強いかを決めるぐらいは出来る。


 そんなエルフにとっては聖地とも言えるアークヴの王都アーク。


 エルフ至上主義とも言えるこの国にやってきたのは、ある人物に会うためであった。


「ごめんなさいねジーク。私のわがままに付き合わせちゃって」

「いいよいいよ。俺が好きでやってるんだし、なによりエレノアはいつも俺のわがままに付き合ってくれているだろう?こんな時に一緒に居ないで何が相棒だって話だよ」

「ふふっ、そうね。ありがとうジーク」


 エレノアはそう言うと、嬉しそうに笑いながらこのアークの街を歩く。


 以前はリエリーとか言う超問題児がいてくれたお陰で面倒事に巻き込まれずに(1回巻き込まれた)済んだが、今回はリエリーが居ない。


 俺達に降り注ぐ視線は、心做しか厳しかった。


 が、前回俺達が暴れ回ったのを彼らは知っているのだろう。


 睨みつけられることはあっても、何か難癖をつけられて絡まれるなんてことは無かった。


 街に入る前の門番の所でも、ビックリするぐらい丁寧な対応をされたしな。


 ハイエルフと呼ばれるエルフの上位種であり、この国の最高権力者である長老会の1人を引きずり下ろしたという実績は、この国において凄まじい効力を持っているのだろう。


 まぁ、他の国で例えたら、王の座をひっくり返しているようなもんだしな。


 やっている事は完全に国家反逆罪である。


「この国は変わらないわね。友好的な視線を送るものと敵対的な視線を送る者。それぞれが入り交じっているわ」

「特に老人は厳しい目を向けてきてるな。若者はそもそもこっちに興味が無いものが多い」


 エルフはどちらかと言えば差別的な種族である。


 特に、国から出たとこがないようなエルフと言うのは、人間や獣人などを見下す傾向にあり、彼らは自分達こそが最も優れた種族であることを疑わない。


 最近の若者は国から出る機会も増えたらしく、出戻りしてきたものが友人と人間について話したりしてくれるお陰で、人間に対してそこまで差別的だったり敵意を持ったりはしない。


 三年........四年?どっちだったか忘れたが、前に訪れた時もこんな感じだった。


 国はそう簡単に変わらない。上に立つものが変わらない以上は、その政策が続けられる。


 このエルフの国が大きく変わるのは、いつになるのだろうか。そう思いながら歩いていると、聞きなれた凄まじい爆音が鳴り響く。


 ドゴォォォォォォォン!!


 地面が揺れ、大気の揺れが肌で感じられる程の爆音。


 普通の街ならば、何かあったのかと誰もがその音がする方に視線を向けるが、この街では誰も視線を向けず“あぁ、またか”程度にしか意識しない。


 当たり前だ。この街でこんな馬鹿げた爆発音を鳴り響かせるのは、一人しかいないのだから。


「またやってるわね。エルフの国よりも変わらない存在がいたわよ」

「全くだ。凄まじい爆音だな。俺達が魔界に行っているあいだ、ずっとあんな感じだったんだろう?この点についてだけは、この街の人達に同情するよ。いやほんとに。毎朝これで起こされるのってかなりキツイんだよね........」

「そうね。早寝早起きが週間になるわ」


 凄まじい爆音がした場所へと向かうと、そこには大きな庭がある家がある。


 少し耳を傾けてみると、そこからはよく知った声が響いていた。


「リエリーちゃん!!庭を破壊するような実験は辞めてと言っているでしょう?!」

「ん?大丈夫だ!!最近庭を直す魔術を開発してな!!こうして........ほら、この通り!!これでシャーリーの負担が減らせるぞ!!」

「違う!!そうじゃない!!」


 騒がしい人達だ。シャーリーさんもリエリーに振り回されすぎて、心做しか言葉が崩れている気がする。


 リエリーは確かにいい子で可愛いのだが、この魔術バカな所が大きな欠点なんだよなぁ。


「楽しそうだね」

「ふふっ、シャーリーがあんなに大きな声で騒がなんて。私が怒られた時ですら、怒鳴られたことは無かったのにね」

「怒られたことがあるのか?」

「もちろんあるわよ。私だって善し悪しの分別が付かなかった時期はあるのよ?確か........お母様が使っていたお化粧の道具をこっそり持ち出して、自分に使って酷い顔になった時だったかしらね?」

「へぇ。エレノアにもそういう時期があったんだな」


 四歳か五歳の頃の話だろ?まだ俺よりも小さいエレノアがよちよち歩きながら、こっそり化粧品を盗み出してお化粧の真似事をしている姿を想像し、思わずクスリと笑ってしまう。


 本当に酷い顔をしていたんだろうな。


 ちなみに、今のエレノアはまるで化粧なんてしていない。


 どうせ戦闘したら崩れるからという理由で化粧はしないし、肌のケアもほぼしてないのだが、同じ女性たちから羨ましがられるほどに肌が綺麗である。


 おそらく、フェニックスの血肉を得てしまったお陰で、全盛期の頃から老いることが無いためだと思われる。


 俺の肌も滅茶苦茶綺麗らしいからな。


 そう考えると、未だに化粧もほとんどせずに肌も綺麗なお袋って一体........


 定期的に感じる、我が母のバグ。あの人だけマジで生きている世界線が違う。


 多分、日曜の19時ぐらいに放送されている国民的アニメの世界線で生きてる。何年経っても年は取らないのだ。


 そんなことを思いながら、俺達はリエリーの家のドアを叩く。


 少し待っていると、シャーリーさんが顔を出した。


「はい........お嬢様!!」

「久しぶりねシャーリー。元気にしていたかしら?」

「お嬢様!!お久しぶりです!!」

「わっ!!」


 嬉しさのあまり、エレノアに抱きつくシャーリーさん。エレノアは驚きつつも、ちゃんとその抱擁をしっかりと受け止めていた。


 シャーリーさんに取って、エレノアは娘と言っても過言では無い。


 小さい頃の面倒はほとんどシャーリーさんが見ていたらしいし、エレノアもシャーリーの事を母親のように思っている。


「おかえりなさい、お嬢様。また綺麗になられましたね!!」

「言い過ぎよ。知っているでしょう?私は不老の身だから、見た目は変わらないのよ」

「いやいや、そんなことないですよ!!お嬢様は綺麗になられています。ね?ジークさん!!」


 キラーパス過ぎないか?


 ここで“変わってないよ”なんて言えるはずもないだろ。


 言ったが最後、俺はシャーリーさんに殺される。エレノアは多分何も気にしない。


 エレノアとはそう言う人物なのである。


「まぁ、綺麗になったんじゃないか?エレノアも随分と変わったしな」

「ほら、ジークさんもそう言っていますよ!!」

「違うわシャーリー。今のは言ったのではなくて、言わされたのよ。他でも無い貴女にね。ジークが私の違いに気が付かないはずないじゃない。何も言わないって事は、変わってないって事よ」

「いーえ!!そんなことありません!!」


 シャーリーさん。本当に元気だな。


 普段はかなりマトモな人のはずなのだが、エレノアが絡むとかなりおバカな人になるのは変わってないらしい。


 この点はリエリーと同じかもな。


 俺はそう思いながら、なんやかんや嬉しそうにシャーリーさんと話すエレノアを眺めるのであった。





後書き。

第三部開幕。ちなみに、魔王大陸編は誤字じゃ無いぞ。魔大陸と同じだけども。

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