魔界大戦:切り札


 騒がしかった戦場に沈黙が訪れて、悪魔達の多くが死んでいく。


 そして嵐の前の静けさという言葉があるように、沈黙の後に待っていたのはなにもかもを飲み込む暴風。


 真空となった空間に一気に流れ込んだ空気が、暴風となって悪魔達を一点に集めた。


「クッ!!」

「ほら、さらにお土産だ。たんと味わえよ」


 凄まじい暴風によって一点に集まった悪魔達。悪魔王ソロモンは当たり前のようにその渦の中から脱出していたが、別にそれは構わない。


 俺が狙っていたのはその配下の悪魔達である。


 エレノアによって大公級悪魔達の動きは封じられているが、その他の何十万といる悪魔達の動きを完璧に封じるのは難しい。


 天魔くんちゃん達のリソースを持ってかれているというのもあって、俺は悪魔王に攻撃が加えられなかったのだ。


 しかし、僅かな隙を見せたことによりその均衡が大きく崩れ去る。


 俺が狙っていたその瞬間は、確実に物にするしかない。


 第十級炎魔術“獄炎大爆発ゲヘナインフェルノ”。


 エレノアの十八番とも言える獄炎煉獄領域ゲヘナの名前を冠したこの魔術は、あの馬鹿げた範囲を焼き尽くす魔術を限界まで圧縮して解き放つ魔術だ。


 やっている事は爆破と同じだが、その出力と熱量があまりにも違う。


 圧縮という工程を挟むだけで威力は激増し、真空の中から空気を補充していた空間に飲み込まれた1つの火種は大爆発を引き起こす。


 ドゴォォォォォォォン!!


 あまりにも凄まじい爆発音。圧縮された獄炎の領域が解き放たれると同時に、中心部にいた悪魔達から焼け焦げて灰になっていく。


 流石はエレノアの魔術が元となった魔術だ。圧縮するのが難しすぎて、階級が二段階も上がっただけの事はあるな。


「かなり減ったんじゃないか?空を覆い隠していた悪魔の数が減って、太陽の光がよく見えるようになったな。空は綺麗だ」

「っ!!化け物が........!!」

「俺達レベルの戦いで僅かでも隙を晒したのが悪いに決まってるだろ。エレノアが相手じゃなくて良かったな?エレノアが相手だったら、今頃サンドバックになってたぜ?俺の相棒は、殴ることこそが正義って考えているヤベー子だからね」


 俺はそう言いながら、更に魔術を発動。


 第九級白魔術“天輪:四重奏リング:カルテット”を行使して、悪魔王が回復する時間を与えない。


 胴体が真っ二つになったというのに当たり前のように生きているこの化け物だが、流石に身体を切断されたのを治したともなれば体力の消費は大きいはず。


 ここで畳み掛けて、完全に動きを封じつつ、配下を確実に削らせてもらうとしよう。


「チッ!!邪魔すぎる!!」

「配下がどんどん減っていくな。ようやく狩りを始められて俺は楽しいよ。お前も楽しいか?悪魔王ソロモン」


 天を引き裂く不協和音が、空間を焼き尽くす炎の渦が、大地を揺らす爆発音が、悪魔王の配下達を襲う。


 元々、天魔くんちゃん達に数で勝っていながらも、天魔くんちゃん達を倒せないような雑魚どもだ。


 ちゃんと魔術を当てられるだけの状況が作り出せたのであれば、簡単にその数が減っていく。


 悪魔王によって強化され、移動速度が大幅に向上していたのだが、引きずり込めれば意味は無い。


 ようやく捕まえたのだ。逃がすつもりは毛頭ない。


 そうして暴れ回る事15分ほど。気がつけば俺のレベルはふたつも上がり、空を覆い尽くさんとばかりにいたはずの悪魔達はきれいさっぱり居なくなった。


 まだ生き残りがどこかに居るだろうが、少なくとも俺の脅威になるほどでは無い。


 つまり、ここからは悪魔王だけに注力して戦力を注ぎ込める。


 ある意味、ようやくタイマンができるわけだ。


「やりやすくなったな。最初の余裕はどうした?」

「クソッ。たった一人でやっていい攻撃密度じゃないだろ!!どんな魔力量をしていたら、ここまで馬鹿げた攻撃の雨を降らせられるんだ!!」

「幼少期から頑張り続けてきたお陰だな。努力は決して裏切らないとはよく言ったもんだ」


 悪魔達を倒し切ったことにより、一気に形成がこちらに傾き始めた。


 観音ちゃんや天魔くんちゃんが、本気で悪魔王との勝負に介入できるようになったためだろう。


 悪魔王はあまりにも苦しい立ち回りをさせられざるを得ない。


「そこ」

「ぬぐっ........」


 観音ちゃんの拳が、悪魔王を捕える。


 悪魔王はしっかりとガードはしていたが、思いっきり吹っ飛ばされて地面を転がった。


 普通の人間ならミンチになっていそうな勢いで地面を転がり、なんとか体制を立て直そうと画策する悪魔王と、それをさせまいと攻撃を被せ続ける俺。


 天魔くんちゃん達が常に周囲から隙を伺って魔術を叩き込んでいるというのもあって、悪魔王は本当に体制を立て直すのが辛そうである。


絡みつく鎖ディバインチェイン

「なっ、ボハッ!!」


 それでもなんとか体制を立て直してさぁ反撃と意気込んだところで、師匠直伝の嫌がらせを発動。


 簡単に引きちぎられてしまうような妨害魔術を唱えて、一瞬意識をそちらに向かわせる。


 ずっと攻撃的な魔術を使っていたから、殺意を持たない魔術への反応が遅れただろう?


 意識外からの一撃を常に意識しろと、俺の、俺達の師匠は常に言い聞かせてくれたからな。


 お陰で戦う時の性格の悪さが移ってしまった。責任取って、師匠。


 鎖を足に巻き付けられ、初動を僅かに遅らされた悪魔王はそのまま観音ちゃんの一撃をモロに食らう。


 顔面クリーンヒット。あれは痛い。


 傾城が傾いた瞬間を決して逃さず、相手に反撃を許さずに詰みに持ち込む相手の感情と思考をも利用した論理的戦略。


 師匠から学んだこの戦法は、俺とエレノアの戦い方の根幹となっている。


 まぁ、エレノアはだいぶ怪しいが。


 その戦い方は、魔界最強にも通じているのだ。


 師匠って凄いんだなと、改めて感じた瞬間でもある。


「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「........(む、弾かれた)」


 このまま完璧に勝負をたためるのではないかと言う思惑が出てきた矢先、観音ちゃんの攻撃が思いっきり弾き返された。


 分かってはいたが、一筋縄で勝たせてくれる相手では無いらしい。


「ふぅふぅふぅ........私にこれを使わせるとは、中々やるじゃないか人間。これは、出来れば使いたくなかっ────」

攻撃を続けろファイア


 ドゴォォォォォォォン!!


 観音ちゃんの一撃を弾き返し、肩で息をしながら何か言っているがそんなことはお構い無しに魔術を叩き込み続ける。


 すいません。お約束は一番最初にちゃんと守ってあげたんで、残りは勘弁してください。


「ちょ、ちょ、待っ、待て!!そこは話を聞くところだろう?!私の切り札だぞ?切り札!!聞きたくはないか?どんな効果なのか!!」

「いや死ねば終わりだし。そんなお約束のために有利な状況を捨てるほど、バカじゃないし」

「つくづく空気の読めない人間だ───!!だぁ!!危ない!!」


 明らかに悪魔王の動きが良くなった。この攻撃の嵐を的確に捌き、それでいながらちゃんと反撃までしてきている。


 パッと見た感じ、倍率の高い身体強化を使っている気がするが、どんな権能を使ったんだろうか?


 まぁ、あまり興味無いし、その説明を聞くために有利を捨てる気にもならないんたけどさ。


 と、そう思いながら攻撃を浴びせ続けていたその時、一体の天魔くんちゃんが悪魔王に攻撃されて弾け飛んだ。


 一瞬、目に見えないような速度で近づいて天魔くんちゃんを攻撃したな。


「もういい。人の話も聞かぬ礼儀のなってないやつは死んでしまえ!!」

「大丈夫天魔くんちゃん」

「........(問題ない。次はちゃんと反応する)」


 なんかプリプリと怒っている悪魔王を眺めながら、俺は減った天魔くんちゃんを補充。


 ここからはさらに激しい消耗戦になりそうだ。


 戦いの終わりは近い。

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