行くぞ相棒。狩りの時間だ
翌日。小さなパーティーを開いて英気を養った俺達は、朝早くから戦争の準備に取り掛かっていた。
どれほどの時間が掛かるのかが分からない為、念の為に食料を多めに持っておいたり、天魔くんちゃん達に搭載されている魔術の確認をしておく。
今回の戦争では、天魔くんちゃん達もフル稼働させるつもりだ。しかも、今回はガチガチの戦闘仕様にしてあり、長期戦を見据えてあれこれ魔改造を施してある。
更に、久しぶりに心理顕現を使わずに寝たので、精神力もバッチリ。
その他にも魔術の最終整理や、転移魔術のポインター確認までも済ませておく。
「........よし。これで問題ないな。今回は天魔くんちゃん達も一緒に戦って貰うから、頼んだよ」
「........(分かっております。作戦は先日教えられた通りで良いのですね?)」
「うん。最初はね。でも、作戦通りに行かないのが戦いだ。その後は臨機応変に頼むよ」
「........(畏まりました。それでは、私達は所定の位置に着きます。転移をお願いできますか?)」
「頼んだよ」
最後の天魔くんちゃんの確認を終え、転移魔術で送り出す。
あの子は戦闘力自体はほぼ無い個体なのだが、その代わりに大きな役割を持っている。
今回の悪夢王との戦いでは、大きな活躍を見せてくれるだろう。
「ジーク。準備は終わったかしら?」
「あぁ。待たせたな。天魔くんちゃん達の最終確認は終わったぞ」
「そう。なら早速行きましょうか。この魔界の王たる悪魔王ソロモンの討伐に」
悪魔王ソロモンの強さはだいたい分かっている。
俺とエレノアが二人がかりで殺しに行けば、かなりの確率で勝てるだろう。
しかし、油断してはならない。いちばん困るパターンとしては、全ての大公級悪魔の討伐に失敗して集まられること。
それだけは避けないとな。
「フハハ。遂にこの時が来たのだな。あの怠惰で傲慢なる奴に引導を渡す時だ。ジーク、エレノアよ。奴は我らのような奴では無い。確実に殺せ」
「私達が成し遂げられなかったあの日の約束を、どうか果たして欲しい。もし、厳しかったらいつでも呼べ」
「フハハ!!この2人が私達を呼ぶわけないだろう?三度の飯より経験値が座右の銘の馬鹿は弟子達だ。私達はこの村を守るだけで良いのだよ!!」
戦いの時。俺とエレノアの精神が研ぎ澄まされていく中で、師匠たちの笑い声が聞こえてくる。
かつてこの魔界にて大きな戦争を引き起こした、裏切り者と骸骨。
魔界に甚大な被害を与えたとは言えど、悪魔の王を倒すには至らず。結果として小さな村を作り細々と生きていた。
が、そんな日々も今日で終わりだ。
今日からこの村が悪魔たちにとっての王都であり、ウルはこの魔界の王として悪魔達を導くのである。
強い弱いは関係ない。悪魔達が知識を得て、好きなように好きな方に向かっていける。
そんなより善い未来を作るのだ。
まぁ、俺はそんな事に興味はない。
俺とエレノアにとって重要なのは、悪魔王や大公級悪魔の経験値がどれほどのものなのかという事。それだけだ。
この魔界最強を相手に、俺達の方が強い事を証明するだけなのである。
その後の発展はご自由に。世話になったし仲のいい悪魔も多いから、たまに遊びに行くけどね。
「気を付けてくださいジークさんエレノアさん。俺はここで待ってますので」
「デモットも気をつけてな。死ななきゃどうとでもなる。死ぬのだけは絶対に許さんぞ」
「そうよ。デモット。勝手に死んだら冥府の底まで追いかけで連れ戻すわよ」
「あはは。俺はそう簡単に死にませんよ。何せ、大師匠が俺から目を離さないでしょうからね」
「フハハハハハハハハ!!分かっておるではないか!!私が居る限り、孫弟子は殺させやしないさ。そして私は死なん。安心して行ってくるといい」
デモットの安全を気遣う俺達と、頼もしすぎる我らが師。
師匠に勝てるやつなんてそうはいない。大公級悪魔にすら余裕で引き分けられる師匠だぞ?
そう簡単に死ぬわけが無い。
と、そんなことを思っているとウルからツッコミが入る。
「ノア。君は既に死んでいるのでは?」
「む?フハハハハハハハハ!!確かに私は1度死んでいたな!!こりゃ一本取られた!!」
「........なぁエレノア。なんで俺達は戦争前に夫婦漫才を見せられてるんだ?」
「そういう人達だからよ。諦めなさい」
なんで戦争前に夫婦漫才を見なきゃならんのだ。
なにが一本取られただよ。何も取れてねぇよ。
「はぁ。まぁいいや。言ってくるよデモット、師匠、ウル。それに、ガレンさんにグランダールとヤーレンお爺さん。それと、皆も」
「ここに悪魔王の首を持ち帰ってきてあげるわ。それまでここでゆっくりしてなさい」
「気を付けてな」
「行ってらっしゃい。私達はここで待っていよう」
「先生!!待ってるぜ!!」
「久方振りの戦争ですし、少しばかり暴れましょうかね」
「どうか悪魔達の未来を........」
「ジークさん、エレノアさん。待ってます」
この二年間、魔界で出会ってきた悪魔達の声援を受けて俺とエレノアは背中を向ける。
色々なことがあったが、それは今どうでもいい。
経験値を置いていけよ悪魔王。最早何年生きているかも分からない、魔界最強の奴の経験値はさぞ美味しいんだろうなぁ?
「行くぞ相棒。狩りの時間だ」
「ふふっ、えぇ、行きましょうか相棒」
エレノアとのやり取りは短くていい。
俺達は“相棒”。それが分かればそれでいい。
俺とエレノアは、前を向きながら手を横に差し出して、コンと拳を合わせると、それぞれの向かうべき場所に転移をするのであった。
さぁ、戦争の時間だ。いや、戦争という名の狩りの時間だ。
魔界の経験値。全部貰っていくぞ。
【大公級悪魔】
魔界に4人しか存在しない、悪魔の中の悪魔。悪魔王を除き魔界最強と称され、事実クソ強い。恵まれた権能は勿論だが、何度も強者に挑み続けた経験が彼らの力となっている。
しかし、悪魔王には敵わない。かつて多くの大公級悪魔たちが悪魔王に挑んだが、その席に座ることは無かった。
ジークとエレノアが転移で消え去ったのを見送ったウル達は、早速自分達のやるべきことを始めた。
悪魔王とて馬鹿ではない。怠惰で傲慢な存在であるのは間違いないが、この戦争を誰が仕掛けてきたのかを察するのだろう。
そうなれば、この村が狙われる。
悪魔王はかつて引き分けたウルとノアとの約束により、村に干渉しなかった。しかし、戦争が起こればその約束は消え去る。
村の平穏は脅かされるのだ。
「不安だな。あの子達がいくら強いとは言えど、相手は悪魔王ソロモンだ。私たちですら引き分けるのがやっとだった相手。不安に思わない方が無理がある」
「フハハ。そうか?私は何も不安に思ってないぞ?あ、いや、不安が一つだけあるな」
ノアは知っている。ジークとエレノアは、こう言う戦いで決して負けるような者ではないと。
ノアに敗北して以来。彼らはお互いの命の安全のために、確実に勝てる準備をしてから又は逃げられるだけの保険をかけてから、戦うようになっている。
それがお互いの為であるとノアが教えたからだ。
だから、ジークとエレノアが死ぬ心配はしていない。
が、他の心配事があった。
「何が不安なんだ?」
「戦争が終わった時、果たして魔界がちゃんと残っているのかという心配だな。ジークもエレノアも、破壊の規模が桁違いだ。魔物を効率的に狩ることばかりを考えていた弊害だな。人類大陸はともかく、ここは魔界。あの二人は絶対に気を使わんぞ」
ノアの心配事は、戦争が終わったあとのものであった。
ジークもエレノアも、破壊に特化した魔術を好んで使う。
二人とも人類大陸ならば自重するだろうが、ここは魔界。文句を言ってくる者はいないのだ。
ましてや、グランドマスターから許可までもぎ取っている。
「それは........不安だな」
「だろう?もしかしたら、私たちの仕事は魔界が滅びぬように被害を抑えることかもしれんぞ?」
「それは勘弁願いたいな........」
ウルは、その不安が現実にならないようにジークとエレノアに祈るのであった。
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