魔界大戦:宣戦布告
魔界に住む者の中で、最も強いのは誰かと聞かれれば、悪魔達は口を揃えてこう言うだろう。
“それは、悪魔王ソロモンだ”と。
では、その次に強い者は誰か?と問われれば、様々な答えが並ぶ事となる。
しかし、そのどれもが“大公級悪魔”としての肩書きを持っているのは違いない。
魔界の北側、ジークとエレノアが傷だらけの王者と戦い勝利を収めた場所から更に北西に行った場所に、その大公級悪魔の一人ベルフォメットは街を構えていた。
「........やはり、この肉は美味だな。様々な高級な肉を食してきたが、そこら辺で取れるトリケラプスの肉がいちばん美味い」
「分かりますよ。ベルフォメット様。慣れ親しんだ味と言うべきでしょうか、幼い頃から食べてきたものが1番口に会いますよね」
「うむ。まさしくその通りよ。朝から食う肉は美味いな」
日が登り始め、多くの悪魔達が活動を始めるかと言う時刻。
誰よりも早く起きて、朝食を食べていたベルフォメットは、その慣れ親しんだ味に舌鼓を打つ。
彼は齢1600歳にして未だ現役の悪魔。数百年前に起きた大戦中は公爵級悪魔であったが、丁度最終決戦の時に風邪をひいてしまい、悪魔王に招集されたものの“お前帰れ”と言われてしまった悪魔である。
その後、大公級悪魔の席が空いてしまい、繰り上がりで大公級悪魔の席に座ってしまったのだ。
しかし、統治の能力と強さは本物。昨日も下克上を狙った悪魔が勝負をしかけてきたものの、片手で封殺し圧勝してしまう強さを持つ。
配下にいる悪魔達は皆家族であると考え、できる限り弱き者にも手を差し伸べる彼は人気者の支配者であった。
それでも、本当に使えない奴は即座に切り捨てる辺り、悪魔としての片鱗が感じられるが。
「しかし、ベルフォメット様は1600歳を超えたというのにまだまだ元気ですね。民も喜んでいましたよ」
「はっはっはっ。裏では“戦争でいらない子扱いされた無能”などと言われている私がか?あの日以来、健康に気を使って生活を改め、健康的な体を手にしたが未だ挽回の機会は与えられていない。戦のひとつでも起きて欲しいものよ」
「あはは。そんなかつて悪魔を裏切った“裏切り者”のような悪魔がポンポン出てきたら困りますよ。そんな世の中なら今頃────」
仲良いい配下の1人と話していたその時、平和は突如として崩れさる。
急激に膨れ上がる魔力と、それに伴い出現する魔法陣。
ベルフォメットはいち早くその以上に気が付き、配下の服を雑に持ってその場から飛び去る。
齢1600歳を超えても未だ現役と言われるその肉体は凄まじく、白い光が街を跡形もなく消し去るよりも早く街を出た。
「........無事か?」
「ゴホッゴホッ........えぇなんと........か........」
何が起きたのか分からなかった配下であったが、視線を上げて全てを察する。
消えたのだ。街も悪魔も何もかも。
残されていたのは、大きく穴の空いた大地のみ。深淵へと誘うかのごとく大きく口を開けた大地の穴だけが、そこには残されていたのである。
「残念。二人も逃したのか。見た感じ、片方は侯爵級悪魔程度しかないな?って事は、そっちの爺さんが大公級悪魔ベルフォメットか」
そして、悪魔にとって死神よりも恐ろしい存在が舞い降りる。
見た目は可愛らしい子供。少し乱暴に扱えばへし折れてしまいそうなその体と、空のように青い髪。僅かにメッシュのように入った赤髪が、朝日に照らされて強く輝く。
強い。否、強すぎる。
ベルフォメットはもちろん、その配下ですら感じ取れる絶対的強者としての圧。
かつてこれほどまでに圧を感じたのは、悪魔王以来だ。
「何者だ貴様。悪魔ではないようだな」
油断せず、慎重にその名前を聞く。
死神はニッと笑うと、こう答えた。
「アトラリオン級冒険者“天魔”ジーク。悪魔からしたら、“人間”と言った方が分かりやすいか?さぁ、さっさと始めようぜ。俺達は今日、クソ忙しいんでな」
──────────
魔界の西側。天魔と言う災害によって多くの自然と命が奪われたその土地に、大公級悪魔は住んでいる。
大公級悪魔ザンザス。その強靭な肉体は何人たりとも傷付けることは敵わず、己の肉体のみを信じて突き進む強者。
まだ250歳程度の若者でありながら、その勢いと力のみで勝ち上がってきた若きルーキーである。
「ヌン!!」
「お見事!!流石はザンザス様!!」
魔界は広く、当たり前だが時差がある。まだ日が顔を出して間もない時間から、ザンザスは己の体を鍛えていた。
ザンザスの治める街は、典型的な弱肉強食の街。
強き者は生き残り、弱き者は死んでゆく。
そんな中で、下のものに大きく背中を見せつける事で、自らの強さの証明と種としての強さの底上げを望んでいた。
「何の用だ?」
「今月の税についてなのですが........」
「俺はそういうのは分からん。勝手にやれ」
しかし、頭まで筋肉で来ているためか、統治は下手である。
力だけでは統治はできないとは知っているものの、何をしたらいいのか分からない。
結果、全てを配下に任せていた為に、この街は腐敗が進んでいる。
典型的な悪魔の街が、このザンザスの治める街なのだ。
「........俺も勉強とかした方がいいのかね?悪魔にとって力が全てだと教わってきたが、上に経てば立つほど、頭の良さが問われる。が、民は力を欲する。難しい話だ」
ザンザスはまだ若い。
悪魔の中ではまだ青年と言っても差支えがないぼとに。人間でいえば、ギリギリ20歳に届くかどうかなのだ。
学ぶべきものは多い。
世界が、学ぶことを許してくれるなら。
「───っ!!」
突如として空が明るくなり、魔力が膨れ上がると共にその輝きは増していく。
ザンザスを含め、三名の悪魔はそれが何者かによる攻撃であると悟ると、この一撃は受けきれないと判断してその場から即座に退避した。
ドゴォォォォォォン!!
そしてら太陽は落ちる。
熱烈な光と灼熱を撒き散らしながら、瞬きをする間もなくザンザスの街はいとも容易く消し炭となったのだ。
「ザンザス様!!」
「生きていたのは俺を含めて3人か。で?なんだこれは........」
「分かりませんが、相当強いということは分かります。何者かの権能でしょうか?」
運良く生き延びた3名の悪魔。
しかし、これは挨拶がわりの一撃でしかなく、放った本人からすれば避けられて当然としか思っていない。
「あら、三匹も生き残ったのね。やはり予備動作の大きくなる魔術は使い方が難しいわね。ジーク相手じゃまず通用しないから使わないし」
ザンザスはその瞬間、空から降ってきたこの女がこの惨状を生み出したと理解した。
白銀と青を混ぜ合わせたかのように輝く長髪と、悪魔をそもそも生物としてみているのかすら怪しい目。
全てを冷酷に見下すその少女は、見たことも無い武器をクルクルと回す。
武人らしい体ではない。しかし、その体から感じるエネルギーは、ザンザス達を警戒させるに十分な、否、恐怖を抱かせるには十分なものであった。
「んー、貴方が大公級悪魔ザンザスね?肉体的に優れた天性の才能と、それをさらに強化した権能だったかしら?」
「何者だ貴様!!」
ザンザスがそう言うと、その女はニッと笑ってこう言った。
「アトラリオン級冒険者“炎魔”エレノア。貴方達にも分かりやすいように言えば“人類”かしらね?さぁ、さっさと始めるわよ。私達は今日、とても忙しいの」
2年前に魔界へとやってきた二人の少年少女。
彼らは悪魔達と戦い、出会い、そして強くなってきた。
そして今日、王とその配下達に刃を向ける。
数百年前に起きた裏切り者と骸骨が引き起こした戦争、“魔界大戦”の続きをせんとばかりに。
悪魔王に宣戦布告を投げつけた。
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