進む村作り


 村の拡張の為に師匠を呼び出して、周囲から身を隠す結界を作動させてから三日後。


 悪魔の村は、倍近くの大きさにまで広がっていた。


 周囲絡みを隠すための結界は特に問題なく動き続け、一日一回魔石に魔力を補充するという工程こそ必要なものの、空からの襲撃を確実に防いでいる。


 悪魔達みんなで作った壁はトリケラプスの突撃すらも跳ね返し、角が折れたトリケラプスがフルボッコにされていた時もあった。


 戦闘力が高い悪魔達が集まってタコ殴りにすれば、破滅級魔物を一体狩る事が出来る。これは大きな進歩であり、悪魔達にとっても喜ばしい出来事である。


 その日は、みんなで狩ったトリケラプスを焼いて食べたり煮て食べたりしながら小さな祭りが開かれた。


 俺とエレノアもその祭りの雰囲気を楽しみ、村の発展を祈った。


 村が発展する過程を見ていくのは意外と楽しいものだな。


 俺は、この村が暗い雰囲気でその日を生きるのにも必死な時期を知っている。


 ウルと言う庇護がなければ魔物達に蹂躙され、その日の食料を手に入れるのも苦しいであろう時期を。


 しかし、彼らは魔術を学び、少しづつ生活を豊かにしていく術を知った。


 そうして今、村はさらなる発展を遂げて、破滅級魔物すらも狩れるようになっている。


 こうして見ると、魔術がどれほど優れた存在であるのかがよく分かる。


 大賢者マーリンは、かの世界を変えうる発明をしてしまったのだ。


「家もだいぶ完成してるな。これならそろそろ南の村の悪魔たちを呼んでも良さそうだ」

「そうね。30~40の悪魔が住むには十分な広さも家の数よ。建築に関しては悪魔達の方が圧倒的に上ね。私達では足でまといだわ」

「家づくりとかやったことないもんな。作る過程を少し見ていた時はあったけど」


 サクサクと家が出来上がっていく姿を見ると、悪魔達がいかに器用ななのかがよく分かる。


 俺やエレノアは魔術で全部済ませる癖があるので、こう言う手を使っての建築は無理だ。


 知識もないので、下手に手伝おうとするとかえって足でまといになってしまう。


 一応、木の運搬だけは手伝ったんだけどね。それ以外にやる事がなかったのだ。


「フハハ!!完成!!どうだ?」

「凄いですね!!こんなにも早く家を作られるなんて」

「フハハハハ!!久々に作ったから作り方を忘れてしまったかと思ったが、そんなことは無かったな!!意外と体が覚えているものだ!!」


 そして、何気にこの家を建てていく中で活躍しているのが師匠である。


 サクサクと家を作り、たった一人で作っていたにも関わらず一番最初に家を作り上げてしまったのだ。


 師匠って、かなりハイスペックなんだよな。普段が残念すぎるから忘れがちだが、師匠はたった一人で戦争の抑止力となれるほどの人物であり、料理もできてお茶を入れるもの上手な元貴族なのである。


 ........いや、元貴族なら家を建てるのは無理なのでは?


 やはり俺たちの師匠は変わっているな。


「褒められていい気になっているわね。ウルの視線が怖いわ」

「私以外の女に褒められていい気になりやがって。とでも言いたげだな........ウルってもしかして嫉妬深い?」

「同じ悪魔に対してはそうなのかもしれないわ。ほら、私達やシャルルさんにはそんな態度を取らないじゃない?」

「悪魔の中では私が一番!!って感じか。ウルにも可愛いところがあるんだな」


 家を作りあげて褒められる師匠。師匠はちょっといい気になっているのだが、その少し遠くでウルの視線が突き刺さっている。


 多分、師匠は単純に褒められて“まぁな!!”と言っているだけなのだが、その褒める役はウルがやりたいのだろう。


 ウルもちゃんと乙女という訳だ。


 視線が突き刺さると言っても、ウルは目隠ししていて目が見えないけど。


 なんだっけな。確か、見えすぎるから情報を遮断するために目隠ししてるんだっけ?


 つまり、ウルは六眼の使い手だった........?!


 これは緊急で動画を回さないとな。“私、気づいちゃいました”から始まる動画を撮影しないと。


 そんな考察系動画の真似を頭の中で浮かべつつ、俺も細々としたことを手伝っていく。


 木の粉とかの掃除や、木の運搬はもちろん、家を作ってくれている悪魔達への料理を作るのだ。


 どうせなら手の込んだ美味しいやつを作ってあげようと言うことで、トリケラプスの骨からじっくりと出汁を取ったスープを既に仕込んでいたりする。


 しばらく時間が立てば、お昼の時間。


 俺は鍋をあっためて最後の味付けの調整をすると、悪魔達を列に並べてご飯を配っていく。


「熱いから気をつけて食べなよー」

「ありがとうございます先生」

「いい匂いだな先生!!」

「火傷するなよー?」


 なんというか、学校の給食を思い出す。


 一人一人のご飯を付けて配っていくこの感じ。なんだか懐かしいな。


 食堂のおばちゃんとかそういうのになった気分でもある。


 なんだか自然と言葉遣いが、おばちゃんになってしまいそうだ。


「ウッマ........なんだこれすごく美味いぞ!!」

「ジーク先生は料理が得意とは知ってたけど、うますぎるだろこれ。エレノア先生とかこんなのを毎日食ってるのか?羨ましいなぁ」

「凄く美味しい!!なにこれ凄い!!」

「後でレシピとか教えて貰えないかな........私のお店で出したいわ」


 手の込んだ料理を作ったこともあって、俺の料理を食べた悪魔達は次々に“美味しい”と口にしながら料理を食べていく。


 この魔界だけで取れた食材を使って作ったゴロゴロスープ。


 肉を多めに入れているので、かなりガッツがありつつも味わいはサッパリとしているのが特徴だ。


「ふふっ、ジークの料理に驚いているわね。ジークの料理は世界一なのよ!!」

「なんでエレノアが嬉しそうにしてるんだよ」

「だってジークの料理が認められたのよ?私が嬉しくないはずもないじゃない。この世界で一番ジークの料理を食べてきて、ジークの料理を味わってきたのだからね。自分の好きな物が褒められたら、嬉しくなるのは当然よ」


 悪魔達の反応を見て、どこか誇らしげなエレノア。


 エレノアは俺の料理を1番多く食べている。いつも俺が作った料理を美味しそうに食べてくれるものだが、作る方も楽しくなって作ってしまうのだ。


 そんなエレノアは、俺の料理に誇りを持っているらしい。


 俺の料理は世界一と言わんばかりに、悪魔達が俺の料理を美味しそうに食べると喜んでくれるのだ。


 こういう所があるから、俺はエレノアに料理を作ってしまう。


 作られる側からすれば、これほどまでに俺の料理を好きでいてくれる客は貴重で励みになるのだ。


「お、デモットじゃないか。家の進み具合はどうだ?」

「順調ですよ。ナレちゃんもできる限り手伝ってくれますしね。痒いところに手が届くので、助かってます」

「ふふん」


 料理を配っていると、デモットとナレちゃんがやってくる。


 デモットは基本的になんでも出来る。家づくりだってお手の物。よって、この家づくりには参加していたのだ。


 そして、その手伝いとして頑張ってくれているナレちゃん。


 大好きなデモットに褒められたのが嬉しかったのか、胸を張って“えへん”とドヤ顔を浮かべている。


 ナレちゃんは随分と大人びた性格をしているが、デモットの前だと子供に戻るんだよな。


 こうして傍から見ている分にはとても可愛い。


 俺は未だにちょっと恐れられているのか、あまり関わろうとしてこないのが残念だが。


「このあとも頑張れよ」

「はい!!」

「頑張る」


 ただ、今日は機嫌がいいのか俺と目を合わせて話してくれるのであった。


 デモットが褒めてくれたからね。

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