歴史的な始まりの時


 家づくりを進める初めてから七日が経過した頃。遂に村として機能するだけの施設を作り終えた俺達は、南の村の悪魔達を呼ぶ運びとなった。


 かつて戦争に参加し、かの王に剣を向けた裏切り者に付き従った生き残り。


 グランダールの全てと言っても過言では無い村は終わりを迎え、新たな時代を歩む時が来たのである。


 過去の国々もこんな感じで小さなコミュニティが集まって大きくなって行ったのかと思うと、俺は今歴史の転換点に立ち会っているのかという気分になるな。


 かつては小さな人々のコミュニティだった村が集まり街となり、やがてその街が集まって国となる。


 魔界はその大陸一つが大きな国のようなものになっているが、繋がりが薄すぎてそれぞれが独立した国家のような形になっているし。


 あれだな。小国が集まって大国と成す。連合国とか連邦国みたいな感じだ。


 そのまとめ役が悪魔王と考えると、なんだかしっくりくる。


 人類大陸と違って横の繋がりが薄いから、その分戦争も起きにくい。


 ある意味の平和を体現しているわけだ。


 その平和、俺達がぶっ壊してるけど。


 逆に俺達のような敵が出てきた場合、迅速な対処が出来ないと言うのが欠点かな?


 そんな国家の在り方を考えながら、俺とエレノアが南の村へと降り立つ。


 そこには、既に移住の準備を済ませた悪魔達が集まっていた。


「む、来られたなジーク殿エレノア殿。待っておったぞ」

「やぁ、グランダール。調子はどう?」

「ハッハッハ。お陰様で昔以上に気分がいい。既に諦めていたウル様の元でまた悪魔達の新たな歴史を作れるのだからな」


 そう言いながら、無くした腕をさするグランダール。


 グランダールとは短い付き合いだが、俺は一つ分かったことがある。


 この人、ウルの狂信者だ。


 ウルが絶対。ウルの言うことが正義。


 兎にも角にもウル、ウル、ウルなのである。


 そこに恋愛感情とかが存在していたら大変なことになっていただろうが、生憎この狂信者はそのような感情は持ち合わせていないのが救い。


 しかし、神として崇める狂信者との付き合いと言うのは非常に面倒だったりするのだ。


 ほら、かつて二体の魔王とやりあったあの紅茶の街の住民とか........


 サリーさんとか、完全に俺たちを見る目が神その物だからな。いつの間にか、俺達を神とした天炎魔教だったかそう言う宗教ができてたし。


 悪意がないのが余計に辛い。俺達は神ではないのに、神として扱われるって意外と気まずいのだ。


“我は神なり!!”とか言って神の代行者を偽る奴らの気が知れない。本当に神扱いされてみろってんだ。


 ウルも己が神として扱われる苦しみが分かるだろう。フッフッフ、ウルの困った顔が目に浮かぶぜ。


「ジーク、悪い顔をしているわよ」

「え?そんな顔してた?」

「私には分かるぐらいね。どうせ、同じ神として崇められる同士、傷を舐めあえるとでも思ったんでしょう?」

「そこまで思考が読めるのは、最早恐怖だよ。俺の思考を読む魔術でも開発した?」

「んなもん長年の付き合いで分かるわよ」


 長年の付き合いでも分からねぇよ。いや、俺も何となくエレノアの考えている事が読めるけどさ。


 そんなピンポイントで正確には無理よ?流石に。


 サラッと人の脳を覗き見るエレノアに恐れを抱きつつ、俺は今か今かと待ちわびるグランダールに視線を向ける。


 こうして見ると、尻尾を振って主人に会えるのを楽しみに待つ子犬だな。


 全く可愛くないが。


「それじゃ、行くぞ。転移は酔うから気をつけてくれ」

「うむ。よろしく頼む」

「よろしくお願いしますジークさん」


 こうして俺は、南の村の悪魔達を連れてウルの村へと転移する。


 転移は便利な魔術だ。空間酔いを引き起こすと言う欠点を抱えていたとしても、その使い勝手の良さは俺の知る全ての魔術には及ばない。


 一瞬で南から北へと移動した俺は、素早く酔い醒ましの魔術を掛けてやりつつ視界が切り替わったと同時に両手を広げる。


「ようこそ、新たな村へ。ここの悪魔たちは君達を歓迎するだろう」

「おぉ、これが村長の言っていた裏切り者が治めると言う村........」

「凄いわ。私達のいた村よりも明らかに豊かよ。パッと見ただけで分かるわ」

「なんだこりゃ。すごいな。見ろよあの壁。魔物なんざあれで弾き返せちまうよ」


 俺が転移で悪魔達を連れてくると、悪魔達は村を見て早速その豊かさと文明の高さに驚く。


 ここは、彼らが住む事となる悪魔達が作った結界の内側。


 現在ウルの村の悪魔達が住む場所よりも圧倒的に劣る場所なのだが、ここですら彼らにとっては楽園のように綺麗で安全な住居となっている。


 ここから畑を作ったり、多くの店やらなにやらが出来上がっていくと考えると、楽しみだな。


 南側の悪魔しか持っていないような文化が持ち込まれて、独自の文化が形成されるかもしれない。


 そんな村の未来のことを考えていると、ウルが待ってましたと言わんばかりに前へ出てくる。


 一応この村の村長だからね。そりゃ村長としての仕事をするのだ。


「ようこそ南の村の悪魔達よ。この村の村長であるウルだ。君たちでも知っている呼び方をするならば“裏切り者”と呼ぶのがふさわしいかな?」

「ウル様。そこら辺の事情は全て村人達には説明しております。決して失礼のないよう、言い聞かせてありますので」

「そ、そうか。流石はグランダールだな仕事が早い」


 ウルとしては、“な、なんだって?!”という反応が欲しかったのだろう。


 既にネタバレされていた事が少しショックだったのか、目に見えてテンションが下がっていた。


 なお、それを裏から見ていた師匠がケラケラ笑っている。


 後で絶対ウルに怒られるぞ師匠。


「ゴホン。私を知っているなら話は早いな。ここは私が村長を勤めている村だが、主役は君達だ。君達の手でこの村を大きく発展させて欲しい........と、言われてもまずは旅の疲れを癒してもらわねばな」

「ウル。転移できたから疲れとかないと思うよ」

「そうね。疲れはないわよね」

「なんだお前ら、私の話の腰を折るのがそんなに楽しいのか?嫌がらせなのか?」

「フハハハハ!!フハッ、フハハハハ!!」


 思わず突っ込んでしまった俺とそれに乗っかるエレノア。


 そして、そのツッコミを聞いて大爆笑する師匠。


 ウルは何もかも想定通りに進まなかったことに軽くイラッときたのか、師匠に向けて風の弾丸を飛ばした。


 パァン!!と弾ける音。


 恐らく、風の流れを操って飛ばした弾丸だ。


「フハハハハ!!思い通りにいかないと機嫌が悪くなるとか貴様は子供か?乳離れが出来ぬようだな!!」

「ジークとエレノアは思わず言ってしまったからまだ許せるが、お前は明らかに私をバカにしていただろう?殺されたいのか?」

「フハハハハ!!やれるものならやってみるといい。かつての喧嘩に蹴りをつけるか?」

「上っ等!!」


 そして始まる痴話喧嘩。


 お互いに自分たちが居る場所が村の中だと分かっているので、村が壊れない程度の出力しか出てないが、今来たばかりの悪魔達がドン引きしている。


 そりゃ引くよな。村長がいきなり喧嘩を始めるんだから。


「フハハハハ!!ほれ!!お返しだ!!」

「ふん!!そんなもの効くはずも無いだろう?!」


 楽しそうに喧嘩してらぁ。


 俺は困った表情を浮かべ、この村に来た悪魔達に村の紹介をしてあげた。


「これがこの村の村長だ。ちなみに、あそこで“フハハハハ!!”と笑っている女の人は、裏切り者と共に戦争を引き起こした骸骨だよ」

「「「「えぇ........」」」」


 えぇ?!という驚きよりも、“マジかよ”と言う落胆。


 一部の悪魔たちはウルや師匠を英雄視しているらしいし、想像と違いすぎるんやろうなと俺は思うのであった。

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