特殊個体ダンジョン

師匠カムバック


 戦争の生き残りと新たな村を見つけたり、侯爵級を飛ばして公爵級悪魔とやり合ったりと色々なことがあった南の大地。


 グランダールと出会った事により、南の大地の攻略が遅れてしまった俺達であったがその攻略は一旦お預けとなっていた。


 なぜか。


 それは、村の拡張を手伝う為である。


 ボニーさん達を中心にして計画されていた村の拡張。新たな村の住民が増えるという事もあって、この計画を前倒しにして行われる事となったのである。


 周囲の安全を確保するための魔術は既に開発済み。俺やエレノアも作ったことがない魔道具を作り出した彼らは、これからどのようにして村を大きくしていくのだろうか?


「フハハハハ!!久しいなジーク、エレノアよ!!魔界での暮らしはどうだ?」

「悪くないよ。魔界の魔物の肉も美味しいしね」

「ご飯が美味しいと言うのはやっぱり重要よね。ジークが作ってくれると言うのもあるんだけど」

「フハハ。お前達のそういう所は本当に変わらんな。私の所で修行をしていた時も、ご飯が大事だとよく言っていた気がするぞ?」

「そりゃ、ウチは料理店だからね。父さんと母さんの作ってくれるご飯を食べ続けていたら自然とそうなるよ」

「私はジークの料理を食べ続けていたのが原因かしらね?結果的にデッセンさんとシャルルさんのご飯を食べていたと同じよ」


 村の拡張の為、ウルに連れてこられた師匠。


 師匠は俺達を見つけるやいなや、調子はどうかと聞いてくる。


 骸骨の時は雰囲気だけを感じていたのだが、超絶美女に変身している今の師匠はとても表情豊かである。


 その目は、まるで我が子を見守る母のように優しかった。


「フハハ。この身体となって後悔したことはほぼ無かったが、唯一デッセン殿とシャルル殿の作る料理が食べられないのは後悔している。あの料理を食べているもの達は皆、嬉しそうに楽しそうに食べるものだ」

「俺が生まれるよりも前から、多くの冒険者達の胃袋を支えてきた料理だからね。下手をしたら自分達の親よりも食べた回数が多いんじゃない?」

「ゼパード達はきっとそうでしょうね。母の味がシャルルさんの作る料理になっているはずだわ」


 あの店がいつから開いているのかは知らないが、少なくとも俺が生まれるよりも前から開いているのは知っている。


 確か、俺がお袋のお腹の中にいる時に冒険者を引退したとか言っていたから、多分十数年ぐらいはやってるんじゃないかな?


 そう考えると、かなり長生きしている店と言えるだろう。


 地元に愛される良い店だ。


「フハハハハ!!確かにゼパードたちは毎日のように来るからな。そして、毎日のようにデッセン殿達にからかわれておる」

「そう言えば、ゼパードのおっちゃんとフローラは出来たんでしょ?結婚とかはまだなの?」


 何かと女運がない、女性の扱い方が悪くてモテないゼパードと、多くの男性から好まれるフローラは去年あたりに出来てきたはずだ。


 この世界の基準ではかなり遅いタイミングでのくっ付いたが、その後どうなったのかを聞いていない。


 師匠の話し方からして別れたとかは無さそうだけど。


「まだそこまでは行ってないようだな。難儀なものよ。素直になれぬフローラと、察してやれぬ朴念仁。あれではまだまだ先が長そうだ」

「........想像できるのが嫌だな」

「想像出来てしまうわね。フローラも意外と奥手だから、遠回しにものを言うでしょうし、ゼパードは察しが悪いから気が付かない姿が」

「んで、ラステルやグルナラ辺りに殴られてるだろうな........主にゼパードが」

「フハハ。その通りだ。毎度毎度同じ光景を見させられる身にもなって欲しいがな。最近はデッセン達も呆れている」


 女性の扱いがとことん下手なゼパードの事だ、どうせフローラの遠回しな言葉をそのまま受け取って変な誤解を産んでいるに違いない。


 可哀想にフローラ。あんなおっちゃんを選ぶから........


 まぁ、基本的にゼパードが悪いのだろうが、本人達が楽しければそれでいい。


 俺やエレノアが口出しをする権利は無いし、また家に帰ったら温かく見守ってあげるとしよう。


「ゼパード........あぁ。あの朴念仁か。あれは酷いぞ?勇気を出して誘ったフローラの言葉をそもそも聞いていなかったり、言葉通りに受け取るからな。1発殴ってやろうかと思ったものだ。ノアですら気が付くと言うのに」


 家や街の状況を色々と聞いていると、ウルが会話に入ってくる。


 そうか。ウルは毎日師匠に会いに行っているから、当然ゼパードとフローラの二人を見ている訳か。


 魔界では元大公級悪魔、それも王剣を向けた裏切り者として恐れられるウルだが、あの店ではただの店員となる。


 と言うか、大公級悪魔であると知りながら普通に店員として働かせるお袋も中々にやばいけどな。


 息子以上にキモが座っている。


 一応説明したはずなんだけど。人類大陸で言う、公爵家よりも偉い人って。


 そんな悪魔を相手に、当たり前のように配膳を頼んだりするらしい。


 ちゃんと給料は払っているらいしのだが、そういう問題じゃないんだよなぁ........


「シャルル殿も呆れ返っていたぞ。そして、デッセン殿が以下にマトモであったのかを再認識していたな」

「父さんはかなり空気が読めるからね。あれほど優良物件も早々ないよ。母さんもだけど」

「デッセンさんもかなり素晴らしい人だものね。まぁ、偶にやらかして怒られるとは聞いたけど」

「ウチじゃいちばん強いのは母さんだからな。俺も逆らえん」

「フハハハハ!!母は強しという訳だ!!ちなみに私も逆らえんぞ。と言うか、逆らう理由がない」

「私もそうだな。逆らう理由がないし、逆らえない」


 やはりお袋。お袋が最も強いのか。


 戦闘能力で言えばここにいる誰よりも弱いはずなのに、誰一人としておふくろに勝てる気がしない。


 ほんとうにあの人だけ別の世界線に生きてるだろ。乙女ゲーとか、ギャルゲーとかそっちの世界の住人にしか思えない。


 ........はっ!!もしかして、俺が放置ゲー理論を用いて世界最強になろうとしているのと同じく、おふくろは乙女ゲー理論で世界最強を目指しているのでは?!


 しまった、敵は最も近くにいたではないか。お袋を倒し、俺は乙女ゲーを否定する!!


 ........と、そんなアホな事を考えつつ、俺達はその後も家の様子を色々と聞いてみた。


 冒険者以外の人達もやってくる事によってさらに繁盛している我が家の料理店だが、ココ最近噂が噂を呼んだのか街の偉い人が来たらしい。


 貴族の下で街を管理する人だな。


 評判は可もなく不可もなく。市民のためを思って行動してくれてはいるが、特段優秀とかでは無いと言うちょっと可哀想な人だ。


 俺も出会ったことは無い。


 その人がやってきてご飯を食べていたらしいのだが、ウチの料理はあくまでも冒険者向け。


“この値段でこのボリュームと美味しさは素晴らしい!!”とベタ褒めされたらしい。


 それ以降、ちょこちょこ顔を出してはご飯を食べていくんだとか。


 あれ?うちの家族もしかして、街での権力も手にしてる?


「元が平民だったのもあって、舌がその時の味を覚えているのだろうな。中々に好評であったぞ」

「あの時ばかりは2人も緊張した顔をしていたな。1つでも難癖を付けるものなら、私が殺していた」

「ダメだよ?店が潰れるからね?」

「なぁに、その時はこちらに来てもらって新たに料理屋をやってもらえばいい。と言うか、中々に名案だな?」

「それをやったら、私が貴様を殺すぞウル」

「冗談だ。そんなに怒るなノア」


 一瞬顔がマジだったウルに若干の不安を抱きつつも、俺は両親が楽しそうにやっていけているのを聞いて一安心するのであった。


 今度帰る時は、何をお土産にしようかな。

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