滅びゆく公爵級悪魔の街
相手があまりにも経験不足であった事から、激戦が予想されていた公爵級悪魔との戦いもあっけなく終わってしまった。
多分、公爵級悪魔の中でも最弱の部類に入るだろう。
1番強い侯爵級悪魔と戦わさせたら、ワンチャン負けそうなぐらいには弱かった。
やっぱり、1つしか攻撃手段を持たないってのは危険だよな。
師匠が口煩く“魔術以外の戦い方も覚えろ”と言っていたのがよく分かる。
だから俺も未だに剣を手放すことは無いし、エレノアに至ってはトンファーがメインの戦い方をするようになったのだ。
近接格闘術もしっかりと修めていなければ、いつの日か自分の首を絞める。
昔のエレノアのように、不意打ちされてゴブリンに敗北するなんてことも有り得るのだ。
彼は、その経験がなかった。
そして、その初めての経験の相手が俺であったのだ。
運があまりにも悪すぎる。
「お疲れ様ジーク。見ていた感じ、余裕そうだったわね」
「実際かなり余裕だったよ。まだまだ経験不足っだったな。一つしか手札のないやつってのは、それが封じられたら何も出来ないんだよ。時代はオールラウンダーだ」
「ふふっ、それは確かにそうね。あの悪魔も、もっと早い段階でそれに気がついていたら手強い相手になっていたかもしれないわ。昔の私のように」
「運が悪かった。それだけの話だよ。さて、それはそれとして村に被害は?」
「無さそうね。1人も欠けることなく無事よ」
公爵級悪魔に襲撃されたが、村は無事だったようだ。
一応転移してきた時に被害状況は確認していたけど、念の為にね。
これで死者が出ていたら、それはそれで面倒だし。
「助けられたな。私一人ではどうしようもなかった。感謝する」
「いいよいいよ。ウルの知り合いだったし、そのよしみでね。それと、今後同じ村に住むもの同士だ。困った時は助け合いだよ」
「ハッハッハ。そう言ってくれると有難い」
無事に死者を出すことなくことを終えた俺に礼を言うグランダール。
元子爵級悪魔だったらしいから、流石にあの悪魔を相手にするのは厳しかったのだろう。
その額からは僅かに汗が流れ出ていた。
「ところで、ひとつしがない質問なのだが、人間は誰しもがこれほどまでに強い存在なのか?」
「いや?ここまで強いのは俺とエレノアぐらいだろうよ。人類大陸という枠組みで考えればもう少しいるだろうけど、人類の中では俺達が最高峰なんじゃないか?」
「まぁ、少なくとも冒険者な中では最高峰ね。アトラリオン級冒険者だなんて言う新しい階級を作るほどには強いわ」
「そのアトラリオンと言うのがよく分からんが、なるほど。ジーク殿とエレノア殿は人類の中でも最上位に位置する強さなのだな。良かった。これが人類の平均だとか言われたら、私はひっくり返るところだったよ」
俺たちレベルの強さの人類がわんさかいたら、やばそうだな。主に経験値の取り合いで。
俺とエレノアは傍から見ればかなり無理なレベリングをしている。全人類が同じようなことをやっていたとなれば、人類大陸には魔物が存在することはなくなるだろう。
だって経験値だし。経験値のために俺達は旅をしているのだ。
そんな世界だったら、ワンチャン人類を経験値として殺戮を始めていたかもしれん........いや、その場合は返り討ちに合うな絶対。
「しかし、良いタイミングで見つかったものだ。村の者達の説得も楽になる。誰も欠けることなく事が終息してくれたおかげだな」
「ん?何言ってるの?まだ終わってないよ」
「そうよ。相手が喧嘩を売ってきたんだから、私達はその喧嘩を買ってあげないといけないわよ」
「む?」
俺達が何を言っているのか理解出来ず、首を傾げるグランダール。
公爵級悪魔が来たってことは、近くに公爵級悪魔が治めていた街があるってことだろ?
襲撃されたのであれば、襲撃し返すのが常識だよな?ましてや、ここは魔界。
相手は悪魔であり、貴重な経験値なんだから。
「グランダール。公爵級悪魔の街がどこにあるのか教えてくれない?今から滅ぼしてくるわ」
「ふふっ、よく見ておきなさい。ジークの魔術は凄いわよ?」
「は、ハハハ。期待させてもらおう........」
おいおいどうしたグランダールくん。顔が引き攣ってるぞ。
こうして俺達は、主を失った公爵級悪魔の街へと向かうのであった。
消化不良を起こしてるし、ここは気持ちよくイッパツドカーンをさせてもらうとしよう。
大丈夫。苦しむことは無いからね........多分。
【
設置型の第九級黒魔術。第九級黒魔術の中では対単体最強格の威力を誇り、闇が相手を食らいつくしてしまう魔術。
威力を底上げしている代わりにスピードが遅く、完全な不意打ちでないと中々決まらないのがネックではあるものの、使い方次第で絶望級魔物も殺せる。尚、エレノアは普通に耐えるし、なんなら殴って迎撃できる。化け物か?
元子爵級悪魔、グランダール。
彼はかつて裏切り者である悪魔と頭のネジが外れた骸骨が引き起こした戦争に参加した、兵士であった。
黒翼と呼ばれたその部隊は、多くの情報を敵軍から持ち帰り戦争を優位に進めるためのものである。
しかし、最終決戦の際、彼以外の仲間達は死に、グランダール自身も左腕を失う重症を負ったのだ。
それから数百年後。今度は2人の人類が戦争を引き起こそうとしている。
彼は、公爵級悪魔を殺した人間の実力を侮っていた。
「おー、あれが公爵級悪魔の街か。ほかの街と比べてやっぱり大きいな」
「観光してしてみたかったけど、今日は予定が詰まっているからお預けね。また違う時に違う街で観光しましょうか」
「だな」
公爵級悪魔の街を見て呑気な感想を浮かべるジークとエレノア。
そんな二人を見て、グランダールはかつてのウルとノアの影を見ていた。
『ほう!!あれが公爵級悪魔の街か!!フハハハハ!!壊しがいがありそうだな!!』
『おい、今回の作戦は食料の強奪だ。全部壊すような真似はするなよ?』
『分かっておる!!が、それが終われば好きにやって良いのだろう?』
『全く、お前と言うやつは........』
かつて悪魔王に剣を向けた二人の反逆者。グランダールにとって、あの二人は大きな人生の転換点と言える存在だっただろう。
悪魔のあり方に疑問も持たず、弱肉強食の世界に身を置く。
何も間違ってはいない。しかし、必ずしも弱者が強者に全て劣る訳では無い。
弱者の中にも強者よりも優れた部分があるはずだ。悪魔の発展、進化にはさらなる大きな変革が必要である。
そう思って彼女たちの後ろを歩いてきた。
(懐かしき光景だな........私も歳を取ったものだ)
今はその影を二人の人類に見ている。
生きていて二度目の挑戦。この命が尽きようとも、自分が望んだ、見たかった悪魔たちの未来を紡ぐ。
そう思いながらジークとエレノアを見ていると、ジークが動き出した。
「最近、サメちゃんを活躍させてやりたいと思ってな。こんな魔術を作ってみたんだよ」
ジークはそう言うと、天に向かって手を伸ばす。
それは、海の捕食者達の戯れ。
自然に飲み込まれたものたちは、自然の中で食われゆく。
「
突如として現れるは、天にも登る水の竜巻。
しかし、ただの竜巻ではない。その中に見える黒い影。
グランダールは知らないが、あれはジークのお気に入り魔術の一つ、サメちゃんたちの群れ(魔改造済み)であった。
「........は?」
まさか、目の前に水の竜巻が浮かび上がるとは思っていなかったグランダールは、呆然とその光景を眺める。
そして、気がついた時には全てが食われ、全ての悪魔達が死していた。
「よし、おしまい!!サメちゃんたちも楽しそうだったな」
「ふふっ、中々可愛かったわね」
本当に彼らが悪魔達の未来を切り開いてくれるのか。
グランダールは少しばかり不安になるのであった。
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