天魔vs公爵級悪魔


 天魔くんちゃんから連絡により、南の悪魔の街が襲撃を受けていることを知った俺は、エレノアと村長であるグランダールを連れて即座に村へと転移した。


 アルバスが侯爵級悪魔以上の存在の居場所を知っているということは、割と近めの場所に街そのものが存在しているということ。


 ふとした瞬間に見つかり襲撃を受けるなんてことも、有り得るのは当然だ。


 悪魔達は街を襲撃しないわけじゃない。


 爵位が欲しいからと言って殴り込みに来たりするのである。


 それが村となれば、暇つぶしに襲われても不思議では無いのだ。


 念の為に天魔くんちゃんを仕込んでおいてよかったな。また、彼だけが生き残り、自らを責める事になるところだった。


 連れてきた俺達も気まずいしね。いや流石に。


「アルバス!!」

「村長!!襲撃です!!それと、よく分からない存在が我々を守っています!!」


 村の中に転移を終えた瞬間、グランダールが焦った表情で村人達の元へと駆け寄る。


 明らかに不安と混乱を孕んだ表情をしていた悪魔達であったが、自分達の村長が帰ってきたというのもあって落ち着きを取り戻していた。


 これだけで、どれ程村長がこの村で信頼されているのかがよく分かる。


 きっと、普段から村の悪魔たちに寄り添って色々と切磋琢磨してきたのだろう。


 ウルと同じだ。ウルが来るとみんな喜ぶからね。


「取り敢えず被害はないようだな。流石は俺の天魔くんちゃん。仕事はしっかりとこなしてくれる」

「その天魔くんちゃん、戦ってるわよ?ほら、あそこ」


 村への被害が無いことを確認し、一安心した俺はエレノアが指を指す方向に視線を向ける。


 空の上、そこでは天魔くんちゃんと1人の幼い見た目をした悪魔がやり合っていた。


 あれが侯爵級悪魔か?にしては強くなりすぎじゃね?


 前回戦った辺境伯級悪魔から随分と強くなっている。


 急にインフレが起こったのかと言わんばかりの強さだ。


 まぁ、天魔くんちゃんが余裕を持って戦えている時点であまり大したことは無いのだが。


「グランダールは村の悪魔達を落ち着かせておくといい。俺達はアレを始末してくる」

「ま、待て!!やつは公爵級悪魔だぞ!!」

「大丈夫。俺たちよりは弱いから。それと、侯爵?公爵?」

「偉い方の公爵だ!!私はやつを知っている!!若干14歳で公爵級悪魔へと成り上がった天才。ベレゼドだ!!」

「はへぇ。公爵級悪魔か。エレノア、俺が貰ってもいいか?」

「いいわよ。この前の街は私が貰ったしね」


 侯爵を飛ばして、公爵級が相手か。


 いいね。楽しくなってきたじゃないか。


 貰える経験値もさぞ多いことだろう。


 俺はそう思いながら、公爵級悪魔と戦う天魔くんちゃんの元へと転移する。


「ん?」

「........(ん、主人。おかえり)」

「ただいま天魔くんちゃん。どう?相手は?」

「........(私達が殲滅用の魔術を搭載して攻撃的な個体なら勝てるぐらいには弱い。経験が足りてないのか、動きがとても素直)」

「なるほど。グランダールの話じゃ14歳らしいし、仕方ないのかもな。俺達も明らかに強くなれたのは師匠と出会ってからだし」


 俺はそう言いつつ“お疲れ様”の意味を込めて天魔くんちゃんの頭を撫でてあげる。


 天魔くんちゃんは俺やエレノアの事が大好きだ。


 ちょっとスキンシップをしてあげたり、遊んであげるだけでテンションがものすごく上がる。


 いつも頑張ってくれている彼ら(彼女ら)に出来ることは少ないが、このぐらいなら幾らでもやってあげるのだ。


「........(フヘヘ。主人のナデナデ。やったぜ)」

「お疲れ様。あとは俺がやるよ。村を巻き込まないように注意するけど、一応魔術はそのままでよろしくね」

「........(はーい!!)」


 元気よく手を挙げて返事をした天魔くんちゃんを見て少しばかり和みつつ、ご丁寧に待ってくれていた公爵級悪魔と対峙する。


 こいつ、空気が読めるな。魔法少女が変身している時とかちゃんと待ってくれるタイプだ。


「お話は終わったか?」

「待ってくれるなんて優しいな」

「そりゃ、ここで空気も読まずに攻撃したらダサいじゃないか。強いやつは、余裕を見せるんだよ」

「へぇなるほど。俺は空気が読めないダサいヤツだから、お前の名前も聞かずに攻撃するね。開け死の門よ。天の門よ」

「はぁ?!ちょっ!!」


 敵対的存在である相手に情けなどかける必要は無い。


 不意打ち上等、勝ったやつが正義である。


 という訳で、俺は相手の名乗りも聞かずに攻撃を開始。


 公爵級悪魔が相手らしいが、試しにいつもの門を開いてやった。


 地獄門ヘルゲート天門ヘブンズゲート


 同時行使した魔術が、公爵級悪魔ベレゼドを襲う。


 黒と白の無数の手が迫る中、ベレゼドは素早く回避行動を取りつつその手を迎撃した。


「ちっ、厄介な!!」

「おー、やっぱり公爵級悪魔が相手ともなると、魔術一つで片付けるのは無理だな。いや、正確には二つ使ってるんだけどさ。じゃ、追加、行ってみよう」


 公爵級悪魔ともなれば、その戦闘能力はかなりのもの。


 俺は腕から逃げルベレゼドに感心しつつ、この程度なら問題ないと判断して容赦なく攻め立てる。


 魔術の多彩さと生成速度の速さだけは自信を持っているのだ。手数の多さならば、師匠にすら勝てる。


「くっ........!!くそっ!!」

「右脇ががら空きだな」

「ゴフッ!!」

「ほら、次は左」

「ガハッ!!」


 天魔くんちゃんが言っていたとおり、かなり動きが素直で攻撃が当てやすい。


 本当に経験が少ないのだろう。俺達のように毎日のように魔物を相手に戦ったり、骨が折れるレベルの手合わせをし続けたりもしてこなかったようだ。


 ちょっとフェイントをかけて先読みの攻撃をするだけで、ボコスカに殴られてくれるのは楽だが、ここまで簡単にボコれると本当に公爵級悪魔か?と思ってしまう。


「クソガァァァァ!!舐めるなよ!!」


 そして、遂に限界を迎えたのか力の限り周囲にあった魔力を吹き飛ばした。


 目に見えない力。多分これが相手の権能なのだろう。


 完全な初見殺しの権能だ。かつては“死ね”の一言で相手を殺す権能を持った悪魔も存在していたらしいし、意外とこういう初見殺しの権能は多いのかもしれない。


 ま、俺からすれば関係の無い話だ。


 だってもう終わりだし。


「いきなり攻撃してきやがって!!いい気になるなよ!!」

「あっそう。さよなら」

「は?─────」


 興味無さそうにそういう俺は、仕掛けておいた魔術を発動させる。


 俺の攻撃が全部防がれる捌かれるのなんて想定済みだ。それを見越して魔術を仕掛けてないと、痛い目を見るのはこっちなんだよ。


 主にエレノア相手だと骨が折られる。物理的に。


 第九級黒魔術“漆黒の捕食者ブラックグリード”。


 この魔術は、相手を喰らい尽くす漆黒の闇を出現させる魔術だ。


 エレノアのような素早い相手とかになると避けられる為、あまり使わない魔術なのだが、こうして奇襲役としての性能はかなり高い。


 スピードを落とした代わりに威力を底上げした感じだな。対単体用第九級魔術の中では上位に入る威力を誇る。


 それこそ、天輪よりも威力は高い。


 フッと闇に飲み込まれたベレゼド。


 悪魔はやがて闇に溶かされ、静かに静かに消えてゆく。


「公爵級にしては弱くないか?初見殺しが主体っぽかったし、俺との相性が悪かったのかね?」

「........(さすが主人!!かっこいい!!)」

「ありがと天魔くんちゃん。今日は一緒に寝るか?」

「........(いや、それはエレノア姐さんが怖いからちょっと........膝枕して欲しい)」

「分かった。後でやってあげるよ」

「........(やったー!!)」


 こうして、初の公爵級悪魔の討伐に成功した俺は、なんか消化不良だなと思いつつもレベルが上がったことを喜ぶのであった。


 経験値はそこそこ多かったな。これでもレベル391。もうすぐ400レベルに到達だぜ。

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