天魔くんちゃんvs公爵級悪魔


 その日、ジークに村の護衛を任されていた天魔くんちゃんは、陰に潜りながらのんびりと村の観光をしていた。


 天魔くんちゃんも知るウルの村との違いを見つけては、“こんなところが違うのかー”と浅い感想を浮かべつつ散歩をするだけの観光。


 南の村は余りにも退屈すぎる場所であった。


 しかし、主人からこの村の護衛を任されている以上、天魔くんちゃんはこの村から離れることは無い。


 余りにも暇すぎるからという事で、その村の会話を天魔くんちゃんは盗み聞きを始めた。


「村長、大丈夫なのかな?相手は人間なんだろ?」

「でも、人間って弱い種族だと聞いたぞ?」

「確かに。でも、村1番の戦士であるアルバスが捕まってたんだぞ?もしかしたら村長も........」

「馬鹿言え!!ウチの村長が負けるかよ!!あんなガキみたいなやつに!!」


 村長が連れていかれた事を心配する村の悪魔達。


 天魔くんちゃんはその会話を盗み聞きしながら、ムッとする。


 我らが主人がガキだと?


 確かに主人は小さくて可愛くて男とは思えないほどに愛らしい見た目をしている上に、自分の好きな物を見つけるとはしゃぎまくって楽しそうに目を輝かせるが、断じてガキではない。


 相手が知性を持つ相手であろうが、人間であろうが、一度敵と認識してしまうととことん冷酷になれる偉大なるお方なのだ。


 本人は気が付いていないが、その冷酷な視線と薄ら笑は何度観ても背筋が凍る。


 敵と見なした場合、相手をそもそも生物として見ていないのだ。


 そんな存在を、ガキの一言で片付けるのは無理があるだろう。


 何せ、子供は魔物の事を経験値とは呼ばず、多くの冒険者はダンジョンの事を“都合のいいレベリング場”とは呼ばない。


 と言うか、そもそもダンジョンをレベリングするための場所だと認識していない。


 世界でも主人ぐらいだろう。ダンジョンは経験値を量産してくれる場所であると思っているのは。


「ガキと言うのは早計すぎるぞ。あの子供は........いや、そもそも本当に子供なのか?まぁいい。あの子供が俺を捕まえた時の目は、狩人そのものだった。俺を悪魔としてみていない。別の何かを見ているような感じだった」

「は?何言ってんだよ」

「侮るなと言っているんだ。あれは........あれは生命を見る目じゃない。村に着いてからその目は無くなったが、最初に俺を見ていた時は、確かに俺を悪魔として、生命として認識していなかったのだからな」

「........?」


 唯一、ジークの狂人じみた目を見たアルバスは、ブルりと肩をふるわせる。


 天魔くんちゃんは“そうだもっと言ってやれ!!主人のすばらしさを宣教しろ!!”と心の中で騒いでいた。


 もちろん、声が出せないので影の中で変な動きをしているだけになるのだが。


 そんなジークの素晴らしさをもっと説けと天魔くんちゃんが思っていると、空から大きな気配がやってくる。


 天魔くんちゃんはこれが敵意を持った者であると察すると、即座に魔術を展開した。


「うわっ!!」

「なんだこいつは?!」


 普段は持たない盾を作り出し、地面に強く叩きつける。


 そして、第九級白魔術“聖なる世界ホーリーワールド”を展開した。


 この魔術は街や村を守ることを想定して作られた魔術であり、任意の大きさの聖なる半円を作り出して全ての攻撃を弾くことが出来る。


 維持には凄まじい量の魔力が必要となるが、供給源であるジークの魔力量は最早人間のソレとはかけ離れており、その気になれば数百近い数を同時展開できるものである。


 天魔くんちゃんが守りに入ったその数秒後、聖なる世界を揺るがす攻撃が炸裂する。


 ドゴォォォォォォン!!と、凄まじい音と振動が響き渡り、その一撃の威力が凄まじいことを物語っていた。


「........(かなり強い。何発も受けるのは危険かも)」

「こ、今度はなんだ?!」

「襲撃か?!」


 急に目の前に訳の分からない存在が出現したかと思えば、次は轟音。


 状況を掴めない悪魔達は混乱し、慌てふためいた。


「........(迎撃に移ろう。それと、主人への連絡をしないと)」


 天魔くんちゃんはそう思うと、先ずはこの村の安全確保のためにもう1枚の防護壁を展開。


 その後、迎撃の為に自分は防護壁の外へと飛び出し、攻撃してきた者と相対する。


 そして、魔力を通じてジークへの報告と助けを求めた。


「へぇ。俺の一撃を受け止めるなんて中々やるね。君、何者?」


 攻撃してきた相手は、少し幼さの残る青年のような悪魔であった。


 しかし、その力を侮ってはならない。


 天魔くんちゃんは、この相手を自分では殺しきれないと判断し、、時間稼ぎをする方向に移った。


 連絡は既に飛ばしたが、若干のタイムラグがある。


 その間はこの村を守らねばならないのだ。


「........(私達は天魔くんちゃん。悪いが、お引き取り願おう)」

「........???何その変な踊り」


 何度も言うが、天魔くんちゃんには声帯が存在していない。


 よってジェスチャーで会話を試みるのだが、天魔くんちゃんのジェスチャーは余りにも分かりづらい。


 ジークやエレノアのように、毎日のように会話をしているものにしか伝わらないのである。


 基本なんでも出来る天魔くんちゃん、唯一の欠点とも言えた。


「まぁいいや。名乗る気がないならこちらの名前だけでも覚えて死んでよ。公爵級悪魔ベレゼドの名前をね」

「........(侯爵?公爵?)」

「公爵。偉い方の」


 侯爵と公爵は発音が同じである。


 首を傾げた天魔くんちゃんを見て、何となくその疑問を察したベレゼドは、補足を入れた。


 何気に、会話が成立した瞬間である。


「それじゃ、行くねー。死ね」


 ベレゼドの一撃。


 見えない弾丸が天魔くんちゃんを貫かんと迫り来る。


「........(ココ)」

「へぇ?」


 盾を持った天魔くんちゃんは、見えないはずの攻撃を経験と勘で受け止める。


 相手の権能が分からないが、少なくとも“読み”という点では自分の方が勝っている。


 そう確信した天魔くんちゃんは、あえて魔術を使わずに剣だけで撃退を試みた。


 天魔くんちゃん強みは、その数による圧倒的な物量である。


 ジークと言う理不尽の権化によって生み出された天魔くんちゃんの数の暴力によって相手を押しつぶすのが1番の強みであり、単体性能は確かに高いが使える魔術などが限られているため戦略性に欠けるのだ。


 特に、今回の天魔くんちゃんは護衛や守ることに特化した性能をしており、攻撃系の魔術をそれほど多く備えていない。


 下手に魔術を使って情報を与えるよりも、似たような魔術を使い相手にそれが権能であると誤認させた方がいいと言う判断である。


「ほら、まだまだ行くよ!!」

「........(うーん。困った。守るだけなら簡単だけど迎撃となると選択肢が少なくて困るなぁ........主人が来てくれるまでの辛抱かなー)」


 パッと見、公爵級悪魔が優勢に見えるが、天魔くんちゃんは一度の被弾もしていない。


 代わり映えのしない攻撃と、フェイントすらもかけてこない単純な戦い方。


 明らかに自身の権能に頼りすぎた戦い方だ。明らかに、経験が足りていない。


 天魔くんちゃんは、常に格上と戦っている。


 主に、エレノアの遊び相手として。


 壊される事は無いものの、常に何重にも仕掛けたフェイントと、どこからでも降ってくる攻撃。


 それらをガードし、反撃をし続けてきた天魔くんちゃんからすれば、この単調な攻撃はあくびが出る程に退屈であった。


「........(守りに特化した性能なのが歯がゆいね。私達がもう一人いたら終わってるのに)」


 天魔くんちゃんはそう思うと、主人はまだかなーと思いながら攻撃を捌き続けるのであった。





 後書き。

 天魔くんちゃんが強いと言うよりは(もちろん強いんだけど)、ベレゼド君が弱い。若すぎるのだ。そして才能に溺れすぎた。

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