公爵級悪魔
狙っていたかのようなタイミングでやってきたボニーさん。
もしかしたら、問題が解決するかもしれないという事で俺達はボニーさんたちが作った魔術の実験に取り掛かる。
これまで二回ほどリエリーしてきた(失敗してきた)魔術であるが、悪魔達は一体どのような改良をしてきたのだろうか。
出来れば、今回で見事完成させて、その流れで村人たちを増やしたい。
そうすれば、面倒事もなくいい感じに事が進むんだけどな。
とは言えど、そんなことは知らないボニーさんにプレッシャーを掛ける訳にも行かない。
魔術開発は気長にやるものだ。焦らせるなんて以ての外である。
あの師匠ですら、俺達が失敗続きだった時は笑わずに“焦らずやりなさい”と言ってくれたのだ。
ここで失敗したとしても、ちょっとだけ改善点を伝える程度にした方がいい。
「これに魔力を注げばいいんだな?」
「はい。よろしくお願いします」
ボニーさんが用意していた魔法陣。
前回と前々回では、パッと見ただけで間違っている点が見つかったが、今回はそのような間違いが見当たらない。
お、もしかしてもしかするか?
と思いながら、俺はその魔法陣に魔力を注ぎ込む。
ここで俺が魔力を注ぐ量を謝って失敗したとか笑えないので、少しばかり慎重に魔力を注いで行った。
その魔力はやがて順調に魔法陣全体に行き渡り、そして、その効力を発揮する。
内部からではその違いが分からないが、俺やエレノアのような感覚が鋭い者にはハッキリとわかった。
結界が張られている。
村のを覆っている結界よりは少し小さめの大きさ。しかし、30~40人程が暮らすには十分な大きさの結界が出来上がっていたのである。
「エレノア。一応外の確認をしてきてくれるか?」
「えぇ。もちろんよ」
無事に魔術が発動したとなれば、後は自分達が思っているような効果が現れているかの確認のみ。
俺はエレノアに確認を頼むと、エレノアは頷いて結界の外へと消えていく。
そして数十秒後、俺の元へと戻ってきた。
「問題なく発動されているわ。ちゃんと透明化されているわね。ただ、魔力の乱れが見えるから、魔力の流れを感じ取れる者が見たら違和感を感じるわ」
「ということ、成功だな。魔法陣を見た限り、そこら辺を隠蔽するようなものないし。おめでとうボニーさん。成功だよ」
「本当ですか!!」
まだまだ改善点は多くありそうだが、一先ず欲しい効果を持った魔術が形成されたと言う事は事実。
俺はボニーさんに魔術が完成したことを伝えると、ボニーさんはパァと顔を明るくして俺とエレノアに抱きついてきた。
「うわっ」
「ちょっ」
「やった!!やりました!!ありがとうございます先生!!」
自分が初めて魔術を作った時の感動は今でも忘れない。
俺が初めて魔術を作ったのは、我らがアイドル闇狼君を作り出した時である。
あの時は本当に嬉しかったものだ。放置ゲーが加速する!!という喜びもあったし、失敗続きだった魔術を成功させた喜びもあったな。
ボニーさんは今、その喜びを噛み締めているのである。
その結果、俺とエレノアに抱きついているのだが。
「やった!!やった!!」
「全く。普段はあんなにお淑やかな悪魔なのに、こんなに喜ぶとは思ってもいなかったわ」
「まぁ、気持ちは分かるだろ。俺達も初めて自分で作った魔術が成功した時は喜ばなかったか?」
「そりゃ喜んだわよ。だから、この抱擁を受け入れているんじゃない。この喜びは一生に一度しか味わけないんだからね」
エレノアはそう言うと、抱きついているボニーさんの頭を優しく撫でる。
ボニーさんはエレノアよりも身長が小さい。
頭は撫でやすそうであった。
俺?俺は無理だよ。だって俺の方がさらに小さいし。とは言っても10cmぐらいだから、撫でようと思えば撫でれますとも。えぇ。
「皆さんに成功を伝えてきます!!」
「そうするといいよ。きっとみんなも喜ぶ」
「そうね。暫くは喜ぶといいわ」
未だ興奮が冷めないボニーさん。
普段とは完全にキャラが変わってしまったボニーさんは、満面の笑みを浮かべながら、一緒に魔術を作った仲間たちの元へと走っていく。
俺とエレノアはその姿を見送ると、地面に残った魔法陣を眺めた。
「ふーん。なるほど。この連結部分がちょっと甘いわね。ここを変えれば魔力効率が上がるわよ」
「ま、言うて第六級程度の魔術だ。悪魔達の魔力は豊富だし、そこまで気にするほどのもんじゃないかな。これが第八級魔術以上になると絶対に治さないといけないけど」
「使用する魔力量が尋常じゃないほど変わるからね........魔法陣の少しを変えるだけで、消費魔力が半分減るとかもザラにあるし」
「魔術はそれだけ奥が深いって事さ。にしても、結果的にこれ魔道具を作ったと同義だよな。俺達より凄くね?」
「基本魔術で事足りるから、魔道具なんて作らないものね。この魔界に、初めて魔道具が出来上がった瞬間だわ」
この魔術は、魔石から魔力を引き出す為の機構が取り付けられている。
つまり、魔道具とほぼ同じ性質を持つのだ。
魔道具は、魔法陣を刻んで魔石から魔力を取り出す機構を付けたものと言うのが一応の定義となっている。
まぁ、そこら辺は割と曖昧なのだが、師匠曰く“正確な定義はそれ”という事らしい。
つまり、悪魔たちは魔道具を作ったのだ。
俺やエレノアも作ったことがない魔道具を、悪魔達は開発してしまったのである。
「こうやって人類も進歩してきたのかね?」
「かもしれないわね。多くの事を学び、自分達の生活を豊かにするために実行する。そうして、人々も悪魔も進歩してきたのよ」
魔界に初めて生まれた魔道具。俺は、俺達は、この魔界の新たな歴史の一ページに立ち会っているのかもしれない。
そんな事を思いながら、俺とエレノアは騒がしくなり始めた村を眺め........
「........(主人大変!!主人大変!!)」
「ん?どうした小鳥ちゃん。まだ南の大地にはついてないぞ?」
「........(悪魔が村を襲ってる!!天魔くんちゃんが対応してるけど、守る戦いだから困ってるって!!)」
「何?」
南の村への襲撃者の存在を知るのであった。
【
悪魔達が初めて開発した魔道具用の魔法陣。難易度としては第六級魔術。
周囲の景色と溶け込む結界を生成し、視覚的に身を隠すための魔術なのだが、魔力の乱れが見えてしまうため相手が魔力の流れを感じ取れる(もしくは見れる)者だと、簡単に見破られる。
とは言えど、その効果は本物であり、大半の魔物や悪魔は騙される。
欠点は魔力消費量が多いこと。
その日、その悪魔は暇つぶしに街の外へと散歩に出かけていた。
悪魔にとってこの散歩はちょっとした楽しみであった。常日頃から主としての品格を求められ、常に偉大で尊大な自分を見せつける為に大きな態度をとる。
元々めんどくさがり屋であり、気が乗らないと仕事をしない彼にとってその生活は窮屈で他ならない。
ではなぜ主となったのかと言うと、もっと遊べる楽な生活が出来ると思ったからだ。
しかし、いざ自分がその立場になってみると、見えてこなかったものが見えてくる。
隣の芝生は青いという諺がある通り、彼はその青い部分だけを見ていたのである。
その地面がどうなっているのか、その管理はどうしているのか。それを考えてこなかったのだ。
「ん?なんだあれは........」
そんな彼は気まぐれに普段立ち入らない南の森の上空を飛ぶ。ここは魔物が多く出現し、散歩コースとしては余りにも忙しい。
しかし、その日は気まぐれに南の森へと来てしまった。そして、運悪く、村を見つけてしまったのだ。
「あれは........悪魔?なんでこんなところに。まぁいいや。ちょうどいい暇つぶしになるだろ」
悪魔の社会は弱肉強食。
弱いやつが悪い。
悪魔の価値観を持ったものからすれば、気まぐれに村を街を滅ぼすのは当たり前だとも言える。
その点で言えば、どこぞの放置ゲーマーや火力中毒者と似ているのかもしれない。
「あれで遊ぶかー」
公爵級悪魔“ベレゼド”。
その驚異が、南の村へと迫っていた。
後書き。
流石に悪魔王は出せないよ‼︎(尚その裏で飛ばされる侯爵級悪魔君
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