あっ、ごめん
かつての主と顔を合わせたグランダールは、しばらくの間泣き崩れていた。
もう会えないと思っていた主との再会だ。泣き崩れるのも無理はない。
ウルもガレンさんも、かつての戦争の生き残りがいた事が嬉しかったのか、ほんのりと涙を浮かべるほどには感極まっていた。
そうしてしばらくの間泣き崩れた後、ようやく冷静さを取り戻したグランダールはウル達とかつての日の事やその後の事を楽しそうに語っている。
俺達はお邪魔になるという事で、暇つぶしに村の中をフラフラとするしか無かった。
「あら、もう芽が出てきているのね」
「もうそんな季節か。俺達が魔界に来てからそろそろ一年と半年が過ぎるんだな」
「懐かしいですね........俺がジークさん達と出会ってからそんなに経つんですか」
悪魔達が植えていたデイズ豆の芽が出始めている。
このデイズ豆と言うのは、地球で言う大豆のような存在だ。
タンパク質に優れており、乾燥させても生で食べても栄養満点。何かと使い道が多く、ひとつの苗から大量に取れるので重宝されている食材である。
人類大陸にも似たような豆は存在しているのだが、若干味が違う。
デモットも一人で生きてきていた時によく食べていた豆らしく、この北の大地周辺ではよく食されている豆なんだとか。
この豆を砕いて肉を混ぜ、豆ハンバーグを作ったりすると結構美味しい。
ポン酢が欲しくなる味をしているが、残念ながらこの世界にポン酢らしい調味料は存在していなかった。
作り方も知らんしな。
異世界モノの料理系を読んでいると思うんだが、ただのサラリーマンとかが醤油の作り方とか酒の作り方をそんなしっかり覚えているもんなのか?
いや、ソイツは偶々興味があっただけとか言われたらそれまでなんだけださ。
異世界の定番マヨネーズの作り方すら俺は知らねぇよ。卵を使うことしか分からん。
普通、調味料の作り方なんて一々調べないし、偶然テレビで見ても割と忘れると思うんだけどなぁ........
まぁ、言うて創作物の世界だ。この物語はフィクションですとか言う最強の呪文があれば、何とでもなる。
「おや、ジークじゃないか。どうした?畑なんて見つめて」
そんなことを思っていると、白衣を見に纏ったポートネスがふらりとやってくる。
ヤーレンお爺さんの大ファン事ポートネスは、ココ最近お爺さんの家に行っては色々と話を聞いているらしく、あまり構ってくれないとカーリー姉妹が愚痴っていた。
カーリーさん姉妹はポートネスの事をかなり尊敬しているし、懐いているからね。
男悪魔たちからとても人気の高いカーリー姉妹なのだが、その壁となっているのがポートネス。
ポートネスの傍が落ち着くのも無理は無いのだ。
「やぁポートネス。植えたデイズ豆の芽がもう出てきていると思ってな」
「あぁ。ソイツはかなり成長が早くて、1年で何度も収穫できる豆だからな。それがどうしたんだ?」
「いや、時期的に俺たちが魔界に来てから一年と半年近くが経過したんだなと思っただけさ。誰にだって、過去を振り返る機会はあるだろ?」
「ハッハッハ!!あのジークがそんなことを言うとは。私を笑い殺したいのか?」
失礼な。俺だってちょくちょく過去を振り返るんだよ。
五大魔境の事とか、三大ダンジョンの事とかね。
そう言えば、まだ有名どころの国に行ってないな。
大賢者マーリンが建国したとされる魔導国に、この世界で最も信仰されている宗教の総本山の皇国。大帝国、皇国に並ぶ三大国家の一つ大王国、東の島国や、人類が立ち入れなかった秘境など。
人類大陸もまだまだ巡れる場所は多くある。
特に魔導国には行ってみたい。魔術の始祖、大賢者マーリンの残した書物とか、建造物とかがあるらしいから、それを見てみたいのだ。
まぁ、全部魔界を攻略してからなんだけどね。
「過去を振り返っちゃ悪いか?」
「少なくとも、私のイメージでは、君は過去を振り返らない男だと思ってたよ。だっていつもあっちへ行ったりこっちへ行ったりして、忙しそうに生きているんだからね」
「転移魔術を覚えてみればポートネスも分かるさ。転移はな、マジで便利」
「見ているだけでもそう思うよ。ズルくない?一度行ったことがある場所には距離も関係なく飛べるとか」
「それが魔術よ。人類が得た、切り札とも言えるわ」
「その切り札を悪魔に教えてよかったの?」
「師匠が“まぁいいやろ”って言ってたし、魔術が無いとこの村はここまで発展できなかっただろうしな。それに、人類をあまり舐めちゃいけないよ。切り札はまだまだ沢山あるさ」
切り札(師匠)なんだけどね。
お袋に懐いている師匠の事だ。お袋や親父に危機が迫れば、相手が誰であろうが滅ぼされる。
いや、それで言えばお袋が切り札になるのか?
うちのお袋、その気になればオリハルコン級冒険者まで動かせるだろうからな。リエリーとか。
やばい、俺のお袋、知らない内に人類の切り札になってやがる。
無自覚チートしてるよあの人。あの人だけ生きている世界線が絶対に違う。
「あ、そう言えばジーク。私が頼んでいた南の大地の植物採取は?」
お袋だけギャルゲーとかそっちの世界線で生きているよなとか思っていると、ポートネスがそんな事を聞いてくる。
あ........完全に忘れてた。
スピノサウルスとか言うロマンの塊を見せられて、テンションが上がりまくったためにポートネスのお願いを完全にすっぽかしていたのだ。
いやね。しょうが無いよね。
シュッってなってドカーンなビームを見たら、そりゃそっちに気を取られて忘れちゃうよ。
うんうん仕方ないって。
「完全に忘れてたわね。ジークが盛り上がりすぎて、そっちに気を取られてたわ」
「ジークさん、あのスピノルの攻撃を見てはしゃいでましたからね。それはもう見た目相応の子供のように」
「いやー、あれはカッコよかったよな!!」
「で?植物は?」
「........すいません。忘れていました」
何とか誤魔化せるかと思ったが、やはり無理だった。
若干圧の強いポートネスに問い詰められ、俺は素直に謝る。
ごめん。完全に忘れてたよ。
でも安心してくれ。まだ南の大地は緑豊かだから。
一部既に灰になっているけど、まだ殆どは綺麗なままだから。植物いっぱいあるから。
申し訳なさそうに頭を下げると、ポートネスは出来の悪い弟を見るかのような目で俺を見る。
その顔は、“全く、しょうがないな”と言わんばかりのものであった。
「まぁ、お願いしているのはこちらだから、文句を言える立場じゃないんだがな。本来ならば自分で取りに行けって所を、ジーク達にお願いしている訳だし」
「いやでも、それを了承したからにはちゃんとやらないとダメだよ。無理なら最初から引き受けなければいい話だからね。次南の大地に行った時には、必ず採取してくるよ」
ポートネスがお願いしている立場とは言えど、俺がそのお願いを受けたのは事実。
お願いごとを引き受けた以上、今回は俺が悪いのだ。
「意外とそういうところはちゃんとしてるんだな........」
「ジークは意外とちゃんとしてるわよ。ちょっと自分の好きな物とかを見ると、テンションが上がりすぎて変になるけど」
「ちょっと心配になるぐらいには変なことを始める時もありますからね........まぁ、そこがジークさんらしい所でもあるんですけど。ほら、魔物を見つけると反射的に殺す所とか」
「それ、ジークらしさって言うのか........?」
ポートネスは首を傾げると、俺を見て何かを悟ったこのように首を縦に降りこういうのであった。
「まぁ、ジークだしな。そんなもんか」
「そうよ。ジークと付き合う上で、諦めは肝心よ」
「そうですね。深く考えないようにしましょう」
あれ?なんか俺、ディスられてね?
後書き。
ジークだって忘れるときはある。そりゃぴゅーん‼︎ちゅどーん‼︎なビームを見たら、約束も吹っ飛んじゃうよ。
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