かつての主と
先の戦争の生き残りであるグランダール。
話を聞くに、かつてウルと師匠が引き起こした戦争に参加していた兵士の1人であった。
片腕を失ったものの、ウルが語っていた悪魔達の理想郷を実現しようと村を1人で立ち上げた悪魔。
そんな戦争の生き残りに、ウルを合わせてやることにしたのは自然と言えるだろう。
ウルの名前を聞いてから、ちょっと冷静な判断ができてなさそうだったが。
俺達が嘘をついていたらどうするつもりなのだろうか?
いや、俺達がここで嘘をつく利点がないので、嘘は言ってないと判断したのか?
ともかく、俺達はグランダークを連れてウルの村へと帰ってきたのである。
「村の悪魔達がかなり心配していたし、できる限り早く帰るぞ。それでもいいな?」
「構わん。私はあのお方をもう一度一目見られれば満足なのでな。それに、当時の軍は凄まじき数が居たものだ。私の事など覚えておらんだろうよ」
村へと帰ってくると、早速ウルの元へと向かう。
時間的に師匠のところからは帰ってきているはずだから、問題ないだろう。最悪、ガレンさんに聞けばなんとでもなる。
そういえば、ガレンさんも戦争の生き残りだったんだよな?もしかしたら、顔見知りの可能性もあるのか。
「それにしても、私の積み上げてきた村とは随分と違うな。流石はウル様だ。私達では決してできないような事をなり遂げている」
「この村は色々と改造されて、最早下手な街よりも豊かになってるからな。食糧問題も解決して、むしろ備蓄が増えすぎている面もある。さらに言えば、村の拡張にも手を伸ばしているんだよ。王が滅び、多くの悪魔たちが消えたその時、この村が悪魔達の王都になるだろうね」
「........それはまるで、王を殺すかのような発言だな」
「その通りだよ。俺達は、悪魔の王を殺す事を目標にここにいるからね」
「貴殿は強いが、果たしてあの王に勝てるのか?」
「それはやってみないと分からないだろうね。一応、切り札とか色々と手札は用意しておくつもりだけど」
そんな事を話しながら歩いていると、ガレンさんがふらりと現れる。
あれは、日課の散歩かな?
村の様子を見るついでに、ちょっとした散歩をするのがガレンさんの日常なのだ。
この時間帯になるとフラフラ村の中を歩くので割と探しやすい。
「ガ、ガレン様........?!」
「知ってるのか?」
「知っているも何も、あのお方はかつて私達悪魔を率いて数多の街を滅ぼしたお方だぞ!!別名“破壊の悪魔”!!その拳は山を砕き、悪魔を一撃で殺す将軍の一角であった!!」
へぇ。ガレンさんって滅茶苦茶偉い人だったんだな。
その将軍の地位がどれほど偉いのか知らんけど。
俺は過去をあまり語らないガレンさんの過去を少しだけ知ると、彼に話しかける。
戦争が終わった後のガレンさんは子供大好きな苦労人だぞ。ウルの惚気話を毎日聞かされて、死んだような顔を浮かべるようなちょっと可哀想な人だ。
後、亡くなった奥さんの事を今でも愛している愛妻家でもある。
一緒に飯を食ってたら、酒を飲んで酔っ払って奥さんの話をあれこれされたっけ。
話を聞く限り、怖くともいい悪魔であったと思う。
「ガレンさーん!!」
「おや、ジークさんではないですか。今日はもう終わり........おや?隣のご老人は........」
「お、お久しぶりですガレン将軍。第三諜報部隊隊長グランダールでございます」
「グランダール........グランダール........あぁ!!思い出しましたよ。確か、黒翼の部隊を率いた影の功労者では無いですか!!かつての戦争で生き残ったのは我々だけかと思っておりましたが、貴方も生き残っていたのですね!!」
グランダークの名前を聞いたガレンさんは、その名前を思い出すと嬉しそうにグランダールの肩に手を置く。
どうやら、グランダークハイ第三諜報部隊長の隊長という役職に着いていたらしい。
その部隊がどのような役割をしていたのかとか、そもそもの組織体系を知らないのでどれほど偉い人なのかは分からないが、少なくとも“影の功労者”と言われる程には大きな戦果を残したらしい。
まぁ、あの戦争を生き残った時点で只者ではないだろうな。
師匠やウルが大暴れしていた戦場で、生き残れる悪魔がどれほどいるのだろうか?
「申し訳ありません。王の配下であった者に蹴散らされ、片腕を失った挙句気絶し、気がつけば全てが終わっておりました........」
「いや、よく生き残りましたよ。それに、あの戦争は無駄ではなかったのですから。私たちは、私達の未来を勝ち取ったのです」
「グスッ........本当に........本当に........!!」
泣き崩れ、それ以上の言葉が出てこないグランダール。
こんな雰囲気の中ちょっと空気が読めないが、俺は“最近おじいちゃんが泣いてる姿を見るのが多いなぁ”とか思っていた。
いやね。流石に出会って1時間足らずのおじいちゃん相手に感情移入はできないよ。
その戦争を俺は経験した訳でも見た訳でもないのだから、なおさらに。
「流石に泣けないわね」
「エレノア、それは思っていても言うことじゃないよ」
「おっと、失言だったわね」
エレノアも同じ事を思ったのか、涙をうかべることは無い。
「む?ガレン。何をしている?」
「あ、ウル様。グランダールですよ!!あの戦場を生き抜き、遂に帰ってきたのです!!」
「グランダール........あぁ、黒翼の部隊長だった者か。あの者達のお陰で、私達は随分と楽に戦争を進められたな。最後には悪魔王によって覆されたが........なるほど。確かにちらりとみた顔と一致する。随分と老けたがな」
グランダールが泣き崩れていると、ウルがやってくる。
ウルはがガレンからその名を聞くと、ガレンと同じように何かを思い出してその姿を見た。
“黒翼”という部隊はウルの記憶にも残るような活躍をしたらしい。
もしかしたら、師匠も知っているかもしれんな。
「よく生きていた。私は嬉しいぞ」
「う、ウル様........申し訳ありません。恥ずかしながら生きておりました」
「何を恥じるのだ。戦争の中勇敢に戦い、その中で生き残ったのであれば胸を張れ。私達は、その資格がある。もちろん、お前にもな」
「はい........はい........!!」
「ハッハッハ!!昔から涙脆い男ではあったと記憶しているが、それは歳がとっても変わらんらしいな!!全く。いい歳をした悪魔がみっともなく泣くんじゃない」
ウルはそう言いながら、優しくグランダールの背中に手を置く。
俺は村長としてのウルと、どっかの骸骨を追っかけ回すウルしか知らなかったが、その姿は確かに臣民に寄り添う領主のような優しさに溢れていた。
元々はこちらがウル本来の姿なのだろう。
目隠しをしているため、表情が分かりづらいが優しさは伝わってくる。
「随分と活躍された方のようですね。もしかしたら、お爺さんも知ってるのかな?」
「わからん。だが、不思議だよな?グランダークは随分と老けたらしいのに、なんでウルとガレンさんは老いてないんだ?」
「ウルはどうせなんか凄い力で何とかしてるわよ。ガレンさんは確か、戦争に参加したした時がとても若かったらしいわ。戦争から数百年........見た目が変わらない期間が長い悪魔ならば、自然よ」
なんかすごい力で何とかしてる。
物凄くふわふわとした回答だが、それで納得出来てしまうんだよな。だってウルだし。
ウルなら、時間の流れを操って不老の体を持ってますとか言われても納得しそう。
「暫くは昔話に浸りそうだな。帰りが遅くなりそうだ」
「そうね。少し待ちましょうか」
こうして、戦争の生き残りがかつての主に顔を合わせるのであった。
後書き
Q.ジークが生き残り殺してたりする?
A.やってない。運がいい。
祝‼︎600話‼︎(1話遅い)
これからも皆様に楽しく面白い話を届けられるよう、毎日頑張りますので引き続き宜しくお願いします‼︎
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