戦争の生き残り


 ウルが治める村とはまた違った悪魔の村。


 南の大地に位置するこの村は、かなり規模が小さかった。


 住んでいる悪魔達は凡そ30~40程度。それも、そのほとんどの悪魔達がかなり弱く、街に居られなくなって逃げてきた者達であることがよく分かる。


 言っちゃ悪いが、ウルの村よりもさらに酷い。


 よくもまぁ、これで村を維持できるものだと思うほどには。


「ここが私の家だ。入りたまえ。茶も用意できんがな」

「お邪魔します」

「おぉ。中々趣のある家ね。私はこういうのは嫌いでは無いわ」

「年季の入った家ですね。随分と大切に使われてきたように見えますよ」


 案内されたのは、この村の村長の家。


 随分と昔に作られた家の為か、かなり古びた外観をしていた。


 中も勿論古びているのだが、それにしては綺麗に掃除がされている。


 アンティークな雰囲気を持った、居心地のいい場所でもあった。


 エレノアとかはこう言う家とか結構すきだよな。年季の入った、ちょっと古臭い感じの。


 俺も割とすきな部類である。実際にこの家と共に暮らしていたら、大分愛着が湧きそうだ。


「紹介が遅れたな。私はグランダール。この村の村長だ」

「ジークだ。見ての通り人間だよ」

「エレノアよ」

「デモットです。俺は悪魔なので悪しからず」


 簡単な自己紹介を終えると、グランダールと名乗った悪魔は俺達のために椅子を用意して座る。


 俺達もここで立ち尽くす理由もないので、大人しく席に着いた。


「で、なんの用でここへ来た?しかも人間が悪魔と共に」

「いや、単純に気になって来ただけだよ。アルバスを捕まえたら、村があるって知ってね。俺達も村でお世話になっているから、他の悪魔の村がどんな感じなのか知りたかったんだ」


 もちろん、嘘である。


 いや、割と本当なのだが、言っていないことがある。


 この村に利用価値が無かったら滅ぼすけどねと言う言葉を、俺は口にしていなかった。


 嘘と言うよりは、言ってないの方が正しいか。


「村?この村以外にも悪魔達が作った村があると?」

「そういう事だよ。少しは興味を持ったか?」

「ふむ........村、村........その村の村長は、かつて戦争に参加していたとか言っておったか?裏切り者の悪魔と骸骨の姿をした頭のおかしい奴が引き起こした、悪魔王との戦争。流石に魔界にいるのだ。そのぐらいは知っているであろう?」

「もちろん知っているさ。そして、その戦争を引き起こした本人が建てた村であるという事もね」


 この爺さん。やはり、あの時の戦争を生き延びた悪魔なんだろうな。


 ウルの話では、生き残りはガレンさんを含めて三人ほどしか居ないみたいな話をしていたはずなんだけど。


 まぁ、当時の軍の規模がどれほどかは分からないが、話を聞いていた限りそれなりの規模であったことは分かっている。


 ウルが把握していない生き残りがいても不思議では無いか。


「なんと........!!ウル様が建てた村があるのか?!」

「あるよ。正確にはウルと骸骨が建てた村がね。その口ぶりからして、グランダールはその戦争の生き残りみたいだね」

「もちろんだとも。私はかつて、ウル様の元でこの力を振るったものだ。当時は私よりも優れた戦士は多く、私の事など気にも止めて居なかっただろうが、私ははっきりと覚えている。かの悪魔王ソロモンと裏切り者と呼ばれた悪魔、そしてその裏切り者をそそのかした骸骨の戦争を。あの光景は、例え死しても決して忘れることの出来ない神話のような光景であったと。私はその戦争の中に身を置き、片腕を犠牲に生き残ったのだ」


 当時の事を思い出したのか、どこか懐かしそうな目で虚空を見つめるグランダール。


 神話のような光景ねぇ........


 まぁ、ウルと師匠がイチャイチャ遊ぶだけで下手をすれば国が滅ぶのだ。そう考えれば、本気で殺しあっていたその戦争の時の光景は神話と言われても仕方がないだろう。


 あの師匠の本気か........いつか見てみたいものだ。


 あの本を使ってもなお、本気で暴れては無いからな。


 お遊び程度の軽い手合わせしかしてないし。


 そんなことを思っていると、グランダールが話を続ける。


「私は左腕を失い。意識が戻った頃には戦争は終結していた。それも、引き分けとして。私は多くの同胞を失いそれでも尚、悪魔の王を打ち滅ぼさんとしたが........私一人では何も出来ん。だから、ウル様が昔ポツリと呟いていた村を作ってみることにしたのだ。悪魔が必ずしも強くある必要などない。支え合い、助け合えるそんな村を作るため、私は一人でこの地へと来た。そして、徐々に徐々にその数を増やし、今に至るのだよ」

「なるほど。ここはウルの意思を受け継いだ場所でもあるわけだ」


 話を聞いていて思ったのだが、このおじいちゃん、実は結構なハイスペックだな?


 一人で村を作ったということは、1人で家も立てたということだ。しかも、片腕で。


 そして、街から逃げ出した悪魔たちを集めるのも一人でやって、何も知らない中試行錯誤しながら畑を作ったり壁を作ってきたわけである。


 その中にはもちろん魔物との戦闘もあっただろうし、色々な困難があったはず。


 隻腕と言う不利を背負っていながら、ここまで村を大きくできたのは普通にすごいと思う。


 ごめんね?小さいとか言って。


「ガレンさん以外にも生き残りはいたんだな。ウルが把握してないだけで、意外と生き残りは多いのか?」

「どうかしらね?ただ一つ言えることは、生きていたとしても天魔くんちゃんに消されているということよ。考えない方がいいわ」

「なるほど。それは確かに」


 例え生き残っていたとしても、多分天魔くんちゃんが消しちゃってるわな。


 だって悪魔は尽く滅ぼせって命令してるし。


 今の所生きているのは、侯爵級悪魔以上の悪魔とその街に住む悪魔たちぐらいだろう。


「して、ウル様は何処に?」


 他にも生き残りがいるのかどうかを話していると、ウルに会いたいのか目を輝かせるグランダールが話に入ってくる。


 こちらの話をまるで聞いていないのが救いだな。


「ウルなら今村にいるか、師匠の........あぁ、師匠ってのは骸骨の事ね。の所に居るんじゃないかな?」

「どうせ今日もイチャついてるわよ。通い妻よあれ」


 本当に飽きもせずに毎日通ってるからな。お陰で惚気話を毎日聞かされるガレンさんの顔が日に日に沈んでいくんだよ。


 ガレンさんとしても、ウルが幸せになるのは好ましいらしが、だからといって自分に惚気話を毎回聞かされるのは勘弁願いたいそう。


 いつも似たような話を楽しそうにされる身にもなって欲しいと愚痴ってたぞ。少しは反省しろウル。


「もし手間でなければ、連れて行って貰えないか?老人の最後の願いだとでも思ってくれたらいい」

「村の警備はどうするんだよ。この村、見た限りあんたが居ないと安全が担保されてないように見えるけど?」

「案ずるな。私が居なくなった時のために、その点は考えてある。基本、肉を調達するのは私の役目だったしな」

「そっか」


 でも念の為に天魔くんちゃんを配置しておこう。


 貴重な労働力だ。確保しておいて損は無い。


 こうして、俺達は戦争の生き残りの悪魔に出会った。


 ウルも把握していなかった先の戦争の生き残り。彼の顔を見た時、一体ウルはどんな反応を見せるのだろうか?


 いや、そもそも覚えているのかな?結構な数がいたらしいから、ワンチャン“お前誰?”になるかもしれん。


 その時は........そうだな。俺達で慰めてあげよう。流石に可哀想だし。




 後書き。

 生き残りは彼が最後です。残りは皆死んだ。

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