南の村
アルバスという名前の悪魔を捕まえたら、悪魔の村が存在していることを知った俺達。
ウルの村に連れていく事にはもちろん大きなメリットが存在している。
単純な労働力が増えるのはもちろん、村の戦力向上にもなるのだ。
数とはそれだけで一つの大きな力である。
戦争は数が多い方が勝つなんて言われているし、事実ほとんどの場合は数が多い方が有利とされているのだ。
もちろん、師匠とか俺達のような規格外が出てくると話は違うのだが、村を守る戦力が増える事に変わりはない。
村は結界と城壁によってかなり強固で安全なものにはなっているが、それでも迷い込んだ魔物が襲撃を仕掛けてきたりその襲撃によってけが人が出ることはある。
その被害を減らすという意味でも、悪魔が増えることは悪いことではないだろう。
問題を上げるならば、食料や住居問題があると言うことだろうか。
魔術でかなり効率化されたとは言えど、作物が育つにはかなりの時間がかかるし、家を建てるのだって一瞬でできる訳じゃない。
そこら辺はウルや村の人達に色々と聞いてみるべきかな。もし、それでいいよと言われれば連れていくのもやぶさかではない。
もちろん、こちらの村の事情もあるだろうから、それを考慮しなければならないが。
あの村は俺も気に入っている。出来れば、大きく発展して欲しいものだ。
「ここが村か。随分と森の奥にあるんだな。魔物からの脅威は退けられるのか?」
「ウルさんのような強い悪魔がいるんでしょうね。基本的に1人いれば村の規模なら何とかなりますから。もしかしたら、悪魔王に対して不信感を持った変わり者が収めているかもしれません」
「ウルの知り合いとかだったら面白いわね。あの時代を運良く生き抜いた兵士が、村を建てたなんて話はありそうじゃない?」
「くっ........案内してしまった........だが、お前たちもこれで終わりだ!!」
ちょっとおバカなアルバスくんの案内の元、俺達は南の村の上空へとやってきていた。
村の規模は、ウルの村よりもかなり小さく、住んでいる悪魔の数はせいぜい30~40程度だろう。
空から見る限り、小さな畑がいくつかある事と、村の周囲を囲む壁が存在していることが分かる。
しかし、ウルの村よりは明らかにしょぼい。
俺が悪魔達に魔術を教え、あれこれ発展していく前の村よりもかなり寂しい村であった。
「で、ここの村長に俺たちを倒してもらおうって算段か。相手の実力を正確に見抜けないようじゃ、生き残れないぞアルバス」
「村長の強さを知らないからそんなことが言えるんだ!!村長は元子爵級悪魔でありながら、かの大戦を生き延びたお方なんだぞ!!」
........元子爵級悪魔ねぇ。
それよりも気になることを言ってたな。
“かの大戦”。
現代に生きる悪魔達が話す“大戦”と言えば、ウルと師匠が引き起こしたあの王へと挑む戦争しかない。
となると、エレノアの話が現実味を帯びてきた訳だ。
かつてはウルと師匠の元で戦った、戦争の生き残りの可能性が。
「エレノア、正解かもしれないぞ」
「適当に言っただけなのだけれどね。かなり可能性は高いと思うわ」
「とりあえず行ってみましょう。ジークさん、エレノアさん。間違ってもぶっ飛ばさないでくださいね?」
「わかってるわかってる。流石にやらないって」
「えぇ。流石にやらないわよ。ウルの知り合いを殺したら、怒られそうだもの」
それ、ウルの知り合いじゃなきゃ殺すと言っているようなものだけどな。
まぁ、俺も似たようなものなので、何も言わないでおこう。
俺達は空からおりると、村のど真ん中に降り立つ。
玄関口から入ろうか迷ったものの、絶対に入れさせて貰えないのでこのような方法で入ることにした。
「えっ?」
「わっ!!何者だ?!」
「アルバス?!」
「そ、村長を呼べ!!襲撃だ!!」
まだ何もやっていないと言うのに、襲撃者として扱われる俺達。
失礼なとは思ったが、村人を拘束して空から降りてくるようなやつが友好的な奴がと言われたらそりゃ違うと思うわな。
この反応は正しい。
むしろ、危機感がしっかりとしていると褒めてもいいぐらいだ。
「失礼ねぇ。ただ訪問しただけだと言うのに」
「エレノアさん。村の訪問は普通玄関口から入るものですよ。空から降りてきた名も知らない人は、基本的に襲撃者として扱われますって。こんな村なら特に」
「それもそうね」
自分達が襲撃者であると理解したエレノアは、この村の村長が出てくるまで暇なのか俺で遊び始まる。
寝る前にもよく俺のほっぺをムニムニとしたり、髪の毛で三つ編みを作って遊んでいる癖にまだ遊び足りないのか。
最近のお気に入りの遊びは、俺のほっぺを人差し指で潰す事。
もう長い付き合いだから、俺は抵抗もせずになされるがままである。
「一応、村長が来たらやめろよ。格好がつかないし」
「ふふっ、分かっているわよ。それにしても、ジークのほっぺたって本当にモチモチよね。産まれたての赤ん坊みたい。肌も綺麗でツヤがあるし」
「何も手入れとかしてないんだけどな。あれだろ。どうせ母さんの血が全て強いんだよ」
「全人類の女性が喉から手が出るほどに欲する血でしょうね。シャルルさんのご家族も凄い美形揃いだし、あの家庭は本当にすごいわ」
「しかも、公爵家だぞ?金も権力もある。それでいながら、あんな貴族とは思えない性格をしてるんだから、母さんがやんちゃに育ったんだろうな」
「確か、家を飛び出して冒険者になったと言ってたものね」
全世界の女性が羨むであろう母さんの血。
フェニックスの血肉を飲んだわけでも、長寿種の血が入っている訳でもないのにあれだからな。
今まであの血を求めて命を狙われたことがないと言うのが驚きだ。しかも、母さん家族の性格はみんな温厚でいい人たち。
孫である俺の事を凄まじくかわいがってくれた公爵家当主のお爺さんとか、それはもう泣きそうな程に嬉しがってたっけ。
また会いに行きたいな。あそこはちょっと顔面偏差値が高すぎて腰が引けるが、居心地は最高だったし。
それと、親父の方の祖父母にも会いたい。
従妹は元気にしているのだろうか?また遊びたいものだ。
「魔界の攻略が終わったらまた顔を出してみるか。皆元気にしてるかな?」
「元気にしてるわよきっと」
そんなことを話しながら待っていると、一人だけ別格に強い悪魔がこちらへとやってくる。
かなりのご老人であるが、その強さら一目見てわかる。
今のデモットが本気を出してギリギリくらい付けるかどうかの強さだ。
ただ1つ、この悪魔には特徴がある。
左腕がない。隻腕の悪魔であった。
「ふむ。襲撃者にしては礼儀正しいな。私が来るまで待っていたのか?」
「襲撃者じゃないからね。訪問しに来ただけだよ」
「ほう?ならばアルバスを離してもらいたいものだな。今時の訪問者は人質を取るのが主流なのか?」
「まさか。案内役を買ってもらっただけだよ。ほら、どうぞ」
随分と冷静なおじいさんだ。
俺とエレノアが自分では敵わない相手であると分かっているはずなのに。
いや、分かっているからこそ、冷静に対処して事を丸く収めようとしているのだろう。歳をとった老人はこれだから侮れない。
「して、何の用だ?見たところ悪魔では無いな。特徴からして、人間であると見える」
「御明答。俺とエレノアは人類種に分類される存在だ。人類が住む大陸は知っているか?そこからやってきたんだよ」
「ふむ。で?」
「村があると聞いてね。興味を持ったんだ。よろしければ、お話を聞かせてもらいたいものだね」
「ふむ。暴れないのであればよかろう」
話が早い。こちらが本当に話がしたいだけだと言うのを見抜いている。
俺はこの老人がウルと関係があるのか気になりつつ、隻腕の老人に案内されるのであった。
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