賢い弟子


 南の大地はロマンに溢れている。


 南側の大地はとにかく自然が豊富で食料が多いのか、見たことがない魔物が沢山存在していた。


 その大部分は似たような見た目をした魔物なのだが、俺からすればロマンなんだからどうだっていい。


 ちょっと種類が多すぎて、名前が覚えられないぐらいには魔物の数が多く、またその解説をしてくれるデモットはとても楽しそうであった。


 なんだよ俺達の弟子かわいすぎかよ。


 ウッキウキの笑顔で解説をしてくれるもんだから、俺もエレノアもそんな可愛いデモットが見たくて初めて見る魔物を探していたりする節もある。


 いつもの事ながら、俺もエレノアも弟子バカであった。


 それからしばらくの間は魔物を狩り続け、やがて初めて見る魔物も減ってくる。


 だいたい見覚えのある魔物ばかりになってきた頃。俺達は遂にこの森の破壊を開始した。


「燃え尽きなさい」


 エレノアの代表的な魔術“獄炎煉獄領域ゲヘナ”が、森の悉くを焼き尽くす。


 全てを破滅させるこの破壊力と圧倒的な火力。


 炎魔と呼ばれるようになった魔術は伊達じゃない。


「相変わらず滅茶苦茶な火力をしてるな。何が理不尽って、徐々に燃え広がるんじゃなくて一気に燃やすから避けようがないんだよな。事前に知ってないと」

「お二人が使う魔術は基本理不尽ですよ。俺を見習って欲しいぐらいです」

「あはは!!デモットもその内こんな魔術を作ることになるさ。狩りに必要なのは効率だからな。自然を破壊してもいいんだし、楽しくデストロイだよ」

「デス........ちょっと言葉の意味が分かりませんが、言いたいことは分かりますよ。破壊しつくせって事でしょう?」

「その中には“環境破壊は気持ちいぞい”なんて言葉もあるんだ。やっぱり破壊は創造の原点だよな?」

「すいませんジークさん。俺は悟りを開いてなんで何が言いたいのかさっぱりです」


 気がついた時には全てが灰になる一撃。


 その一撃を空から眺める俺と、呆れた顔をするデモット。


 当の本人事エレノアは、炎の真ん中に突っ立って楽しそうに笑っていた。


 やっぱりエレノアはこうでなくっちゃ。俺の知る、俺の相棒はこんぐらいぶっ飛んでないと務まらない。


「本当に楽しそうですね........見慣れましたけど」

「いい笑顔だよな。俺と最初に出会った頃は、割と冷たい感じだったんだぜ?その氷が溶けたかと思ったら、今や大火炎だ。エレノアの中には0と100しかないのかね?」

「その話、前にも聞きもしたけど本当に信じられませんね。あのエレノアさんが冷たい人だっただなんて」

「人は時間が経てば変わるもんさ。俺もな」


 今のエレノアしか知らないデモットからすれば、出会った頃の効率厨エレノアの姿は信じられないのだろう。


 あの頃のエレノアは、とても冷たい視線を持っていた。


 常に効率のことを考えるが、ご飯を食べる時だけは幸せそうな顔をする。


 そんな子だったのだ。


 今となっては、灼熱の中で大笑いしながら爆炎を撒き散らす火力厨になっているが。


「デモットも大きく変わったんだ。それと同じさ」

「確かにジークさん達と出会ってから、俺は大きく変わりましたけど、ここまでは変わってませんよ」

「なんだとー?師匠を見習えコノヤロウ」

「あはは!!」


 ちょっと生意気なことを言うデモットの肩に手をかけて、笑いながら頭をグシャグシャと撫でる。


 デモットも楽しそうに笑いながら、微笑ましい時間が流れていたその時、遠くから悪魔の気配を感じた。


 おい、弟子とのスキンシップを邪魔するやつは何処のどいつだ。


「悪魔の気配ですね。でも、なにか焦っているような気がします」

「知るか。経験値がやってきたんなら殺すまでだよ」

「話ぐらいは聞いてみたらどうです?もしかしたら、侯爵級悪魔の居場所が簡単に分かるかもしれないですよ?」


 サラッと殺そうとする俺と、話を聞き出してから殺せば?と言うデモット。


 何気にデモットもエグい考え方を持ってるんだよな。


 敵と味方の区別がハッキリしすぎていて怖いとデモットに言われたことがあるが、君も相当だからね?


 なんなら、俺よりも悪辣なところがあるし。


「確かにそうだな。話でも聞いてみるか。最初から敵対的なら殺すけど」

「そのぐらいでいいと思います」


 デモットを撫でる手を止めて、こちらにやってくる悪魔を待つ。


 腕を離されたデモットは少し寂しそうな顔をしていた。


 後でもっと撫でてあげるからね。


「あら、悪魔ね。殺さないの?」

「情報を聞き出してからにした。もしかしたら、侯爵級悪魔の街の場所を知ってるかもしれないから」

「デモットの入れ知恵ね?やるじゃないデモット」

「そうでしょうとも!!」


 エレノアに褒められ、胸を張るデモット。


 さりげなくエレノアに頭を撫でられて、とても嬉しそうな顔をしている辺り、デモットは弟属性が強すぎる。


 一応、年齢はデモットの方が上なんだけどな。


 甘え上手でいい子だから、可愛がってしまう。


 そんなことを思っていると、悪魔が俺達を見つけてこちらに寄ってくる。


 警戒心がない。随分と危機管理に欠ける悪魔だな。


「か、火事が見えたからこちらにやってきたのだが、何があったのか知っているか?」

「私が燃やしたわ。それで、貴方は誰?どうしてここに?」

「ファッ?!燃やした?!........いや、それよりも、君の姿は悪魔では無いな?!何者だ!!」


 今更すぎるだろと思いつつも、俺とエレノアが名乗る。


 魔界にやってきた人間を一目見て、そいつが人間だと分かるやつなんて居ないしな。


「人間だ。それと、動くな」

「うぐっ........」


 あまりにも隙だらけだったため、実は誘っているのではないかと疑ったがそんなことは無かった。


 俺が魔術で悪魔を拘束すると、青年の悪魔は魔術に素直に拘束されて動けなくなる。


 弱いな。初めてであった時のデモットよりも弱い。


「今からする質問には素直に答えることを進めよう。でないと痛い目を見るぞ?お前は何者だ?」

「あ、アルバスだ」

「そうかアルバス君。君は侯爵級悪魔以上の爵位を持つ悪魔の居場所を知っているか?」

「........は?いや、知ってはいるが........」


 お、大当たりやんけ。


 これは後でデモットをたくさん褒めてやらないとな。


 これで天魔くんちゃん達に探させる手間が省けた。


 とここでデモットが待ったをかけた。


「ジークさん、この悪魔ちょっと変ですよ」

「ん?何が?」

「尻尾を見てください。本来あるはずの尻尾がありません」


 デモットに言われて下の方を見てみると、確かに尻尾が存在していなかった。


 悪魔の特徴は2本の角と尻尾。その内の尻尾が、この悪魔は欠けていたのである。


「尻尾のない悪魔は、角がない悪魔と同じく出来損ないとして扱われます。そして、この森の中でそんな出来損ないが生きていけるとは考えにくいです。もしかしたら、ウルさんのところと同じように、弱い悪魔達を集めた集落があるのかもしれません」

「なっ!!何故それを........あっ」


 ........どうやら、集落があるらしいな。


 おバカな子かな?なんで反応しちゃうんだよ。


 ウルフ以外にも、弱い悪魔達が肩を寄せあって暮らす村を形成していても不思議では無い。


 むしろ、あの村以外に一つもない方が不自然とも言える。


 俺が知らない間に天魔くんちゃん辺りが村を滅ぼしている可能性もありそうだな。まぁ、ウルのところの村以外は割とどうでもいいのだが。


「最近、村の拡張をやってるじゃないですか。あそこに住まわせればいいですし、もしダメでも避難場所である遺跡の中の管理を行わせることもできます。もちろん、ウルさんの許可は必要になりますけど」

「なるほど。ちゃんとメリットを考えてあるってことか。一旦ウルに話を聞かないといけないが、村を見るのは悪くないかもな。ほかの悪魔の村がどんな感じなのか気になるし」


 こうして、俺達はウルの村以外のむらの存在を知るのであった。


 デモット、優秀すぎないか?


 師である俺達より賢い気がする。




 後書き。

 流石デモット。賢い。というか、経験値しか基本頭にない師匠二人がちょっとおバカ。悪魔は基本経験値だからね。仕方ないね‼︎

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