リエリーする(動詞)
怪獣バトルを実現し、俺は大変満足であった。
スピノサウルスとか言う見た目がカッコイイ恐竜に、超ロマン砲を撃たせるのがこんなにも楽しいだなんで思わなかった。
やはり魔界の魔物はロマンに溢れている。
人類大陸の魔物たちも魔界の魔物を見習って口からビームを吐け。そう言いたくなるぐらいには、この魔界という場所は楽しかった。
地球に生まれ地球で育ってきた人間がこの世界の魔界の魔物を見たら、そりゃ興奮するよね。
誰だって恐竜にはロマンを感じるはずだ。
だって現実世界にジュラシックな公園が出来たらみんな見に行くだろう?
俺なら、全財産を叩いてでも見に行く。
何年待たされようが絶対に行きたいし、リアルな恐竜を見てみたい。
当時の地球の環境と今の環境は大きく異なるから、多分DNAを取りだしてクローンを作ったとしても直ぐに死ぬ可能性が高いだろうが。
だからこそロマンなのだ。
ただしクソデカ虫ケラ、テメーはダメだ。
酸素が今の地球よりも多かった時代は、生き物が全体的に大きかった時代。
人間サイズの虫とか見た日には、発狂する自信がある。
魔物ですら嫌なのに。
そんな事を思いながら、俺達はその後南の大地で軽くレベリングをして村へと帰ってきていた。
予定では村には帰らずにレベリングを始めようかと思っていたのだが、村に置いていた天魔くんちゃんから報告があったのだ。
村を拡張するための魔法陣ができたから、また実験を手伝って欲しいと。
この村には世話になっているし、何よりウルが“よろしく頼む”とお願いしてきている案件。
ウルには世話になっているし、村が拡がって村の生活が豊かになること自体は悪いことでは無いので一旦レベリングは後に回して村の拡張を優先することにしたのである。
レベリングはいつでも出来るしね。
この魔界は経験値の宝庫。それに、まだ西の大地を完全に滅ぼし終えてないから放置狩りもできないし。
ちなみに、西の大地の地形及び悪魔達の配置はある程度わかっている。
その中には大公級悪魔と見られる街も存在していることが確認できたので、順を追って喧嘩を売りに行くつもりだ。
一応、その街の周辺だけは手を出さないように言ってある。
この街の主を倒したら、滅ぼすからな。覚悟しておけ。
「んで、今回の魔法陣はこれか」
「んー........なるほどね」
「お願いできますか先生。村長が“実験はあの二人にやらせろ”と仰ったので........」
「実験は結構危ないからな。ウルの判断は正しいよ」
「私達が居ない時はウルに頼みなさい。そしたら、安全よ」
「は、はい。分かりました」
今回もこの実験を一緒に見守るのはボニーさんだ。
この人、俺達と悪魔達の仲介役みたいな役回りをさせられてるの大変そうだな。
一応、村の悪魔達とは全体的に仲良くしているのだが、やはりお願い事はその中でも仲のいい悪魔にお願いする形なのだろうか。
まぁ、俺が逆の立場でもそうするから、何も言うことは無いが。
「じゃ、魔力を流してみるか。今回はリエリーするかな?」
「ふふっ、どうでしょうね」
「あの、先日も仰ってましたが、その“リエリーする”とはどういう意味なのでしょうか?」
俺とエレノアにしか伝わらない会話を初めてしまったことで、置いてきぼりになってしまったボニーさん。
別に知らなくとも困ることは無いのだが、さすがにここで一人仲間はずれは可哀想なので教えてあげるとしよう。
可愛く素直な頭のイカれた実験馬鹿の話を。
「人類大陸に存在するオリハルコン級冒険者の一人にして、所構わず魔術実験を繰り返しては爆発を引き起こすエルフさ。兎に角爆発させまくるから、魔術実験で失敗したら“リエリーする”って勝手に言ってる」
「凄いわよあの子は。帝国の城........そうね。悪魔の街で言う領主の館で魔術の実験をして部屋を一つ吹き飛ばしたことがあるらしいわ。当たり前だけど、その国は出禁ね。むしろ、よく出禁だけ済んだものだわ」
「りょ、領主の館で魔術実験?!しかも、部屋を一つ吹き飛ばした?!その人、頭おかしいんじゃないですか?!」
リエリー、ついに顔も知らぬ悪魔にすら“頭がおかしい”と言われる。
だよね。やっぱりそうなるよね。
普通権力者の家で実験とかしたりしないよね。許可を取っているならともかく。
頭がおかしいのだ。我らがリエリーちゃんは。
どんなところであろうとも、思いついたら即実験。
しかも早寝早起きの健康児だから、朝っぱらから目覚まし代わりに爆発音が鳴り響く。
それが我らがリエリーちゃんなのである。
「あぁ、頭がおかしい。だいぶ狂ってるな。狂ってると言うか、常識が無い。でも、その欠点を除けばかなりいい子だぞ。素直で可愛いし」
「そうね。その欠点ひとつを除けば、素直で可愛い子ね。ちゃんと言えばその場での実験も辞めるわ........まぁ、途中でその事を忘れて実験を始めてしまうんだけど」
「そのひとつの欠点で全てが台無しですよ........だってこの村で言えば、村長さんの家をまるまる吹き飛ばすって事になるんですよ?!」
「わぁ、そう言われるよやばいな。確か、あの家って師匠と一緒に作った家だから、滅茶苦茶キレるだろ」
「絶対にやばいわね。自殺願望者でもそんなことはしないレベルよ」
なんだろう。この村で例えると急にやばさが際立つな。
ウルの住む家を吹っ飛ばす。
考えただけで恐ろしい。
あの家は師匠と一緒に作った家。つまりは、ウルの大切な思い出のひとつなのだ。
師匠の事が好きすぎて、どこからともなく人間の金を調達して貢ぎ始めるぐらいには師匠のことが大好きなのである。
普通にビビったよね。人類大陸で使われている金を持ってたのは。
どうやって手に入れたんだよその金。しかも、当たり前のように金貨があったぞ。
そんな師匠ガチ勢の家を吹っ飛ばす?冗談じゃない。
自殺したいにしてももっとマシな死に方を選ぶだろう。そんなことをしようとした奴がいたら、俺が説得して俺が殺してやるぐらいにはヤバいことである。
「リエリーってやばいんだな。慣れちゃってあまり気にしてなかったけど」
「相当頭がおかしいのはよく分かったわ。いや、元々頭のおかしい子だとは分かってたけど」
間違ってもリエリーをこの村に連れてきてはならない。
俺はそう思いながら、無駄話もここら辺にして魔法陣に魔力を流す。
ちなみに、俺とエレノアは既にこの実験の結果が分かっている。パッと見ただけで間違っている点が1箇所あった。
しかし、それ以外は修復されていたのを考えるに、皆かなり本気で議論したのだろう。
魔法陣を見ただけで、その努力が伺える。
ドゴォォォォォォン!!
大きな爆音が響き渡り、地面が揺れる。
上手く魔力が途中まで回っていただけに、暴発した魔力量が増えて火力が上がっていた。
なんか、魔術の失敗をしすぎて俺も失敗した時の爆発の威力の上がり方とか分かるようになってきたんだよな。
変な特技が見に着いた瞬間である。
「あぁ........また失敗ですか........」
「失敗は失敗だけど、以前よりも間違っていた点は少なかったと思うぞ。前は割と最初の方で魔力が詰まってたけど、今回は最後の方までスムーズに魔力が流れてた。あと少しだ。諦めずに頑張れよ」
「そうよ。私達もこんな失敗を何度も繰り返して魔術を生み出しているの。そんなに落ち込むことでもないわ。慣れてくれば、自然とミスも減るしね」
「はい。皆さんと一緒に頑張ります。村は大きくしたいですからね」
静かに微笑んだボニーさんはそう言うと、ガックシと肩を落として戻っていく。
助言してあげてもいいが、間違いを見つけるのもまた魔術の研究の一つだ。ここは心を鬼にして、何も言わないでおくのが本人たちの為になるだろう。
後書き。
リエリーするで大体伝わる。
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