怪獣バトル
新たに作った魔術スピくんの調整を終えた俺は、再び南の大地へと戻ってきていた。
スピノサウルスvsスピノサウルス。
地球の頃では決して見られなかった夢のミラーマッチを開催するために、俺は色々と手を施したのである。
ちなみに、スピノルと戦わせるだけでは勿体ないので、ティノルスとかその他の魔物も相手にしてみようと思っていたりする。
某、琥珀に埋まった蚊の血から恐竜を復活させた映画でしか見られなかったあの光景を、現実のものにするのだ。
あの映画にスピノサウルスが出来ていたかどうか覚えてないけど。
一番印象に残ってるのは、ワールドの最後にいい所取りして行ったモササウルスなんだよね。
いやお前が倒すんかい!!って初めてみた時は思ったものである。
え?ネタバレだって?
いいだろ。そこそこ昔の映画だぞあれ。
「ジークさん、ウッキウキですね。すごく楽しそうです」
「実験の為にちょっと動かしていたけど、その時ですら楽しそうだったわよ。トリケラプスとか、そこら辺の魔物シリーズを作っている時も楽しそうだったわね」
「ちなむに、人類大陸では魔物の形をした魔術は作ってたんですか?」
「私の記憶にある限りは無いわね。魔界の魔物達は、ジークの心に刺さったみたい」
出来上がったスピくんを戦わせてみたくてウキウキしている俺を見て、微笑ましそうな視線を送るエレノアとデモット。
怪獣バトルですよ怪獣バトル。そんなの楽しみに決まっているでしょうが。
あー、またクソデカ怪獣シリーズとか作ってみたいな。だいぶ前にロマン寄りに作って放置してしまっている闇巨人を改造して、クソデカ怪獣を作ろうかな。
そして、その肩に乗って俺は戦うのだ。
デカイ怪獣の肩に乗って“行け!!”とかやるのちょっと夢だったんだよ。
やはり魔術は無限の可能性を秘めている。
大賢者マーリンが魔術を開発してくれたおかげで、俺はこうしてロマンを追い求めつつも放置ゲーが出来るわけだ。
ありがとう大賢者マーリン。
そもそも、本当に存在していたのかすら怪しいとすら言われているけど。
しばらく森の中を歩いていると、スピノルの影を発見する。
数は一体。夢の怪獣バトルの開幕だ。
「お、スピノル発見。行くぞスピくん。お前の強さを見せつけてやれ!!」
「........(行くぜ!!)」
俺の指示に従って、ノリノリで出てきたスピくん。
全身真っ黒の漆黒の怪獣は、その元となったオリジナルに向かっていくと挨拶代わりに突進を繰り出した。
おぉ!!いいねいいね!!
素早い戦いも好きだが、こうやって地面が揺れるほどに重々しくゆっくりな戦いというのも迫力がある。
アルロスとトリケラプスが戦っていた所を見た時も思ったが、大きな体格を持った魔物達が争う姿は迫力満点だ。
今回は片方が魔術だけども。
「お、先制攻撃はスピくんね。その調子よ!!なぎ倒してしまいなさい!!」
「がんばれー!!」
観戦していたエレノアとデモットも、この怪獣バトルを見始めると楽しそうに応援を始める。
意外と2人もこういう怪獣バトルとか好きそうだもんな。エレノアは重々しい一撃で殴り合い姿とか好きそうだし、デモットは普段見られない光景が見られて楽しいと言った感じだろう。
やっぱりね、怪獣バトルは正義なんですよ。
デカイロボットとか、デカイ怪獣が戦ってたら、盛り上がるものなのだ。
まぁ、地球上でそんなことが起これば大問題だが。
「グギェェェェェェェ!!」
「........(グヲォォォォォォ!!)」
急にタックルされて倒されたスピノルは、何とか体勢を立て直すとスピくんに向かって威嚇する。
対するスピくんは、声が出せないので吠えている振りをしてその場の演出に専念していた。
黒魔術で作っただけあって、こういう所はノリがいい。
魔術の属性ごとに性格が異なるとか言う、人類の誰もが気が付かないであろう事に気がついた俺。
この理論が役に立つ日とか来るのかな?
「グギェェェェェェェ!!」
体制を立て直したスピノルの攻撃!!
首を大きく動かして、スピくんの首元に噛み付こうとしてくる。
対するスピくんは、その攻撃に合わせて頭を横に振った。
ゴォン!!と、鈍く重い音が響き渡る。
「おぉ!!カウンター!!」
「いいわよ!!その調子よ!!」
「おー!!凄いです!!」
噛みつきに合わせて相手の顔面に頭突きを食らわせると言う高等テクニック。
スピくんの頭がスピノルにめり込み、噛み付こうと大きく口を開けていたスピノルは、悲鳴も上げずに二度目のダウンを奪われる。
ゆっくりとした重い動きの中でも、しっかりとカウンターを決められるとは流石はスピくん。
お陰で俺達は大盛り上がりだ。
「グギッ!!」
さらに、スピくんはパフォーマンスなのか、足で倒れ込んだスピノルを踏みつける。
そのまま噛み付けばゲームセットであるが、スピくんはあえて踏んづけるだけでトドメは刺さなかった。
スピノルはその隙を逃さず、勢いよく身体を動かしてその足を跳ね除ける。
何とか立ち上がったスピノル。
普通の殴り合いでは勝ち目がないと悟ったのか、少し距離をとると口を大きく開けてその中に魔力を溜め始めた。
ビームを打つ気だ。
スピくんもそれを察したのか、俺達と斜線が被らないように移動すると相手の動きを待つ。
「グギェェェェェェェ!!」
一線になぎ払われたビーム。
ビームは地面を深くエグると、時間差で爆発を引き起こして壁を作る。
何度観てもカッコイイ。ビームの種類は数あれど、俺の心に刺さるビームばこれしかない。
「何度観てもかっこいい........」
「あら、ジークが乙女のような顔をしてるわよ。ふふっ、可愛いわね」
「あの、エレノアさん。ジークさんで遊ばないであげてください」
ビームに見とれる俺と、そんな俺を見て後ろから抱きつくエレノア。
平常運転すぎる師匠達を見て、呆れるデモット。
そんないつもの雰囲気の中、スピくんは一撃を避けると反撃に移る。
「........(ぬん!!)」
ビームを打った反動で隙だらけのスピノルに、再び突進。
思いっきり突撃したのか、スピノルは先程よりも大きく吹き飛ばされ、周囲の木々はへし折られていた。
そして、お返しと言わんばかりにスピくんのビームが放たれる。
口に溜められた魔力が線となって放出され、地面をエグりながら直線を描く。
そして、ビームを打ち終わった後、その後を追うかのように一斉にエグれた地面から黒い壁が出現した。
第九級黒魔術“
ノリと勢いだけで作られたこの魔術は、男の子のロマンを詰め込んだ超カッコイイビームである。
何度も説明したとおり、ビームが過ぎ去った後を追うかのように爆発する魔術であり、正直実用性が欠けらも無い。
遅延魔法陣を組み込んである上に何かと構造が複雑で魔力も食うので、破壊力の割に難易度がとても高いという欠陥魔術。
しかし、それを持ってしても余りあるロマンとかっこよさ。
なぜ俺は今までこの魔術を作らなかったのだろうかと思うぐらいには、演出が好きな魔術である。
「スピくんカッコイイ!!最高!!」
「一撃で相手も止めて魔術でトドメ。やるじゃない」
「おー!!こうして見ると結構かっこいいですね」
「........(ドヤァ)」
効率が悪くロマンの域を出ない魔術だとしても、その破壊力は本物。
一撃でスピノルを葬り去ったスピくんは、滅茶苦茶ドヤ顔をしながらこちらへと戻ってきた。
「........(褒めて褒めて!!)」
「おーよしよし。よく頑張ったぞ。凄くかっこよかったぞ」
「ふふっ、とてもかっこよかったわよ。頑張ったわね」
「かっこよかったです!!」
こうして、俺の思うカッコイイを掛け合わせた最強の魔術が誕生した。
今度はもっとでかい大怪獣を作ってみようかな。ほら、ゴジラとか。
後書き。
スパ君、ジークが搭載してくれたビームを撃つ為に手加減した模様。
ジークのツボをちゃんと押さえている。賢い。
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