なんちゃってスピノサウルス


 スピノサウルスとか言う、男の子のロマンを詰め込んだかのようなかっこいい魔物にインスピレーションを受けた俺は、とりあえず目の前にいたスピノサウルス二体を爆速で処理した。


 確かにスピノサウルスは強いが、所詮は破滅級魔物程度でしかない。


 昔ならば苦戦を強いられていたのは間違いないが、今の俺の敵ではなかった。


 適当に魔術を放って終わりである。


 俺の好きなタイプのビームを見せてくれたと言うお礼も込めて、できる限り苦しませずに殺してやった。


 一瞬で頭を消したので、痛みもなく死ねた事だろう。


 南の大地の探索をある程度終えた俺達は、一旦村へと戻る。


 そして、俺はあのかっこいいビームとスピノサウルスを再現する為に魔術をいじくり回していたのである。


「えーと、ここがこうだから、ここに遅延させる魔法陣を組み込んで........」

「早速作ってるわね」

「そりゃあんなにかっこいい攻撃方法を見たら再現度のひとつでもしてみたいだろ?ちなみに、実用性をまるで考えてないから、魔法陣がすごい非効率的なものになってる」

「........うわぁ。なにこれ。遅延魔法陣ばっかりね。しかも、無駄に完成度が高いわ」


 チラリと俺の横から魔法陣を覗き込むエレノアは、俺の製作途中の魔術を見て顔を歪める。


 見よ、この実用性皆無の酷い魔法陣を。


 ビームが過ぎ去った後に爆発する性質上、遅延系統の魔法陣を組み込む必要がある。


 しかもらそこに力の上乗せやら何やらを組み込み、更に遅延して二度目の爆発まで仕込んでいる。


 遅延魔法陣とはその名の通り、ある魔方陣に対して遅延をかけるためのものである。


 遅延魔法陣で連結させることで、遅れて効果がやってくる魔術となるのだ。


 実はこの魔法陣、あまり実用性が無く、俺もほぼ使った記憶が無い。


 大体の魔術は他の代案が用意できる上に、その代案の方が優秀なのだ。


 そんなわけで、割と不遇気味の魔法陣とも言える。


 結界で相手を閉じ込めてから内部を燃やすとか、そう言う2段階に分かれている魔術なんかにはちょくちょく使われているのだが、それなら最初から範囲を決めて燃やせば良くね?となるからね。


 こうしたロマン溢れる魔術を作る時以外はあまり役に立たない子なのだ。


 逆に言えば、ロマンの塊ではある。


 事実、こうして俺のロマンビームの作成に使われているわけだしな。


「遅延時間を操作できるようになれば、地雷のような役割として使えるかもしれないわね」

「いや、そんなことしたらかっこよさが無くなるって。薙ぎ払った後を追うかのように爆発するからこう言うのはかっこいいんだよ」

「........そこはジークの拘りなのね。ところで、ここの連結部分。どうしてこの魔法陣を使っているのかしら?」

「あぁ、それか?それは被害範囲を抑える為だな。制御用に入れてる。じゃないと、ばくはつで全てが吹っ飛ぶからな」

「そっちの方が火力があっていいじゃない」

「いいかエレノア。ロマンは、火力じゃない。かっこよさだ」


 ドヤ顔でそういう俺と、その言葉を聞いて再び呆れるエレノア。


 エレノアは火力厨だから、理解できないかもしれないが、ロマンとはそういうものなのである。


 実用性皆無のある一部の敵に対してだけとんでもなく強い制作難易度最高峰の武器とか、そういうのを作るのって楽しいよな。


 絶対ほかの武器を使った方がいいんだけど、見た目がカッコイイから使うとかよくあることだ。


 今どきのゲームは武器の見た目とか自分好みにできる上に性能が変わらないなんて事も出来るそうだが。


 便利な時代になったものだ。昔なんて、どんなにクソダサい装備でも、強いなら着るガ当たり前だったというのに。


「まぁ、ジークが楽しいならそれでいいけどね。それで、こっちの魔法陣は........あぁ。ジークのお得意魔術のお仲間ね」

「スピノル君だ。見た目がカッコイイから作っちゃった。ちなみに、再現度がバカ高いぞ。しかも、サイズ調整だってお手の物だ」


 俺はそう言うと、黒魔術で作られたスピノルを手のひらに呼び出す。


 本物を参考にしただけあって、その造形は本物そっくり。


 さすがに色合いまで似せるのは魔術の特性上難しかったが、質感をできる限り似せるのは頑張った。


 形はすぐにできたのに、質感に拘りすぎて半日取られたからな。


「凄いわね。メイドちゃんや闇オオカミを作っていた時も思ったけど、ジークってその魔物や生き物の形を綺麗に模倣するのが上手よね。私にはできないわ」

「そうか?慣れると意外とできるぞ」

「慣れるまでが大変だって話しよ。私も一度自分なりに作ってみようと頑張ったけど、結局諦めてジークの魔術を模倣しているしね」


 エレノアはそう言うと、“初めまして!!”と言わんばかりに俺の掌の上で存在をアピールするスピノルを指先で突く。


 この子も当たり前のように意志を持っているので、エレノアが俺の相棒であると分かるとその指の上に飛び乗って頭をブンブンと振っていた。


 恐竜がヘドバンしてる。初めて見たわ。


「ふふっ、この子も面白いわね。どのぐらい強いのかしら?」

「ぶっちゃけあんまり強くない。どちらかと言えばサメちゃんとかと同じタイプだな。俺が好きだから作った感じ」

「そう。それは残念ね。ちょっとは遊べるかと思ったのに........」

「それ、遊ぶの意味が違うだろ」


 遊ぶ(戦う)ですよねそれ。


 エレノア。昔はあんなにも凛としてクールな感じだったのに、いつから戦闘狂の子に育ってしまったんだ........


 割と最初からか。ダンジョンの街レルベンに行った辺りから既に戦闘狂としての才覚を発言させてたわ。


「後はこの魔術をスピくんに搭載して完成だな。出来上がったら大怪獣バトルをさせてみたい。絶対盛り上がるぞ!!」

「南の大地に行って、スピノルと戦わせるつもり?」

「もちろん!!そのために作ったんだからな!!絶対に負けないように色々と施してはあるけども」

「ふふっ、本当にジークは頭がどうかしているわね。魔物のような見た目の魔術を作って戦わせるだなんて」


 少し呆れたような、どこか楽しそうな表情で笑うエレノア。


 久々に俺のテンションが高いせいか、エレノアが俺を見る視線が完全にお袋のそれであった。


 あれだ、馬鹿な息子を優しく見守る母みたいな。


「ちなみにそれが終わったら、家の番犬でもやってもらおうかなって思ってる。メイドちゃんと執事君とサメちゃんだけでもいいんだが........やっぱり番犬みたいなのは欲しくないか?」

「番犬なら闇狼君が適正でしょう?」

「いや、闇狼君は可愛すぎるからあまり番犬感が無い。やっぱりかっこよくて見た目が強そうなやつの方が番犬感がありそうじゃん」


 番犬と言えば、やはり強そうなやつの方が番犬にふさわしい。


 闇狼君はちょっと可愛すぎるので、代わりにスピくんに頑張ってもらおうと思っている。


 とは言っても、ウチに入り込むような泥棒もいなければ、周辺に魔物もいないので癒し枠になるだろうが。


 多分サメちゃん辺りと仲良く遊んでそう。


 うわー見てぇ。サメちゃんと楽しそうに遊ぶスピくんとか、絶対微笑ましいじゃん。


 んで、敵が来たらあのかっこいいビームで相手を薙ぎ払うんだろ?


 ロマンの塊じゃん。ついでに合体変形とかしてくれたら、大歓喜だ。


 ........作ろうかな。サメちゃんとスピくんの合体モードとか。


「取り敢えずは、スピノルと戦わせるぞ。頑張ってくれよスピくん」

「........(ラジャ)」


 小さな腕で頑張って敬礼しようとするスピくん。


 その可愛らしく愛らしい姿を見て、俺もエレノアもふふっと笑うのであった。






 後書き。

 ビームがあの語彙力で伝わるとは思ってなかった。かっこいいよねあれ。滅茶苦茶好き。後はコメにもあった、何本も発射して相手を追尾する奴とかも好き。あのカクカク曲がったり、グルグルと渦巻く感じが堪らん。

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