南の大地へ


 デモットの小さな親孝行は大成功した。


 毎日のように俺の料理作りを手伝ってくれるデモットの料理の腕はグングンと伸びているし、親父直伝の料理が不味いはずもない。


 そんな訳で、孫のような存在の作った美味しい料理を口にしたお爺さんは、最後まで涙を堪えながらご飯を食べていたのである。


 その後は四人で色々と話し、和やかな時間を終えた。


 そういう時間も悪くない。昔はレベリングだけに集中しすぎてこんな時間を取ることはほぼなかったんだけどな。


 あれだ。始めたてのゲームはやることが沢山で毎日狂ったようにやるけど、レベルも上がりづらくやることが無くなってくると日課のミッションだけ済ませてあとは放置するみたいな感じ。


 ソシャゲにありがちな事だが、ソシャゲの序盤はとにかくやる事が多い。レベルもガンガンと上がるし、それに伴ってスタミナが増えまくるから色々なことが出来る。


 しかし、ある程度レベルが上がってレベルが上がりにくくなると、やれることが減って毎日報酬の分だけをやってあとは放置みたいな事が良く起こるのだ。


 やがて、その毎日報酬を受け取るための作業も面倒になってゲームを引退する。


 俺も何度も通った道である。


 放置ゲーはそこら辺代わりとゆるいものが多く、ログインだけでもしておけばいいのが救いだな。


 ログインボーナスと放置した経験値だけ貰って、また放置。もちろん、それすらも面倒になる場合もあるんだけど。


 俺のやっている放置狩りも似たようなものだ。ログインボーナスはダンジョンにある経験値かな?ココ最近はレベルがかなり上がりにくくなったので、また新しい報酬を更新してくれる場所を探さないといけないが。


「お、小鳥ちゃんが南の大地に到着したみたいだぞ。後、そろそろ西の大地の殲滅も終わりそう」

「ジークの天敵がこの世から消える時が来たのね。本当に西の大地には寄り付かないから、その嫌いさがよくわかるわ」

「ジークさん、あの魔物が本当に苦手なんですね。生理的に無理なのは本当になんですね........」

「あれは人類の敵だ。この世界から滅ぼすしかない。この世界に蔓延るゴミだよ。焼却処分でも生ぬるい」


 村の発展と悪魔達との交流を続けていると、ついに次の目的への道が開ける。


 西の大地のほとんどを滅ぼした後に行こうと思っていた場所に小鳥ちゃんが着いたらしく、転移するだけで簡単に南にも行けるようになった。


 南の大地にはあのクソムカデが居ませんように。いやほんとに。本当に居ないで。いたら、俺は発狂しながら天魔くんちゃん達を暴れさせることになる。


 その姿を視界に収めたくもない。いや、想像もしたくない。


 あのうぞうぞと動く多足と長細い身体........ウップ吐き気が........


「これ、あの魔物のような見た目の魔術を開発したら、ジークを完封できそうじゃない?」

「いや、多分脇目も振らずに最大火力で全てを消し飛ばしますよ。エレノアさん、絶対やらないでくださいね?」

「やるわけないでしょ。ジークに本気で嫌われるわ。いやほんとに。シャレにならないからやらないわよ」

「そんな事をした日には、幾らエレノアとは言えど1ヶ月以上は口を聞かないからな。絶対やるなよ。絶対にだぞ!!フリじゃないからな!!」

「分かってるからそんなに興奮しないの。流石に弁えているわよ」


 マジの反応を見せたためか、苦笑いしながら俺を抱きしめるエレノア。


 うぅ。あのクソムカデ野郎。脳裏にあの気色の悪い見た目がこびりついて離れないよォ........


 なんで人って、嫌な記憶だけはしっかりしてしまうんだろうな?勉強にその記憶力を活かしてくれよ。


 そしたらもっと、頭がよく慣れるのに。


 本気で記憶に関する魔術を作ろうか悩むぐらいにはトラウマになりかけている。


 1度姿を見せただけでここまで俺にダメージを与えるとか、あの魔物ある意味最強なんじゃないか?


「それで、今から行くのかしら?まだ日が昇って間もないし、ある程度は探索できるわよ」

「ちょっと見に行くか。ポインターは設置しておきたいし。滅ぼすべき場所なのか調べないと」

「まぁ大丈夫だとは思いますけどね。俺が知る限り、南側に住む魔物にジークさんが苦手とする魔物は居なかったはずですし」


 それ、先に言ってよ。ちょっと行きなくないなーとか思ってたじゃん。


「ちなみに、どんな魔物がいるの?」

「鳥類系の魔物が多かったはずです。もちろん、ティノルスのような魔物もいたと思いますよ。南側の魔物の中で有名なのは確か、スピノルと言う魔物がいたはずです。背中に半円のようなヒレが付いているのが特徴的ですね」


 ........それ、スピノサウルスなのでは?


 うわぁ、見てみたい。凄く見たい。


 西の大地が昆虫博物館だったので結構萎えていたが、やはりこの魔界は恐竜モドキがメインなのである。


 スピノサウルス?見てみたいに決まっているじゃないか!!


 絶対かっこいいよ!!


 デカい強いかっこいいは、男の子のロマンなのだ。


 幾つになってもロマンを感じるし、幾つになってもその姿を見てみたいものである。


 もし地球にジュラ〇ックパークが出来たら、全財産を叩いても見に行っただろうね。


 俺は並ぶのとかあまり好きではないが、恐竜を見るためだったら何時間でも並べるよ。


「よし、行こう見に行こう!!そのスピノルを見に!!」

「急に元気になったわね」

「そうですね。昆虫系が居ないだけでここまで元気になれるんですね」

「ふふっ、いいじゃない。昆虫に怯えて震えているジークも可愛いけど、こうして楽しそうにしているジークの方が私は好きよ」

「それは分かります」


 スピノサウルス!!スピノサウルス!!


 頭の中は既に観光気分。かっこいい魔物を見るぞー!!と言うノリノリの俺を見て、エレノアとデモットは顔を見合わせると笑うのであった。




【スピノサウルス】

 白亜紀後期セノマニアン~チューロニアンのアフリカ大陸に生息していたスピノサウルス科の恐竜の属。化石はエジプト・ニジェール・モロッコのほか、リビアなど北アフリカで産出している。2022年時点での推定最大全長は約14メートル、推定最大体重は約7.4トンであるが、化石が不完全なためこの推定値も確かなものではない。

 ワニに類似する細長い吻部や、表面に縦皺の走る円錐形の歯、頭頂部の小型の鶏冠、高さ2メートル近くに達する椎骨の神経棘が特徴に挙げられる。結構かっこよく、私は好き。




 魔界の中央部にあるとある場所。そこには、悪魔たちの王たるソロモンが安らかな時をすごしている。


 かの王は暇である。数百年前、裏切り者ととある骸骨から戦争を仕掛けられた以降、王はあまりにも平和な時を過ごしていた。


 誰も王に逆らわず、誰も王に挑むことをしない。


 暇で暇で仕方がない。だが、遊びに行くのもなんか違う。


 そんな王は退屈を紛らわせるものが現れないか期待していた。


「ほう?何やら西側が騒がしいな」


 そして、西の大地の確認をし、西の大地の現状を確認する。


 森が、自然が、悪魔たちの多くが滅んでいる。


 そこに残されていたのは、滅びた跡地だけであった。


「ふむ。数百年ぶりに楽しめそうな者が現れたな?何者だ?いや、それも含めて期待して待つのも悪くないかもな。もし長く待たせられすぎたら、私から出向くとしよう」


 暇つぶしの相手を見つけたかもしれない。


 悪魔の王ソロモンはそう呟くと、早く暇つぶしになりそうなその者が現れてくれないかなと期待して待つのであった。


「出来れば、長く楽しむか、一瞬で燃え尽きるような激しい楽しみのどちらかが欲しいな。中途半端はつまらない」


 悪魔すらも恐れる悪魔の存在が、王の耳に入る日も近い。

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