デモットの親孝行


 将来が有望すぎる赤ん坊ニール君と遊んだその日の夕方、俺とエレノアは家に帰ってきていた。


 俺達が作った家の方ではなく、村にある家の方に。


 基本的な家具以外はほぼ何も置かれていない質素な家。後にここは開けることになるので、俺達は必要以上のものを持ち込むことは無い。


 そんな質素な家の中、鼻歌を歌いながら料理を作っていた悪魔が1人。


 そう。我らが愛弟子デモットである。


「随分と機嫌が良さそうだな」

「あ、ジークさんエレノアさん。お帰りなさい」

「ただいまデモット。鼻歌が聞こえてきたけど、どうしたのかしら?」

「いやー、今日の夕食にお爺さんを招待したじゃないですか。それがちょっと楽しみでして」

「あー、そう言えばそうだったな」


 デモットの育ての親にして、長き時を生きる御仁ヤーレンお爺さん。


 なんやかんやデモットに甘々なあのお爺さんは、今日家にご飯を食べに来る予定となっている。


 普段は割り当てられた家で一人暮らしをしているのだが、偶には一緒に夕食を食べようと言うことでこうしてデモットが料理を作っているのだ。


 俺が作っても良かったのだが、デモットがひとりで作りたいと言ったので任せてしまっている。


 多分、親孝行したいのだろう。


 俺も、親父とお袋にご飯を作ってあげて少しでも親孝行をしようとしたことがあるからとても気持ちは分かる。


 だから、今日はデモット1人に料理を任せていた。


 食材もデモットが自分で調達したものであり、草食恐竜のダンジョンから色々と取ってきている。


 俺とエレノアは基本的に経験値をくれる素晴らしい場所としか認識していないが、ダンジョンって本来無限に資源が出てくる生活には欠かせない場所なんだよな。


 ダンジョンを上手く制御した街は大きな発展を遂げ、物流の中心を担うなんてことも珍しくない。


 流石に首都にダンジョンを置くと危なすぎるが、首都以上に栄えている街なんて言うのも人類大陸じゃザラに見る。


 ダンジョンは人々の生活と密接に関わっているのだ。


 ........あれ?なんの話ししてたっけ?


「もちろんジークさん達の分も用意してありますので、楽しみにしていてください」

「楽しみにしてるよ。デモットの料理も美味しいからな」

「ふふっ、沢山作って頂戴。全部食べてあげるわ」

「はい!!頑張ります!!」


 これ以上はデモットの邪魔をしてはならないと言うことで、俺とエレノアは暇を潰すかのように魔術の研究やら議論やらを始める。


 こうして2人でいる時は、大抵魔術の話ばかりだ。画期的な案が浮かぶ訳では無いのだが、自分たちの思いついた魔術や理論を話し合うだけで新たな発見は見つかる事もある。


 まぁ、結局は既存の魔獣の延長線上でしかないので、ちょっと考えれば分かるよねって話ばかりなのだが。


 そうしてしばらくエレノアと話していると、コンコンと扉がノックされる音が聞こえる。


 俺が扉を開くと、そこには既にウッキウキなヤーレンお爺さんがいた。


「待ってたよお爺さん。随分と楽しそうなね」

「ほっほっほ。楽しみすぎて、昼を少し早めにとったわい。お陰で今は空腹じゃよ」

「それは良かった。もうすぐ出来上がるはずだから、上がって」


 遠足が楽しみで寝られなかった子供かよ。


 空腹は最高のスパイスなんて言うが、それを実践する為だけに昼飯を早めに食べてくるとは。


 余程デモットの手料理が楽しみだったのだろう。


 もう顔に書いてあるし。“はよデモットのご飯食べたい”って。


 お爺さんになっても楽しみなものは楽しみなのだろう。その顔は、子供のように輝いている。


 今回の主役も揃い、しばらくの間待っているとデモットが料理を運んでくる。


 いつも以上に手の込んだ料理を作ったのか、明らかに気合いの入ったステーキとスープがそこにはあった。


 ちなみに、パンに関しては俺が用意してある。


 流石にパンも一から作るのは無理があるからね。こればかりはしょうがない。


「ほぉ。匂いから既に美味しそうじゃのぉ........」

「アンキロルスのステーキだよ。肉の臭みを消すために下処理をして、薬草を塗り込みつつも肉本来の味が出せるようにしてあるんだ。それと、川魚と骨から取った出汁を使ったスープだね。こっちには野菜が多めに入ってるよ。どうぞ召し上がれ」

「ほっほっほ。ジーク殿達には悪いが、先に頂かせて貰うとするかのぉ」

「どうぞどうぞ。こういうのは暖かいうちに食べるもんだ」

「そうね。暖かい内に食べるものよ」


 俺たちの分は後でいい。今は、可愛い孫の手作り料理を食べるのが重要なのだ。


 お爺さんは洗練された動きで肉を一口サイズに切ると、肉を口の中に入れる。


 緊張の一瞬。果たして、デモットの手料理は口に合うのだろうか。


「........どう?美味しい?」

「........儂が今まで食べてきた料理の中で、一番美味い。かつて、大公級悪魔が重宝していた料理人の飯を食べたことがあったが、それとは比べ物にならないほどに美味しいの。ちょっと普通に感動しておる」

「それは良かった。ゆっくり食べていいからね」


 心の奥底から絞り出した言葉。お爺さんですら、言葉に表せないほどの美味なる料理。


 この雰囲気をぶち壊すほど俺もエレノアも空気が読めない訳じゃないので言わないが、多分孫補正入ってるよおじいちゃん。


 デモットの料理はもちろん美味しい。しかし、今までの人生の中で一番かと言われれば首を傾げる。


 間違いなく上位に入ってはいるが、トップではないかな。


 そして俺が今まで食べてきた中でいちばん美味しかった料理と言えば、やはり親父の料理である。


 結局、作る人によって味は変わるのだ。嫌いな奴が作った料理と好きなやつが作った料理。味が同じだとしても、感じ方が変わるのは言うまでもない。


「........儂、もう死んでもいいかもしれん」

「ダメだよ?デモットが悲しむって」

「そうよ。まだまだデモットの料理を食べたいでしょう?デモットの成長を見守りたいでしょう?死ぬには早すぎるわ。あと最低でも数千年は生きないと」

「ほっほっほ。儂も歳をとったの。目が霞むわい」


 孫のように可愛がっていた子が自分のために料理を作ってくれたという事実が、最高の調味料となってしまったらしい。


 潤んだ目で料理を食べるお爺さんは、俺たちに、デモットに涙を見られないように必死に涙を堪えていた。


 泣きたければ泣いてもいいのに。孫の前では泣けないのか。


 俺の親父とお袋なんて大号泣だったぞ。あの人達は感情表現が激しすぎる。


 特に酒が入ると。


「はい。ジークさんとエレノアさんの分です。お二人の好みに合わせてちょっと味が変わってます」

「ありがとデモット。早速頂かせてもらうよ」

「ありがとうデモット。頂くわ」


 俺とエレノアの分も来たので、早速俺達も肉にかぶりつく。


 んー!!美味しいな!!


 俺の好みを分かっているのか、少し濃いめの味付け。とても美味い。


 肉の焼き加減も最高であり、噛みごたえがありながらもとても柔らかい。


 恐竜魔物系の肉って、焼くのが結構難しいんだよな。火をいい感じに通さないと、生焼けになるし、ちょっと通しすぎると固くなってしまう。


 俺も最初に調理していた時は何度か失敗していた。


「デモットの作る料理も美味しいわね!!お代わりはあるかしら?」

「え?もう食べたんですか?!」

「ふふふ、美味しいものは直ぐに消えるのよ。勿体ないわね」

「えぇ........まぁありますけども」


 こうして、デモットの小さな親孝行は無事に成功した。


 ただ、お爺さんの食べた料理は全体的に少し塩っぽかった事だろう。





 後書き。

 ごめんなさい。更新忘れてました。

 別のやつ更新してたら、更新した気になってた。ほんとすいません。

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