南に聳える村
失敗は成功の母
次の目的地を南の大地に定め、侯爵級悪魔を倒そうという事になった俺達。
西の大地がまだ殲滅し終えてないのでもう少し時間が掛かりそうだなとか思っていたある日、俺は村の悪魔達に呼び出されていた。
「それで、この魔法陣が間違っているのかどうか確認して欲しいと?」
「はい。私達が色々と考えて作ったのですが、やはりここは先生に見てもらおうということになりまして」
「なるほど」
今、この悪魔達の村は大きな発展を迎えている。
自分たちが住むこの村の規模では小さいとして、新たに村を拡張しようとする動きが盛んになっていた。
その中で最初に着手されたのが、周囲から身を隠す方法。
彼らは新たに力を手に入れ、魔術という強者に抗う手段を手に入れたが、自分達が弱い存在であると自覚しできる限り身の安全を守れる方法を選択したのである。
昔の俺達のように、強くなったからと慢心しないその心、一度自分達が弱者だと理解しているからこその選択だ。
そして、生み出されたのがこの魔法陣。
パッと見幻術の魔術だな。ただし、俺がちらっと見ただけで間違っている点が幾つかある。
自分達で魔術を作る機会が少ないが故に、こんな単純なミスにも気がつけない。
ま、教えずに起動させちゃうんですけどね。
失敗は成功の母。
もちろん、失敗しないに越したことはないが、失敗する事もまた学びである。
「んじゃ、魔力を流すか」
「え?」
俺はなんの躊躇いもなしに刻まれた魔方陣に魔力を流す。
俺の予想が正しければ、この魔術は今からリエリーになるはずだ。
魔力が流されていく。そして、その過程で行き詰まった魔力が暴走し........
ドゴォォォン!!
大爆発を引き起こした。
おぉ。予想通りリエリーになったな。しかも、そこそこの爆破威力。これだけで人が殺せそうだ。
「なっ........な........」
「残念。失敗だな」
急に魔法陣を起動させて爆発させたことに驚く女性悪魔。ちなみに、彼女は社交性が高く何かと俺達と話すことが多い。
名前はボニーだ。エレノアも結構気に入っている悪魔である。
尚、彼女は2人の子供がいるママさんでもある。ボニーの子供いわく、家の中のママは優しくもクソ怖いらしい。
親が怒ったらそりゃ怖いものだ。俺もお袋に叱られた時は本当に怖かったしな。
でもちゃんと優しかったし愛情を沢山感じた。
きっとボニーもそんな良き母なのだろう。
「こんな感じに爆発が起きるってことは、魔法陣が間違っていたって事だ。作り直しだな」
「あ、あの。間違っている点を指摘してもらえればそれで良かったのですが........」
「いやいや。それを探すのも魔術を作る上で重要な事だよ。実験は危なすぎるからやってあげるけど、自分達で考えて色々と試すべきさ。俺たちが居なくなった後も、魔術開発がしたいならね。でも、初めての魔術作りだろうし、ヒントはあげよう。魔術は基礎を組み合わせてできている。その基礎をちゃんと理解して組み合わせ、魔力の流れが遮られないようにする事が大切だよ」
「は、はい。分かりました。皆さんと話してきます」
望んでいた回答が得られず、どこか釈然としない様子のボニー。
ちょっと嫌な奴になってしまったかな?でも、魔術を作る上では自分の失敗や経験が一番の糧となる。
本当ならこの実験も自分でやるべきなのだが、それで死人が出ても困るからね。
実験だけは付き合ってあげよう。
「リエリーが来たのかと思ったわよ。凄まじい爆発音ね」
「自分でやっててそれは思った。ところでいいのか?デモットの修行は」
「基礎段階は既に終わっているから、あとはその基礎をどれだけ応用に回せるかよ。多少助言はしてあげるけど、後は自分で考えなきゃ。師匠だって全部の答えを教えてくれたわけじゃないでしょう?」
「それはそうだな。おかげで自分の頭で考える癖が付いたし。それに、戦いの答えは一つじゃない」
「そういう事よ」
リエリーを思い出させるような爆発音が響き渡り、その音につられたエレノアがやってくる。
やっぱり魔術で失敗した時の爆発音を聞くとリエリーを思い出すよな。
むしろ、リエリーしか思い出せない。
あの爆撃の音が鳴り響いた時、俺達は“あ、リエリーだ”と思うのだ。
最近会った時に元気そうにしてたけど、エルフの国に帰ったのかな?
いや、リエリーの事だからあっちこっちにフラフラしてそう。魔術以外には基本興味のない子だが、意外と観光とか楽しむタイプらしいし。
シャーリーさんも元気にしているらしいから、また顔を出しに行こう。
エレノアのお世話をしていた唯一の人だ。ある意味、親と言っても過言では無い。
「村の拡張のために魔術を開発しているのよね?幻術系の」
「パッと見た感じ普通の幻術だったな。ただ、魔力を飲み込むための機構が添えられていた」
「魔力を飲み込む?」
「魔道具に見られる魔石から魔力を取り出す魔法陣」
「あぁ。なるほど。つまり、魔道具を作り出そうとしているわけね」
パッとしか見ていないが、あの魔術には魔道具を使う時に見られる魔法陣が刻まれていた。
魔石から魔力を取り出し、魔法陣に流す。
この過程を補ってくれる魔法陣は、魔道具を作る上では欠かせないものなのだ。
ものによってはオンオフを切り替えられるものもあるのだが、今回は持続的に使うためその機構は取り付けられていない。
恐らく、この魔界に住む魔物たちの魔石を使って結界を維持するつもりなのだろう。
........あれ?そういえば師匠の持ってきた魔道具って、魔石に魔力を補充したりとかそういう面倒なことが必要ないって話だったよな?
え、あの魔道具やばくね?どうやって魔力を補充してんだ。
「魔道具の作り方どころか、その存在すら教えていないのにこうして作られているのを見ると、魔術の発展がどのように行われていたのか分かるわね」
「だな。その最初ともなった大賢者マーリンが如何に偉大だったのかよよく分かるよ。マーリンが魔術を開発しなければ、魔道具も生まれることは無かったんだから」
「確か、スキルを魔力で再現しようとしたのが始まりだと言われていたわね。真実はともかく、誰もが使えるスキルと考えれば、人類があそこまで発展できたのも納得だわ」
「人類の進化は、コツコツと積み上げてきたものでなくたった一人によって大きく進歩を遂げる。魔界ももしかしたら、たった一人の存在によって大きく進歩してきたのかもな」
地球における人間の進化も、人々がコツコツと積み上げて進化してきたのではなくたった一人の天才によって大きく形を変えてきた。
コンピュータの生みの親、ノイマン。相対性理論の提唱者、アインシュタインなど。
数々の天才たちによって、俺が生きていたあの現代の地球が生まれたのだ。
この世界もまた、そんな天才たちによって作られてきたのだろう。
その代表とも言えるのが、大賢者マーリンなのだ。
「悪魔王によって悪魔は進歩した。そう考えると、その天才を殺そうとしている私達は大罪人なのかしらね?」
「何を今更。悪魔達を大虐殺している時点で大罪人さ。未来たる子供すらも殺してるんだからな。その中に、真の天才がいたかもしれん。良心は痛まないけど」
「私たちからしら、一部の悪魔を除いて全部経験値だものね........これ、人類が悪魔に滅ぼされてても私達は文句が言えないのでは?」
「確かに」
俺はそう言うと、大きな発展を遂げそうなこの村の行く末を少し楽しみにするのであった。
この村が、悪魔達の楽園になるのかもしれない。いや、この村以外は滅ぼすつもりだから、必然的にそうなるんだけどさ。
後書き。
コメ欄の結束が素晴らしい。
メイドちゃんも人気なようで何より。
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