間話:メイドちゃんのファッションショー


 人類大陸。


 人間が支配するこの大陸は、俺が生まれた故郷であり多くの人々との出会いと別れを繰り返してきた。


 そんな人類大陸であるが、俺達は定期的に魔界からこっちへと戻って来ている。


 魔界では手に入らない野菜や香辛料が多く、料理を作る上で欠かせないものが多いためだ。


 後、数少ない絶望級魔物ブラックドラゴンを定期的に狩りに来たりもしている。


 そんな物資調達をしていたある日。俺とエレノアは自分達の家の管理をするメイドちゃんを呼び出していた。


「........(お呼びでしょうか?)」

「あ、メイドちゃん。いつも家の管理ありがとね」

「助かってるわ。私達は家を空けることが多いから、ごめんなさいね」

「........(それが私の仕事ですので)」


 淡々と頭を下げるメイドちゃん。しかし、魔力が繋がっている俺にはその感情がとてもよくわかる。


 今、メイドちゃんは滅茶苦茶心の中で喜んでいるということを。


“褒められた!!やったー!!”と狂喜乱舞している。


 メイドちゃん、可愛いかよ。


 こう、普段感情を表に出さない子が心の中では物凄く喜んでくれているって言うのはいいよね。とても和むし可愛い。


 そんな喜びを頑張って隠しているメイドちゃんであるが、そんなメイドちゃんにちょっとしたプレゼントを用意したのである。


 プレゼントと言うか、単純に俺達がやりたいだけなのだが。


「メイドちゃん、服に興味があるらしいわね。天魔くんちゃん達から聞いたわよ」

「........(えぇ。まぁ。確かに興味はあります)」

「そんなメイドちゃんのために、似合いそうな服を沢山用意したわよ!!さぁ、お着替えの時間よ!!」

「........(へ?)」


 急にテンション爆上がりのエレノアに困惑するメイドちゃん。


 メイドちゃんは状況を理解するよりも先に、エレノアに連れていかれてしまった。


 魔界の西の大地で話していたメイドちゃんのファッションショー。俺とエレノアは、服に興味のあるメイドちゃんを着せ替え人形にして色々なメイドちゃんを見てみようという事になったのである。


「........(主人。来てたんだ)」

「やぁ執事君。ちょうど良かった一緒に観客をやってくれる?」

「........(よく分からないけど分かった。とりあえず盛り上がればいいんだね?)」

「流石執事くん。話が早いね」


 お着替えしているメイドちゃんを待っていると、執事くんがふらりと現れる。


 そして、何が何だか分からないけどとりあえず観客をやればいいと悟った執事君は、ゴソゴソとなにか用意を始めた。


「........何それ」

「........(主人が話してた応援うちわ。暇だったから何となく作ったやつ)」


 えぇ........(困惑)


 遥か昔、まだ執事君がこの家の管理を初めて間もない頃にそんな話をチョロっとした覚えがあるが、まさかそれを作っているとは思わないじゃん。


 木で作られた団扇を白く塗り、そこに“こっち見て!!”とか“最高!!”とか書かれている。


 なんで用意してあるの?


「........(はい。主人の分)」

「あ、ありがとう。ちなみに、いくつあるの?」

「........(全部で100セットは用意してある。ちょっと作るのが楽しくなっちゃって作りすぎた)」


 馬鹿かな?


 この団扇が後100セットもあるとか作りすぎだろ。何気に完成度高いし。


「折角だし、みんな呼ぶか。執事君が作ってくれた団扇も全部使おう」

「........(やったぜ)」


 俺はどうせファッションショーをやるなら観客は多い方がいいかと思い、いつも遊んだり手伝ってくれている子達を呼び出す。


 放置狩りをしているので、その分の魔力は温存しつつ、呼び出せる分の子達は沢山呼び出しておいた。


 天魔くんちゃん、サメちゃん、黒鳥ちゃん、闇狼くんはもちろん、最近はほぼ使ってない天使ちゃんに悪魔くん、堕天使くんに、その他色々な属性の子達。


 天魔くんちゃん1人だけ物凄い魔力を持っていくので、この子達を用意するだけならば天魔くんちゃん二人から三人分で事足りる。


 そして、団扇を持てる子には団扇を持たせておいた。


「........(わーい!!主人お久しぶり!!)」

「久しぶりサメちゃん。元気にしてた?」

「........(もちろん!!)」


 久々に会う子も多かったので、俺はみんなと交流を深める。


 基本的に俺に絶対服従の子たちだが、こうして友好を深めておくことで反逆のリスクを減らしておく。


 この意志のある魔術を使う上で欠かせない、重要な行為であった。


「........何してるのよ」

「観客は多い方がいいかと思って。今から師匠達を呼ぶのはさすがに無理だけど、これなら賑やかだろ?」

「いや、それよりもその手に持っている方が気になるんだけど」

「応援うちわだ。これを振ってメイドちゃんを応援するんだよ」

「私の分は?」

「もちろんある」


 何気にエレノアもこういう時はノリがいい。自分の分の団扇を持ったエレノアは、最前列に座るとメイドちゃんが出てくるのを待っていた。


 着替え方を教えるって話だったよな。


 ちなみに、服はオーダーメイドで作ったやつもある。大きさを指定すれば実際に着なくても問題ないのだ。


 1週間で仕上げてもらったから、金がエグい額飛んでったけど。


 それでも全く金が減らないあたり、俺達は稼ぎすぎている。いいかねの使いどころが見つかったかもしれん。


「........(あの、これでいいんでしょう────)」

「「「「........(メイドちゃぁぁぁぁぁぁん!!)」」」」

「「メイドちゃんこっち見てー!!」」

「........(えっ?えぇ?)」


 服の着方があっているのか確認に来たメイドちゃんを待っていたのは、100近くの眷属達とその主人。


 メイドちゃんはポカンと放心し、状況を確認するまでに数秒を要した後、自分が今ファッションショーの主役であると悟ってノリノリで歩き始めた。


 今回来ている服は、ゴリゴリのメイド服。


 やっぱり最初はメイド服でしょ。メイドちゃんなんだし。


 魔術で作られた服とは違い、人の手によって作られたメイド服。長いスカートが特徴的なそのメイド服と、頭に着けたフリフリのカチューシャがとても似合っている。


 いいよ!!ウチの子可愛いよ!!


「やばい!!滅茶苦茶可愛いわ!!メイドちゃん!!クルッと回って!!」


 エレノアの声援に答えたメイドちゃんが、くるりと一回転。


 軽やかに回ったその姿は、最早メイドを通り越して天使そのものであった。


 いやー、頑張ってモデリングをした甲斐があったな。スタイル抜群にした結果、こんなにメイド服が映える子になってしまうとは。


 正直、こだわりながら作っている時に“これ俺相当気持ち悪いな?”とか思ってたが、そんなことはもうどうでもいい。


 こっち見てメイドちゃん!!手を振って!!


 メイド長とが来ていそうなお淑やかななメイド服。それを見事に着こなしたメイドちゃんは、アイドルのようにファンサービスをしまくって退場していく。


 やばい、これめっちゃ楽しい。


 メイドちゃんがノリノリでファンサしてくれるのも相まって、見応え十分だ。


「可愛かったわね!!」

「そうだな。思ってた以上に楽しいぞこれ」

「人型の子達のみならず、色々な子に服を着せるのもありかもしれないわ!!」

「そ、そうだな」


 やばい、エレノアが大興奮している。


 ここまではしゃぐエレノアも中々ないぞ。そんなにメイドちゃんのお着替えがぶっ刺さったのか。


 こうして、俺達はその後もメイドちゃんのファッションショーを楽しむのであった。


 今度は師匠とか両親も連れてこようかな。そしたらもっと盛り上がるかも。




 後書き。

 メイドちゃんはマネキンのようなスタイル。基本何着ても似合う。そして、何よりノリも良くて可愛い。

 貰った服は家宝にして、滅茶苦茶大切に保管しながら、こっそり一人で着替えをしつつ楽しんでる。

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