戦争の準備


 辺境伯級悪魔も、俺達の相手にならなかった。


 ちょっと強くなりすぎたな。進化してなかったらかなり苦戦を強いられていただろうが、今の俺達の敵では無い。


 進化して、新たな力を手にし、更にはレベルも進化前よりも高くなっている。


 多分、進化前の俺と今の俺を比べたら、倍以上に強くなっていると言えるだろう。


 心理顕現と言う切り札すら使わず、魔術を二つ撃ち込むだけで勝てるんだからそりゃ強くなりすぎだ。


 しかし、世界最強には程遠い。


 ウルや師匠とほぼ同格であることは間違いないだろうが、これでは悪魔の王を殺せるとは思わなかった。


 何せ、あの悪魔の王はウルと師匠を相手にして生き残った化け物。


 俺とエレノアが二人がかりで戦ったとしてようやくいい勝負になるのかもしれない。


 あれ?そう考えると、悪魔王って滅茶苦茶ヤベーな?


 もう1回ぐらい進化しないと勝てなさそう。某ポケットなモンスターみたいに、第三進化系とか人間に用意されていますかね?


「ハッハッハ!!やはり辺境伯級程度では相手にならないか。大公級悪魔ぐらいの強さがないと最早お前達に敵う奴は居ないだろうな」

「魔術を二つ使っただけで終わったよ。正直、傷だらけの王者スカーの方が強かった」

「耐久力で言えばあっちの方が断然強いわね。と言うか、あれはちょっと頑丈過ぎるのよ。観音ちゃんのパンチを食らってもピンピンしているだなんて」


 辺境伯級悪魔をフルボッコにした事をウルに報告すると、ウルは楽しそうに笑う。


 そして、どこか嬉しそうであった。


 師匠ほどでは無いが、俺もエレノアもウルを師事している。


 ある意味師匠と言えるわけで、ウルにとって俺達は弟子に近い。


 さらに言えば、ウルの大好きで堪らない師匠の愛弟子なのだ。俺達の事を大分特別視しているのは言うまでもなかった。


 もちろん、この村に魔術を広めて色々と貢献していると言うのもあるだろうが。


「ほう。辺境伯級悪魔を倒したのか。まぁ、今どきの辺境伯級悪魔はたかがしれているしのぉ........昔の方が強かったわい」

「そうなの?」


 昔を思い出して懐かしむヤーレンお爺さんと、その言葉を聞いて首を傾げるデモット。


 デモットはかなりのおじいちゃん子だったらしく、最近は修行しつつお爺さんといつも楽しそうに話していた。


 お爺さんが相手になると随分と砕けた口調になり、俺達ですら見たことがない表情を浮かべることもある。


 悔しいが、育ての親の方が強かった。


 尚、ナレちゃんが物凄く嫉妬している。


 お爺さんもそれを理解しているのか、できる限りナレちゃんに恨まれないように色々と動いていた。


 年の功と言うべきか。世渡りが上手い。


 ナレちゃんも嫉妬こそあれどなんやかんやお爺さんに懐いているからね。


 俺なんて未だにちょっと怖がられてるのに........そんなに魂の色?と言うのが不気味なのだろうか。


「そうじゃぞ。何年前だったかのぉ........ちょっと昔過ぎて忘れたが、遥か前はもっと過激な輩が多くてな。儂は彼らがいた時代を混沌の時代と呼んでおる。そこら辺のあくまですら、今の子爵級悪魔並の力があった時代じゃ。最も悪魔達が力に対して力に固執していた時代と言えるだろうな」

「へぇ。そんな時代があったんだ。なんで衰退したの?」

「決まっておる。世代が変わったからじゃよ。悪魔とは言えど、時間には逆らえん。悪魔王のように長い時を生きるのは無理なんじゃよ」


 いや、貴方二万年近く生きてるでしょ。


 自分の事を棚に上げて話しているが、その時間に逆らっている張本人ですよ。


 俺とエレノアはフェニックスの血肉を得た事で不老の体を手にしてしまったが、このお爺さんはその方法以外のやり方で自分の寿命を引き伸ばしているのだ。


 その方法をそれとなく聞いてみたのだが、適当にはぐらかされた。


 恐らく、話したくないのだろう。


 悪魔の寿命は約1500年。


 その十倍以上の時を歩めるこの爺さんは、一体どんな手段を使ったのだろうか?


「世代交代で弱くなったんだ。そんな時代に生まれなくてよかった........俺なら死んでるよ」

「ほっほっほ。生き残るだけなら簡単だがな。知識だけ身に付けて、悪魔の街を出ればいい。儂の教えを受けて、一人で生きていくことを決めた者もそれなりにはおったな。もう死んでおるが」

「........あぁ、思い出した。悪魔達が最も強い時代と言えば、かの王に挑んだエルギクスがいた時代か。私はまだ生まれてなかったが、文書が残っていたな」

「ほう!!知っておるのか」


 ふと、ウルがそんなことを言う。


 へぇ。ウルが生まれるよりも前よ話なんだ。


 その時の悪魔達は、ウルよりも強かったりしたのだろうか?


「私が大公となった街の地下にそんな名前があった。確か、己の肉体を限界まで鍛え上げた脳筋の戦士だと聞いたが........」

「ほっほっほ。まさしくその通りじゃの。昔見た事があるが、とても身体が大きくそして強かった。どんな攻撃もその肉体で跳ね返し、拳握って振るえば山が消し飛ぶ。大公の名を持つ者の中で、最も単純かつ最強であったのが彼じゃった。まぁ、王に挑んで負けたがな」

「俺とそのエルギクス、どっちが強いんだ?」


 ふときになって、そんな事を聞いてみる。


 お爺さんは“ふむ........”と言って俺を観察すると、少しして首を傾げた。


「分からんな。単純な力勝負であればエルギクスの方が強いじゃろうが、手数の多さで言えば圧倒的にジーク殿の方が多いじゃろう。相性もあるだろうし、見ただけで判断出来んのぉ」

「少なくとも当時の大公級悪魔とやり合えるだけの強さは持っているということだな。そろそろ大公級悪魔に挑んでもいいんじゃないか?」

「いや、順に倒していくよ。そっちの方が確実だしね」

「そうね。下手に大公級悪魔を倒して悪魔王に目をつけられても面倒よ。話を聞く限り、悪魔王をまだ殺せるとは思わないわ」


 魔界に4人しか存在しない大公級悪魔。その内の一人を倒せば、間違いなく悪魔王の耳にも入るだろう。


 悪魔王はこの魔界に対してあまり興味が無いらしいから、辺境伯級悪魔程度までなら大丈夫だと思うが。


 ま、それよりも先に南側の魔境でレベリングだな。あわよくば、絶望級魔物だけ出てくるダンジョンとかあって欲しい。


 俺はそう思いながら、次の目標を決めるのであった。




静かなる暴風サイレント・エア

 第十級風魔術。指定した範囲を真空状態にして生物を殺す魔術。

 さらに、その後真空状態で魔術を解除し暴風を引き起こすことも可能。もちろん、術者本人が巻き込まれないように結界を張るように設定されている。

 弱点は魔法陣より10m上までしか射程がない事。その変わり、横に対しては広く範囲が取れる。




 ジークとエレノアが修行に戻り、デモットもナレの相手をする為にどこかへと消えていく。


 残されたウルとヤーレン。


 ウルがポツリと呟いた。


「ということは、次は侯爵級悪魔か........そろそろ戦争が本格的に始まりそうだな」

「ほっほっほ。ここ数百年は平和であったが、また戦争が巻き起こるじゃろうな。今度はかの王を殺せると思うか?」

「殺せるさ。あの子達は私とノアよりも既に強いだろうしな。お互いに出力をある都度調整して手合わせしているから対等に見えるだけで、本気の殺し合いなら私が負ける」

「ほう。そこまで言うとは。随分と評価しておるようじゃの」

「事実だからな。あの子達はまだ経験が足りてないからそれがわかってないが。それよりも問題は、この村に関してだ。戦争になれば間違いなくこの村は狙われる。隠れていても見つけ出して叩いてくるだろう。守る戦いが必要になる訳だ」

「勝算は?」

「........わからんな。だが、いつの日かやらなければならない事だ。その引き金を誰が引くかの違いだけ。一度舞台から降りた私達も、また舞台に上がる日が来るぞ」

「ほっほっほ。儂は常に傍観者であったが、今回は参加できそうじゃの」


 戦争が起こる日は近い。それまでに、ウルとヤーレンはできる限りの事をするのだ。





 後書き。

 この章はこれにておしまいです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 虫が苦手な方が多いようで...大人になると苦手なるってあるんやなぁって。

 間話を挟んでから、次のお話に行こうと思います。

 次は南だね‼︎虫は出ないからご安心を。

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