炎魔vs辺境伯級悪魔


 西の大地に存在していた辺境伯級悪魔の街を滅ぼした俺は、レベルが上がってホクホクであった。


 これでレベル389。


 もうすぐ夢のレベル400台に到達すると思うと、楽しみで堪らない。


 この最近はかなりレベルが上がりづらくなっているからね。レベルが上がれば上がるほど、必要な経験値も多くなる。


 幾ら効率よく放置狩りしているからと言っても、やはり限度はあるのだ。


 絶望級魔物を毎日数体狩りつつ、この魔界を全力で滅ぼしにかかってもレベルが一つ二つしか上がらない程度にはレベリングが厳しくなってきている。


 それでも、放置狩りのお陰でかなり楽で来ているんだけどね。エレノアとか今レベル378とかだったはずだし。


 エレノアは俺のように魔力が潤沢に存在している訳では無い。


 いや、そこら辺の魔術師達を片っ端から集めてもエレノアには勝てないぐらいの魔力量はあるのだが、俺のように天魔くんちゃんを数百体維持するだけの魔力量が無いのである。


 一応、エレノアも悪魔くんのような自動で狩りをしてくれる魔術を作ってあるし、ダンジョンに放り込んで暴れさせてもいるのだが、やはり性能的な面で天魔くんちゃんには大きく劣るのだ。


 性能が劣れば、それだけ魔物を狩るスピードも落ちる。結果、効率の面で俺に負け、レベル差が開きつつあった。


 まぁ、ここまで来るとぶっちゃけレベル11の差なんてあってないようなものだ。


 世間一般的にはレベル差が5以上あると勝てないなんて言われているが、それは低レベルでの話。


 レベル300台後半の俺達はありとあらゆる対策が取れるので、結局のところ相手をどれだけ上手く誘導して一撃を叩き込めるかの勝負になってくるのである。


 そう言うのが上手いのが師匠なんだよな。未だに一撃を叩き込めてないの普通にバグだろ。


「へぇ。ここにもあったのね」

「小鳥ちゃんをこっちに飛ばしておいてよかったよ。お陰でタイミングよく辺境伯級悪魔がもう一つ見つかった」

「ジークの魔術は相変わらず高性能ね。私には無理だわ」

「エレノアは破壊する方が得意だからな」


 西の大地が本格的に終わり始めた頃。俺とエレノアは東の大地を訪れていた。


 西にもあるなら東にもあるやろという事で、小鳥ちゃんに捜索をお願いしていたのだが、それが見つかって何よりである。


 東側に位置する辺境伯悪魔の街。俺が戦ったのだから、次はもちろんエレノアの番だ。


 西の辺境伯級悪魔を倒した翌日に見つかるとはなんとタイミングのいいことか。実は狙ってやってましたと言われても、正直信じてしまいそうである。


「観光はいいの?」

「ジークがしたいなら行くわよ。昨日も辺境伯級悪魔の街は見たし、気分じゃないわね」

「俺はどっちでもいいな。エレノアが行きたいなら行くけど」

「なら滅ぼしましょう。空から見た感じだいぶ違った街の作りだけど、観光よりも私は今戦いたいのよ」


 バトルジャンキーエレノアになってしまった。


 いや、割といつもバトルジャンキーなところはあるのだが。


 そんな訳で、観光もされずに滅ぼされることが決定した辺境伯級悪魔の街。


 相対するは炎魔。


 その炎から街は逃れられるのか。


 結果が既に見えている勝負が始まる。


「久々に殴って沈めましょうか。体を動かしたい気分なの」


 エレノアはそう言うと、魔術で巨大な腕を作る。


 第九級魔術“巨人の腕ギガンテス”。


 様々な属性を付与できる優れものであり、エレノアの高い身体能力から放たれる一撃は全てを破壊する。


 この魔術、滅茶苦茶脳筋だからかなり対処に困るんだよな。


 物理防御系の魔術を展開しても、展開した場所を避けながら殴りに来るとか無理やり破壊しに来るとか色々と対処法があるのだ。


 いちばん厄介なのは見せ札として使われること。


 防御しないと死ぬから俺は魔術を展開するか、その隙に懐に入り込まれるなんて事もよくある。


 だからギリギリまで引き付けてから防御しなくてはならない。結局のところ、駆け引きが重要となるのだ。


「アハッ!!潰れなさい!!」


 見た目相応の可愛い笑顔には似合わない笑い声が響き、次の瞬間辺境伯級悪魔の街が巨人の腕によって押しつぶされる。


 ドゴォォォォォォン!!


 と、俺が爆破系の魔術を使った時と同じようだ破壊音が鳴り響き、僅か一撃で街の半分が壊滅した。


「もう一丁!!」


 ドゴォォォォォォン!!


 二発殴ればあら不思議。


 そこにあったはずの悪魔の街は見るも無惨に破壊され、街に住んでいた悪魔達は悪魔の拳に押しつぶされる。


 俺、あんなのを相手に毎日手合わせしてるんだぜ?よく今まで死ななかったな。


 僅か二発で滅んだ街。


 もう炎魔から名前を変えて破壊神にでもなった方がいいんじゃないかと思っていると、エレノアに向かって何かが飛んで来る。


「危ないわね」


 エレノアはその何かをトンファー弾くと、攻撃をしてきた方向に視線を向けた。


 明らかに強い悪魔が一人。あれがこの街を治めていた辺境伯級悪魔か。


「ちょっと行ってくるわね」

「気をつけろよ」

「えぇ、もちろん」


 今日はとことん体を動かしたいのか、辺境伯級悪魔に近接戦を仕掛けるエレノア。


 俺はその背中を見送ると、手のひらの上に小鳥ちゃんを呼び出して指先で撫でてあげながらその様子を見る。


 常人の目では捉えきれない程に早い攻防が繰り広げられている。


 悪魔がエレノアの顔面を狙って拳を突き出すが、エレノアはそれをゆらりと避けて反撃。


 本人は軽く蹴ったつもりなのだろうが、悪魔の体はガードしたにも関わらず思いっきり吹っ飛ばされていた。


「あれ、受け方を間違えると骨が折れるんだよな。痛いったらありゃしない」

「........(天魔くんちゃんが強すぎって嘆いてた)」

「そりゃ嘆きたくもなるさ。本人は軽く蹴ってるつもりなんだからな」


 エレノアの蹴りをガードしたにもかかわらず、吹き飛ばされた悪魔。


 エレノアはその吹き飛んだ悪魔の元へ走っていくと、後ろに回り込んで拳を振るう。


 あ、背骨がいったなあれは。


 本来曲がっては行けない方向に悪魔の体が曲がってしまっている。


 パァン!!されてないだけですごいと言えばスゴイのだが、さすがの悪魔もエレノアの一撃を無傷で耐えることは出来ないらしい。


 腹を殴られてくの字に曲がるってのはよく見るが、その逆はほとんど見た事ないなぁ........だって死ぬし。


 背骨をへし折られ、逆くの字に体が曲がった悪魔。


 普通ならここでゲームセットなのだが、相手は腐っても辺境伯級悪魔だ。


 死ぬ気で反撃を繰り出してくる。


「お、凄いな。あの状況で反撃できるんだ。あれは........骨か?」


 骨のようなものを射出する悪魔。


 本当に際がの悪あがきだったのだろう。


 しかし、エレノアは相手を殺すまで気を抜かない。


 そんな骨の折れた反撃はいとも容易く躱され、悪魔の頭にトンファーが突き刺さった。


 パァン!!


 音は聞こえていないが、そんな音が聞こえた気がする。


 いつも如く辺境伯級悪魔の頭は弾け飛び、ピクピクと身体を痙攣させながらそのまま息絶えた。


 まぁ、それなりに戦えていた方だろう。


 エレノアが多少手加減していたとは言えど、これだけ戦えれば拍手喝采ものだ。


「ジークとやり合ってた方が楽しかったわね。命のやり取りという点では訓練になったけども」

「かなり善戦してた方だろ。最初の一撃で死ななかっただけ凄いと思うけどな」

「それは........まぁそうね。でも、ウル程では無いわ」

「元大公級と比べてやるな。さすがに可哀想だろ」


 こうして、俺たちの力が余裕で辺境伯級悪魔にも通用することが証明された。


 次は侯爵級悪魔かな。探す方が大変そうだけど。

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