天魔vs辺境伯級悪魔


 辺境伯級悪魔の収める街の観光は思っていた以上に面白かった。


 伯爵級悪魔の街でも同じようなことを思ったな。


 やはり、人類大陸の街と比べて異なる点が多く、その違いを見つけるのが結構楽しかったりする。


 特に、悪魔の街は閉鎖的なところもあるので独自の文化が栄えて他の街との違いもかなり大きかった。


 人類大陸の街も北と南では大きく異なる部分も多々ある。こうして旅をしていく中で、俺は旅の楽しみ方というのを学んでいたらしい。


 昔なら特に何も思わなかった場所も、小さな違いを見つけられると意外と楽しいからな。


 悪くない。


 さて、そんな楽しい観光も終わりがやってくる。


 日が沈み始めた頃には、ある程度街の観光を済ませて気になったものはある程度買っていた。


 とは言っても基本は野菜関連なのだが。


 この街で売りに出されている肉は食べる気も起きないので、野菜を中心に買い込んでおいた。


 これで明日の夕食を作るつもりである。


 もちろん、エレノアに我慢させてしまった分、ゴリゴリに手の込んだやつを。


 折角だしブラックドラゴンの肉を使ったシチューとか作るか。一旦人類大陸の方に戻って買い出しも必要だな。


 調味料もだいぶ減ってきたし、その買い出しも必要になるかも。


「楽しかったな。見て回るには十分な場所だった」

「そうね。結構楽しかったわ。悪魔の街の楽しみ方も随分と分かってきたわね」

「俺も街に入ることはほぼなかったので、こうして街をゆっくりと観光できるのは新鮮でいいですね。その場所の文化を感じられますし」


 そんなこんなで観光を終えた俺達。


 残るはこの街を滅ぼすだけである。


 立つ鳥跡を濁さず。


 観光したなら全部綺麗にしてあげないとね!!


 ことわざを作った人が怒りそうな使い方だな。ごめんよ名も知らない過去の偉人よ。


 今回は俺が辺境伯級悪魔と戦う予定である。


 ウル曰く、“余裕で勝てる”らしいが油断することは無い。


 俺は一旦エレノア達を連れて転移で街を出る。


 それでは始めるとしよう。今日一日楽しかったよ。


「折角だ。俺も新しい魔術を使ってみるとするか」


 俺はそう言うと早速魔術を行使する。


 狙いはもちろん辺境伯級悪魔の街。その街の下に巨大な魔法陣が浮かび上がり、莫大な魔力と共にそれは顕現を始めた。


 俺が扱う魔術の中で得意な属性と言えば白と黒である。


 しかし、偶には違った属性の魔術を使って切り札的な存在を作ってみても悪くないだろう。


 俺が今回選んだ魔術は風属性。


 世間的には割と不遇な扱いをされがちな魔術だが、第十級魔術ともなればそこら辺はあまり考えなくとも問題ない。


 だって大体の属性は使えばその時点で終わるからな。


「おい、悪魔共。お前らは空気がなくても生きていけるのか?」


 パチンと指を鳴らす。


 しかし、今まで使ってきた魔術のように派手な攻撃が行われる訳では無い。


 それは静かにそして見えること無く行われる。


「“静かなる暴風サイレント・エア”」


 第十級風魔術“静かなる暴風サイレント・エア”。


 この魔術はひとつの魔術でありながら2つの選択肢が用意されている。


 どちらも共通なのは、その魔法陣の刻まれた場所の空気が全て消える時う事。


 つまり、真空状態を強制的に作ることが出来るということだ。


 これは、相手が生物である以上避けられない死がやって来る。


 植物だろうが人間だろうが、悪魔だろうがドラゴンだろうが、皆等しくこの魔術ひとつで死に至るのだ。


 しかし、空気を必要としない構造物には一切の影響が出ない。


 中に空気を入れて構造を保っているやつは知らんが、少なくともそこら辺の石造りの家は無傷で残る事だろう。


 あまりにも静かに行われる殺戮。


 規模を小さくして範囲を狭くすれば、暗殺にも使えそうな素晴らしい魔術と言える。


 弱点は魔法陣が刻まれた場所から上に10mまでしか射程が無いことだな。


 真空状態状態を維持するために色々と魔法陣をいじくってちたら、射程範囲がちょっと狭くなってしまった。


 しかし、この魔術はこれだけに留まらない。


「貴様かァァァァァァァ!!」

「あら、ジークの魔術を避けた奴がいるわね。あれが辺境伯級悪魔かしら?」

「ワザと発動時間を遅らせて逃がしたんだけどね。強さからして多分そうだな。辺境伯級悪魔だ」


 静かな殺戮が街で怒っていく中、一体の悪魔がこちらへ猛スピードでやってくる。


 強い。


 あれが辺境伯級悪魔。


 なるほど、伯爵級悪魔とは格が違うと聞いていたが、実際に目にするとその力の差がよくわかる。


 デモットがどれだけ死力を尽くしても、天地がひっくり返っても勝てない相手だ。


 が、俺達の基準で言えば弱い。


 この程度なら適当に相手しているだけでも勝てる。


 こちとら進化済みのレベル388だぞ。もうすぐ夢の400台に乗るんだよ。


「デモット、あいつ名乗ってないけど殺していいの?」

「いいんじゃないですか?だってあの魔術、まだ終わってないですよね?」


 流石は俺達の弟子。魔術の知識に関しては一流である。


 そう。この魔術はただ真空にして相手を窒息死させてはい終わりでは無いのだ。


 俺には2つの選択肢が用意されている。


 1つは、真空状態になった場所に空気を入れてから魔術を終える方法。


 これだと破壊も何も起きずに平和的にことが終わる。


 そしてもう1つ、この真空状態で魔術を解除してしまう方法である。


 これは空気を入れずに真空の状態のまま全てを終わらせる。


 そうするの何が起きるのかって?


 何も無い場所に空気が流れ込んで、凄まじい暴風が荒れ狂うのさ。


「お怒りのところ悪いけど、お引き取り願うとしよう。ほら、街に帰れよ」

「ぬっ?!」


 俺は魔術を解除し、暴風を引き起こす。


 真空状態であった空間に空気が一気に流れ込み、ブラックホールのように周囲の空気を取り込み始めた真空が辺境伯級悪魔を引き寄せる。


 それと同時に、周囲の草木が破壊されていく。


 もちろん、街もタダでは済まない。


 城壁が崩れ、家が崩壊していく様が見て取れた。


 あ、死んだ悪魔達の死体も風に吹かれて飛び上がってんな。


 ちなみに、俺達は結界を張ることでこの暴風の中を平然としていられる。


 これも魔術に組み込んであるので、自動発動だ。


 空気を入れて解除したら不発し、途中で魔術を切り上げたら勝手に結界を張ってくれる。


 このシステムが必要だったから、第十級魔術に分るされていると言っても過言では無い。


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「面白い悲鳴だな。ほら、追加だ。たんと味わえよ」

「あっ........」

「あー終わりね」


 引き寄せられていく辺境伯級悪魔にプレゼントとして、第九級魔術“紅蓮大爆発エクスプロミネンス”を放り投げる。


 この魔術はこぶしサイズの火の玉だが、任意で超巨大爆発を引き起こすヤベー魔術であった。


 作ったはいいものの、使い道がなくて困ってたヤツである。


 ついでに実践で使わせてもらうとしよう。


 全てが中心に引き込まれ、全てが中央に集まったその瞬間に俺は魔術を起爆。


「ドカーン!!」


 ドゴォォォォォォォォォォン!!


 と、大地を揺らす凄まじい爆音と共に、辺境伯級悪魔の街は一瞬にして破壊された。


 たーまやー!!汚ぇ花火だぜ。


 辺境伯級悪魔の反応も既に無く、たったふたつの魔術を使っただけで勝負が終わってしまった。


 辺境伯級悪魔も余裕だな。ウルの言っていた通りである。


「んじゃ、帰るか。綺麗に掃除もできただろ」

「掃除というか、むしろ汚してるわよね。ほんと、悪魔からしたらいい迷惑ねコレ。私も人のことは言えないけど」

「悪魔からそのうち“悪魔”と呼ばれますよ?いや、この場合は“天使”なのかな?」

「ハッハッハ!!天魔の名前にふさわしいじゃないか」


 冗談を言い合いつつ、こうして俺達の観光は終わりを告げる。


 そういえば辺境伯級悪魔の名前を聞けなかったわ。まぁ興味ないからいいけども。




 後書き。

 真空を使う魔術とかかなり好き。見えない攻撃みたいな感じで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る