肉は却下で
辺境伯級悪魔の街に降り立った俺達は、とりあえず今日を楽しめるぐらいの資金を調達するためにガッツリ犯罪行為に手を出していた。
これが人類大陸ならば大問題だが、ここは魔界。
大丈夫、今死ぬか後で死ぬかの違いしかないのである。
子供だろうが女だろうが容赦なく悪魔は殺してきたのだ、今更この手で悪魔を殺すことに罪悪感は無い。
経験値の為に殺すのはともかく、金のために殺すのは若干気が引けたが。
なんだろうねこの違い。経験値の為ならどこまでも残酷になれるのに、そこに金が絡むとわずかながら躊躇いが出る。
人間の感情って不思議やな。
「これでよし。資金調達は終わったな」
「同じ殺すなのに、金の為という目的となると少し気が引けるわね。何が違うのかしら?」
「同じ殺害なんだがな。やっぱり金目的の殺しは良くないって言う人間社会で生きてきた倫理観から来るものなのかね?ほら、小さい頃から盗賊の中で暮らしていたらそれが当たり前だと思うわけだし」
「そんなもんなのかしらね。まぁ、人類大陸でやらなければいいだけの話だけど」
エレノアも同じことを思ったらしく、悪魔から金を巻き上げた時は心做しか優しかった。
無慈悲に街を滅ぼすよりも、金を巻き上げていた方が心に来る。
どちらにしろ殺すと言うのに。
「ジークさん達にそんな感情が残ってたんですね。意外です」
「結局殺してるから同じなんだけどな。何が違うんだろうな?」
「ジークさんの言った通り、人間としての倫理観が邪魔をしているんでしょうね。子供だろうが経験値の為ならば容赦なく殺せますが、金のためとなるとなんか違う。心なんてそんなもんですよ」
「でも結果的に経験値も貰ってる。魔物を殺して金に変えるのと大差ないのになぁ」
人の心とは摩訶不思議。
そんなことを思いながら、証拠隠滅のために死んだ悪魔達を消していく。
このお金はありがたく使わせてもらうとしよう。物の価値が分からないから足りるかどうか分からないが。
ここは悪魔達の通りが少ない小道。目も無いので、犯罪行為をしていても特にバレたりはしない。
少し街の規模が大きくなった為か、貧富の差が大きく見えるようになった。
スラム街とまでは行かずとも、あからさまに街の毛色が違う場所がある。
「伯爵級悪魔の街にはこういう格差をハッキリとは感じなかったが、辺境伯級悪魔の街になると貧富の差を感じるな」
「そうね。街が大きくなる分、悪魔たちも多くなる。そして数が増えれば、それだけ差が生まれるってことよ」
「強いやつは自然と豊かになるし、弱いやつは貧相になる。そこら辺派人間と変わらんな。成り上がる手段が暴力しかないと言うのが大きな違いだけど」
悪魔も人間もそう大差はない。
スラム街のような場所が形成され、そこに弱い奴らが集まる。
これはどんな社会でもこうなってしまうものなのだ。平等を説いた社会主義だって、結果的に裕福層と貧困層が生まれている。
しかし、人間は知識で成り上がることが出来る。大商人の中には、かつてスラム街出身だったヤツだったという話もよく聞くのだ。
悪魔にはそれがない。ここが大きな差別点と言えるだろう。
「さーて、観光してみるか。何があるかな?」
「何が美味しそうなものとかあるのかしらね?楽しみだわ」
「あのー、エレノアさん。今回は食べるのはやめておいた方がいいと思いますよ」
「ん?何故かしら?」
いつものようになにか美味しいものが無いかとワクワクしていたエレノアに、待ったを掛けたデモット。
エレノア派惜しいしものに目がない。デモットを見た時の顔が少し怖かった。
「ここは西の大地です。野菜はともかく、肉は........」
「あー........そうね。辞めておいた方がいいわね。美味しいものよりも相棒に嫌われる方が辛いわ」
あっ(察し)
デモットができる限り言葉を濁してくれていたが、俺も何が言いたいのかを察してしまう。
西の大地の魔物を思い出してみよう。
西の大地にする魔物はほぼ昆虫系であり、あれの大っ嫌いなムカデや我ら人類の敵が居るような場所だ。
一応天魔くんちゃんにどんな魔物がいるのか聞いて、俺が軽く後悔するぐらいにはこの西の大地はクソである。
そんな場所で出される肉。
一体何の肉なんだろうなぁ?
想像もしたくない。これならまだ悪魔の肉とかを出された方がマシだ。
「........エレノア。悪いけど食べるの禁止で」
「分かってるわよ。ジークが嫌がるのにそんなことはしないわ。冗談で済む話ならいいけど、冗談にもならないでしょう?」
「ほんとごめん」
「気にしなくていいわよ。その変わりに、美味しものでも作ってね」
「任せろ。久々に滅茶苦茶手の込んだやつを作ってやる」
「やった!!」
エレノアの楽しみをひとつ奪ってしまった埋め合わせとして、滅茶苦茶手の込んだ料理を作ることとなってしまった。
が、俺の都合でエレノアに無理を言っているのだから、これは当然である。
どちらかが無理を言えば、その埋め合わせをするのが俺達なのだ。
「俺も手伝いますよ」
「いや、デモットも今回は手伝わなくていいよ。結果的にデモットにも我慢させてるんだしな。俺が作るよ。もちろん、レシピは後で教えてあげる」
「本当ですか?!やったー!!」
デモットの趣味となりつつある料理。俺がちょこちょこ教えてあげた結果、かなり料理が上手になってきている。
この前はヤーレンお爺さんに料理を振舞っていたらしく、お爺さんは大層ご機嫌だったそうだ。
そりゃ孫の作った料理を食べられるんだから、ご機嫌だわな。
ちなみに、何故かナレちゃんもそこにいて、おじいちゃんと孫と曾孫が仲良くご飯しているような光景になっていた。
「ご飯が食べられないとなると、何を見ようかしらね?お酒........は私が飲むとダメになるし普通に歩いて街を見るぐらいかしら?」
「ごめんな。楽しみを奪っちゃって。適当に街を歩きながら良さそうなものがあったらお土産に買うか」
「ふふっ、気にしてないからいいわよ。そんなに落ち込まないで」
そんな話をしながら、俺たちは辺境伯級悪魔の街を歩く。
街並みは割と普通だったが、ひとつ大きく違う点があった。
それは、空からも見えていた大きな広場である。
どのようにして作ったのか知らないが、噴水のようなものが中央に配置されておりそこでは多くの悪魔達で賑わっていた。
「綺麗ね。伯爵級悪魔の街では見られなかったものだわ」
「どういう仕組みになってんだ?魔術は使えないから、権能で何とかやってんのかね?」
「魔道具も発展してないだろうし、権能で解決しているとは思うけれど........権能を使って維持しているのかしら?」
「うわぁ........壊して中身を見てみたい........」
ダメだよ?今はまだ。
今は観光中であり、ここで大きな騒ぎを起こすと面倒事がやってくる。
もう少し観光を楽しんでから壊そうね。具体的には、この街を滅ぼすぐらいの時になったら。
「あ、飲み物が売ってるわよ。あれなら大丈夫かしら?」
「........流石に魔物の体液を使ったりはしてないよな?」
「そんな話聞いたことがないですよ。悪魔にとって飲食は生命の維持。態々の魔物の体液を絞り出すと思いますか?後、匂いからして果物を絞ったものですね」
良かった。さすがに魔物の体液を売ってるようなことは無いのか。
とりあえず俺達は広場の屋台にあった飲み物を買うと、それを味わいながら辺境伯級悪魔の街の観光を続けるのであった。
ちなみに、飲み物は結構美味しかった。
元となった果物が美味しいやつだなコレ。お土産に果物を幾つか買っておくか。
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