伯爵狩り


 メイドちゃんのファッションショーが開演することが決定してから数日後。


 俺達は東側の大地へと足を運んでいた。


 つい数日前は西側、今日は東側。


 あっちこっち行って大変だな。転移魔術のお陰で全く疲れないけども。


「お、アレだな。近場にポインターだけ刺してもらうように言ってたから、助かるよ」

「流石は天魔くんちゃんね。仕事が出来るわ」


 ヤーレンお爺さんを村に招待し、俺達は一旦暇となってしまった。


 本来ならば西側の大地に住む魔物達を相手にレベリングするところなのだが、あのクソ魔物が生息していたことにより天魔くんちゃんによっての破壊が決定。


 エレノアには代わりに、しばらくの間ダンジョンでのレベル上げで我慢してもらう事となったのである。


 南側や中央へと進出も考えたが、似た様な魔物が出てこられると困る。


 天魔くんちゃんは今西側で狩りをしているので、他の場所では使えないのだ。


 あれは人類の敵だから。効率とかそんなこと考えずに滅ぼしてくれマジで。


 そんな訳で、一旦やる事が無くなってしまった俺達。


 ちまちまレベリングをしながら修行もいいが、暇すぎると身体が鈍る。


 という事で、殺し合いを実感できる訓練場へとやってきたのだ。


 ここは東側に位置するとある伯爵級悪魔の街。


 天魔くんちゃんにいくつか滅ぼしてもらっていたが、何かと使えるかもということで少し残してもらっていた。


「何かに使えるかなとか思って少し残して貰ったけど、こんな形で役に立つとはな。西側の殲滅が終わったら次は南側に向かってみるか」

「中央は?」

「ウル曰く、王が居るらしいから最後で。悪魔王とやり合うには、まだ力が足りない。進出してもいいんだけど、敵対して戦争になっても面倒だしな」

「悪魔たち全員をおびき寄せられるかもしれないけど、大公級悪魔とやり合えるか分からないものね。順を踏むのは大切だわ」

「こっちが気をつけていても、向かうからやってくるなんてこともあるけどな........」


 中級魔物をメインに狩っていたら、最上級魔物(実力は世界最高峰)といきなりやり合うこともあるんだし。


 結局、どれだけ気をつけていても無理な時は無理なのだ。


 どっかの骸骨が俺達を見に来るとか、普通にあるからな。


 しかし、順を踏めるのであればしっかりと1つづつやっておきたい。


 伯爵級悪魔の街を滅ぼしつつ、とりあえず辺境伯級悪魔を探すとしよう。


「私がやっていいのよね?」

「あぁ。かわりばんこに行こう。油断はするなよ。遊んでもいいけど」

「面倒だから、一撃で街は消すわよ」


 エレノアはそう言うと、早速魔術の準備に入る。


 遠い空に浮かび上がる巨大な魔法陣。


 莫大な魔力が周囲を揺らし、魔力によって空間が歪む。


 この規模感........第十級魔術だな。


「人類大陸で打とうものなら間違いなく問題になるでしょうけど、魔界は好き勝手にできるのが言わね。どれだけ壊しても、村さえ無事なら誰にも文句を言われないのは最高だわ」

「おいおいマジかよ」


 俺は魔法陣から現れた巨大な火の玉を見て、即座に水魔術の防御結界を展開。


 あんなん食らったら髪の毛燃えるどころか、骨まで綺麗に火葬されるよ。骨のひとつも残らないよ。


 エレノアに火葬を頼むのはダメだな。遺骨すら燃やし尽くして何も残らなくなってしまう。


 俺はそう思いながら、空から落ちてきた巨大な火の玉を眺める。


 太陽よりも近いためか、失明するレベルで眩しい。


 防御用の魔術を既に展開していると言うのに、その炎はあまりにも熱かった。


「炎の星よ、焼き付くせ。灼熱の隕石メテオ・ザ・ノヴァ


 刹那、灼熱の隕石が街へと降り注ぎ、圧倒的な熱量で全てを焼き尽くす。


 エレノアのやつ、魔界だからって大分はっちゃけた魔術を使ってるな。


 周囲への被害を一切考えない滅茶苦茶な魔術。大気すらも蒸発してしまうのではと思う程に激しく燃え広がるその一撃は、俺の防御魔術をいとも容易く破壊した。


 余波で第九級魔術の中でも防御に特化したこれを破壊するとか、威力がイカレてんだろ。


 人類大陸なんかで使った日には、これ一撃で国が易々と滅ぶぞ。


「観音ちゃん。ヘルプ」

「........(りょ)」


 まさか俺の扱う魔術の中では最高位の防御魔術が破られるとは。しかも余波で。


 俺は観音ちゃんを呼び出して無の力で自身の周囲を守る。


 これ、心理顕現を覚えてない時にやられてたら、普通に怪我してたな。


 怪我っていうか、全身火傷。


 今度、防御に特化した第十級魔術を作っておくか。


 エレノアの火力がインフレしまくったおかげで、今まで最強格だった防御魔術が型落ちになってしまったし。


 ちなみに、エレノア本人は炎の中に巻き込まれていたが、当然のように無傷であった。


 心理顕現によって、炎への耐性や適性が爆上がりしたお陰で、この程度の炎はお風呂程度としか思っていのだろう。


「んー!!やっぱり一撃で滅ぼすのは気持ちがいいわね!!」

「それは良かったな........」


 エレノアと出会ってからエルフに対するイメージが物凄く変わった。


 森を愛する森の精霊とも呼ばれるような存在で、森を破壊する炎は悪しき存在であるとかそういう事を最初の頃は想像していたがそんなことは無い。


 この世界のエルフは、一撃の威力を追い求める変態達だ。


 そして、その中でも破壊力に優れる炎をこよなく愛するヤベー奴である。


 ほら、あのロリっ子魔女ことリエリーもかなり滅茶苦茶だし。


 あれ?エルフって実はこの世界で最も環境破壊に熱心な存在なのでは?


 返してよ。俺の純粋なるエルフのイメージを。


 俺の知るエルフは、街と近くの森を焼き払いながら少女のような可愛らしい笑みを浮かべる存在では無いのだ。


 もう慣れたけども。慣れちゃったけども!!


「またとんでもない魔術を生み出したな........獄炎煉獄領域ゲヘナより滅茶苦茶じゃないか」

「あっちは使い勝手がいいけど、こっちは完全に破壊専用よ。周囲を破壊尽くしてもいいよって許可があるか、ダンジョンの中でしか使えない魔術ね。でも、魔界なら誰も文句は言ってこないから最高よ!!やっぱり一撃で全てを破壊し尽くすのは快感ね!!」

「それは良かったね(諦め)」


 見渡す限り、この場所に残っている草木は存在しない。


 以前、天魔くんちゃんが伯爵級悪魔とやり合った時は最初の一撃を何とか避けていたが、今回は避けることすら許さない。


 デモットを連れてこなくてよかったかも。もし連れてきていたら、また“ダメですよエレノアさん!!”とお約束に対して煩く言われいた事だろう。


 正直俺も気の毒には思う。


 弱い方が悪いので、同情はしないが。


「次はジークの番ね。何でやるのかしら?」

「それは見てからのお楽しみってことで。ちょっと体を動かしたいから、取り敢えず一撃で終わるような魔術は使わないかな。最低でも、伯爵級悪魔が生き残れるぐらいには手加減するよ」

「そうなの?折角ジークの新しい魔術が見られるとも思ったのに........」


 俺がそう言うと、少ししょんぼりとするエレノア。


 この破壊神ちゃんめ。一体どんだけ一撃で街が滅びる様子を見たいんだ。


 エルフは自然と世界を破壊する破壊神の系列に並ぶ子。


 俺はそんな間違った異世界の常識を改めて認識しながら、次の伯爵級悪魔の街へと向かうのであった。


 ちなみに、俺は結界で誰も街から出られないようにしつつ、魔術をほぼ禁止にして剣で戦ってみた。


 女子供関係なしに殺戮し、最後に出てきた伯爵級悪魔を一刀両断していい運動になったと満足する。


 俺も大概人のことは言えないな。いやほんとに。

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