悪魔二つ
デモットが自分を育ててくれたお爺さんに自分がどれほど成長したのか見せたい!!ということで、俺達はダンジョンに来ていた。
何かと遊び場にされるダンジョン君。壊れても修復するし、壊しても誰も文句を言わないから本当に便利で助かる。
ダンジョンからしたら溜まったのでは無いだろうが。
俺がダンジョンの立場なら、毎日来ないことを祈るよ。心の底から。
........今度掃除でもしてあげようかな。一応このダンジョンは一度攻略してコアのある場所は知ってるし。
そんなことを思いながら、対面するデモットとお爺さんを眺める。
多分というか、ほぼ間違いなくデモットはお爺さんに勝てない。
だが、やることに意味がある。
頑張れデモット。
「本気で行くよ」
「ほっほっほ。遠慮せずに来るといい。その力を見せて貰おうかの」
お爺さんはそういうと、左手を後ろに回して右手を前に出す。
中国拳法とかを扱う漫画で見た事のある構えだ。実用性とかそこら辺はよくわからんが、ご老人があの構えをすると滅茶苦茶様になるな。
対するデモットは、構えを取らず自然体。
デモットは理解しているのだ。自分が挑戦者側であるということを。
「楽しみね」
「そうだな。デモットも一人でコツコツレベル上げを頑張ったり、色々とやってるからな」
「ヤーレン御仁........変わらんな」
「二人とも頑張れー!!」
先手を取ったのは、デモットであった。
挑戦者側なので、先手を貰うのは当然だろう。これは修行でもないのだから。
デモットは、一旦魔術を使うことはなく肉弾戦を仕掛けるつもりらしい。
「行くよ!!」
デモットが右拳を出す。
最初に出会った頃とはかけ離れた素早さと破壊力。この1年間で凄まじく強くなったデモットの一撃だったが、お爺さんはこれを必要最小限の動きで受け流す。
マジかよ。横から優しく押して一撃をかわしたぞ。
あれが出来るということは、デモットの一撃がはっきりと見ているという事だ。
「良い一撃だの。師の素晴らしさが伺える」
「まだまだ行くよ」
デモットも受け流されたと分かると、素早く腕を引きながら蹴りを放つ。
対するお爺さんはこれも優しく受け流した。
........なんと言うか、ウルの心理顕現を彷彿とさせる動きだな。
凄まじく滑らかで、デモットはまるで空気中に浮かぶ木の葉を相手にしているようだ。
チラリとウルを見るが、ウルの表情は特に変わっていない。
「フッ!!」
「ホッ!!」
デモットの連撃を、全て片手で受け流すお爺さん。
動きにとにかく無駄がなく、そして流れるように滑らかであった。
パンチを手の甲で弾き、蹴りを手のひらで受け流す。
もはやひとつの武術だな。そこには美しさすら感じられる。
「綺麗ね。動きに無駄がないわ。私には真似出来ないわね」
「俺も無理だ。俺達の戦い方は対人をあまり想定してないからな。どちらかと言うと、師匠に似たやり方に見える。違う点は、嫌味がないってところか」
「師匠、かなりイラッとさせられるからね。なんでなのかしら?」
「そりゃ、避ける度にニヤニヤ笑っているのが分かるからじゃないか?煽ってるよ間違いなく。それで相手の平常心をかき乱そうとするんだ」
「とてもよく分かるぞ。ノアと戦った時は、いつも以上にイラつくのは。アイツの性格の悪さで右に出るものは居ないだろうな。戦いにおいては」
師匠、本当に人をイラつかせるのが上手いからな。
対して、お爺さんは優しさを感じる。
相手がデモットだからと言うのもあるだろうが、少なくともストレスはたまらなさそうだ。
「本当に強くなったのぉ」
「片手で軽く捌いておいてよく言うよ」
魔術を使わない戦闘では埒が明かないと悟ったデモットは、ついに魔術を解禁する。
デモットの影が大きく揺らいだかと思えば、デモットの形を模したもう一体の悪魔がその場に現れた。
「
「ほぉ。確かに権能では出来なさそうなことじゃのぉ」
デモットが扱う第八級黒魔術であり、自身の影を使ってもう一体の自分を生み出す魔術。
俺の使う天魔くんちゃんに似た魔術ではあるのだが、デモットの魔術は少し違った点がある。
「フッ!!」
「ぬ........」
それは、肉体的な強さに関しては自分と同等という事。
魔術や権能は使えない代わりに、自分と同じレベルの格闘術と速度を持つのだ。
おそらく、魔力そのものが闇であるが故に魔力のロスが少ないからできる芸当だな。
俺も同じ魔術を作ってみようと思ったのだが、どうしても自分の劣化版しか作らなかったし。
単純計算して、戦力は2倍。
しかも、作られた悪魔はデモットの思考を理解して連携を取るので、それ以上の戦力となる。
「これは片手ではしのぎ切れんのぉ」
結果、お爺さんに両手を使わせることに成功した。
必要最低限の動きで避け続けるのも難しくなってきたのか、僅かに動きが大きくなる。
デモットは、その僅かな動きの違いを見逃さない。
動きが大きくなるということは、それだけ次の攻撃に対する対処が遅れるということなのだ。
確かにデモットの魔術は脅威だが、隠しタネはまだまだあるんだぞ?
「弾けろ」
「む!!」
僅かにお爺さんの動きが鈍ったその瞬間、デモットの隠しタネの1つが炸裂する。
影によって作られたデモットの分身が弾け、闇の針が降り注いだ。
まさか攻撃中に弾けて針が降ってくるとは思ってなかったお爺さんは、これを全力で回避。
今までは多少なりとも遊んでいたのだが、ここに来て本気の動きを見せたのだ。
「速いわね。明らかに先程と速度が違ったわよ」
「だな。だが、デモットもそれは分かってる」
逃げた先に素早く移動したデモット。ここで仕留めるつもりらしい。
「影の槌」
「これも魔術か。面白いのぉ。ここまでデモットが強くなるとは思わなんだ。儂も少し本気で対処するぞ?」
デモットは影を再度集めて巨大な槌を作ると、お爺さんを叩き潰そうとする。
しかし、お爺さんもここに来て反撃に出た。
ゆらりと少しだけ体を揺らすと、その姿が掻き消える。
そして、デモットの体が回転しながら宙を舞った。
「........へ?」
「ほっほっほ。久方ぶりに権能を使ってしまったわい。本当に強くなったのぉ」
何が起きたのか分からないデモットと、空中に打ち上がったデモットを楽しそうに見つめるお爺さん。
デモットは何が起きたのか分からなかっただろうが、外から見ていた俺達のからはそれがなんなのか分かった。
あの爺さん。技法派に見えてゴリゴリの脳筋スタイルだ........
「一瞬でデモットの死角に入り、一撃を当てたわね........魔力の流れから権能を使ったように見えたし、素早さの権能とでも言うべきかしら?」
「だろうな。あれだけ技術を見せつけておいてここに来て脳筋はずるいだろ。完全に騙されたわ」
「昔見た時と変わらぬ速さだ。既に何百年と経っているというのに、衰え知らずだな」
「え?え?何が起きたの?」
今までの必要最低限の動きで相手を受け流す戦闘スタイルはブラフ。あの爺さん、素早さこそ正義のスピードアタッカーだ。
デモットが槌を振り下ろそうとした瞬間、デモットの死角に入り込んで一気に投げ飛ばしたのだ。
できる限りゆっくりとした動きを見せていただけに、急に早くされたらそりゃ対処も遅れる。
俺も初見でやられたら一瞬焦るだろうな。
それほどまでに、見事に騙されてしまったという訳だ。
「にしても強いな。デモットも弱くないんだぞ?」
「お互いに本気で殺し合いをしていた訳では無いから真の実力までは分からないけど、かなり強いわね。下手したら伯爵級よりも上よあれ」
一体何者なんだこの爺さん。
俺はそう思いながら、地面に落ちてきて負けを認めるデモットを褒めてやるのであった。
よくやったぞデモット。これは相手が悪かった。
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