限界オタク


 ヤーレンお爺さんが村に来てから数日後。


 デモットの育ての親ということもあり、彼はこの村にあっという間に馴染んでいた。


 この村は悪魔の中でも変わり者がやってくる場所。暴力よりも知識を、趣味を優先するような悪魔が多く、その知識欲や趣味を満たしてくれるお爺さんは結構な人気者となったのである。


 元々いい人っぽいしな。


 誰にでも分け隔てなく接し、そして知識を授ける。


 それがお爺さんの良いところだ。


「ふわぁぁぁぁ!!凄いです!!」

「ほっほっほ。そこまで喜んで貰えると嬉しいのぉ」

「家宝にします!!ありがとうございます!!」


 そんな人気者となったお爺さん。そんなお爺さんを滅茶苦茶尊敬し、もはや限界オタクにまでなっている悪魔がいる。


 それが、ポートネスであった。


 白衣を着たこの村の医者。薬草の知識で彼女の横に出る存在はおらず、この村では欠かせない存在。


 そんなポートネスは、狂喜乱舞しながら一枚の紙を大切そうに抱き抱えていた。


「凄く機嫌が良さそうね。あんなポートネス、初めて見たわ」

「俺もだ。あそこまで楽しそうにしているのを見るのは初めてだな。まぁ、無理もない。自分の人生を変えた本を書いて売ってたのがあのお爺さんだったんだから」


 ポートネスの持っている本。


 ポートネスの人生を大きく変えたあの本は、お爺さんが書いたものであったことが判明した。


 何となく嗅いだことのある匂いだなとポートネスが最初に気が付き、話していくうちにお爺さんが本の著者であったことが判明。


 結果、ポートネスは限界オタクとなり、本にサインを貰うわ絵を描いて貰うわで大はしゃぎである。


「あの本を見た時にデモットの反応が少しおかしかったのはそれが原因だったのか。ちょっと変だなとは思いつつスルーしたんだが」

「私も思ったわ。確信が無かったのかしらね?」


 そんなことを言いながら、俺とエレノアはちょっとした訓練をしていた。


 心理顕現という力を手にしたあと、色々と力の使い方や訓練をして来た。


 その中で最も効率的な訓練と言えるのが、今俺たちが行っているこのミニ顕現での戦闘である。


 俺は手のひらサイズの観音ちゃんを、エレノアは手のひらサイズの炎の世界を顕現し、お互いに戦わせるのだ。


 同じ出力に保ちながら、殴り合う。


 これが意外と難しく、そしていい訓練となるのである。


 無を司る観音ちゃんの手と、決して消えぬ炎との勝負。


 結果は引き分けに終わるのだが、こうして戦わせることで俺たちの力の制御も上手くなるのだ。


「........(ちょっと休憩)」

「お疲れ様観音ちゃん。どう?調子は」

「........(いい感じ。というか、私達よりも主の方が疲れる)」

「俺は慣れてるからね。こういうのは。それでも精神的に少し疲れるところはあるけど」

「心理顕現は魔力だけではなくて精神的な力も必要になるから、思っている以上に疲れるわよね。慣れると大したことはないんだけど」

「慣れればな。最初は本当に疲れたよ」


 心理顕現とは魂の具現化。魔力を使うのはもちろん、精神力とも呼べるような力を使って世界を具現化する。


 正確に言うと、別に精神力とかそういうのは使っていないのだが、まぁ、魔術以上に神経を使うと思ってくれれば問題ない。


 その神経を長く保つための訓練がこれなのだ。結果的に出力も上がるし、精度も良くなる。


 毎日3~5時間程は俺とエレノアはこのミニ顕現で殴り合う。


 心理顕現を得てからずっとやっている事だ。


 継続は力なり。継続することこそが、力を得るために必要な要素である。


 もちろん、才能がある前提になるが。


「見てよカーリー!!この素晴らしい絵を!!」

「よ、良かったですねポートネスさん」

「嬉しい!!本当に嬉しい!!ジークに着いてきて良かった!!」


 本当に嬉しいのか、それはもう見たこともないほどに綺麗な笑顔で助手をしているカーリーさんに抱きつくポートネス。


 カーリーさんは困惑するしかない。


“良かったですね”しか言えないわな。


「困ってるわね」

「困ってるな。あんなに喜びながら感情を出すポートネスなんて見た事がないし、そりゃ困りもするさ。お爺さんもちょっと引いてるし」

「嫌われないかしら........?」

「まぁ、そこら辺は大丈夫だろ。ポートネスも子供じゃないんだし」


 そんなことを話していると、デモットがお爺さんの元へとやってくる。


 そして、何やら話すと俺たちの所へとやってきた。


「すいませんジークさん。暴れてもいいダンジョンに飛ばして貰えますか?」

「ん?なんで?」

「その、お爺さんに俺がどれだけ強くなったのか、何を見て学んできたのか見せたくて........」

「儂からもお願いしたい。50年ほど前から何を見て、何を学んだのか知りたいのでな」


 なんだそんなことか。可愛い可愛い弟子のお願いならば、なんだって聞いてあげるつもりである。


 デモットが望むなら、世界の半分ぐらいは征服してやるぞ。魔物は残ってないだろうが。


「俺達も見ていいか?お爺さんがどれだけ強いのか見てみたいし」

「確かにそうね。明らかに強いし」

「ほっほっほ。ジーク殿達の方が圧倒的に強い。そこまで期待された眼差しで見られても困るぞ?」


 よく言う。


 少なくとも伯爵級悪魔レベルの強さを感じるお爺さん。その実力がどれほどの物か少し見せてもらうとしよう。


「ほう。ヤーレン御仁が戦うのか?私も見てみたいものだな」

「ジーク!!私も連れてって!!」


 どこからともなく現れたウルと、話を盗み聞きしていたポートネスまでやってくる。


 ウル、いつの間に........


 ウルはヤーレンお爺さんの過去を知っている。どこまで知っているのかは分からないが、少なくともウルが大公級であった頃に面識があった事は間違いない。


 その時の強さの比較をしたいのかな?


 ポートネスは........ただ見たいだけだなこれ。


 兎に角お爺さんを見たい!!そんなオタクの魂が見て取れる。


 知らない間に悟りを開いて心理顕現を獲得してそう。


 悟りなんて人それぞれだし、そんな理由で覚醒するとかもあるかもしれん。


「それじゃ、この6人で行くか。ダンジョンに飛ぶから酔わないようにね」

「頼む」


 という訳で転移。


 やってきたのは、何かと遊び場となっている俺とエレノアの家の横にあるダンジョンである。


 ここ、出てくる魔物が滅茶苦茶弱いからレベル上げとして使えないけど、遊び場としては最適なんだよね。


 ついこの間、師匠と遊んだ時に焼け野原と化したが、ここはダンジョン。しばらくすれば元に戻ってくれるのである。


 ダンジョン君マジ便利。


 ダンジョン君が居るおかげで魔術を試し打ちする場所にも困らんし、遊び場にも困らない。


 一家に一つダンジョンの時代が来るかもしれん。


 最弱のダンジョンで、ちゃんと管理できることが大前提だが。


「何度観ても不思議だの。魔術。人間が編み出した魔力での戦闘方法。こうして一瞬で場所を移動できるのはあまりにも便利すぎる」

「言っておくけど、ジークさんとエレノアさんがおかしいだけだからね?ウルさんはちょっと別としても、人類でこの魔術を扱えるのは二人しかいないし」

「そう言っておったな。しかし、魔術そのものは悪魔でも使える。ほっほっほ。この歳になっても学ぶことは沢山あるのぉ。暇をせんで助かるわい」

「俺の魔術を見せてあげるよお爺さん。この50年、それなりに強くなったんだ」

「見れば分かる。では、デモットの成長を見せてもらおうかの」


 こうして、孫と祖父の遊びが始まった。


 さぁ、お爺さんはどれほど強いんだ?




 後書き。

 ポートネス、限界化。尚、デモットは心の中で『俺の方が詳しいし。なんなら一緒に住んでたし』と軽くマウントを取ってたりする。

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