頭のネジが飛んでいるタイプ


 悪魔のあり方を変えたいが為に、悪魔の王、秀では悪魔たちを殺すことを考えているヤーレンお爺さん。


 これ、人間で例えると、思いっきり国家反逆者の思想だよな。


 テロリストだよテロリスト。


 一国のあり方を変えるために、その国民と王を殺すのだ。


 話を終えた後に1回冷静になって考えてみると、結構ヤベー奴である。


 まぁ、俺としては有難い。何度も言うが、俺達の悪魔に対するスタンスは経験値である。


 それを否定されるような事がないので、お爺さんと対立することもないのだ。


「なるほど。それで帰ってきた訳だ」

「ウルが許可してくれるなら、連れてくるけどどうする?」

「断る理由もないな。大公時代の私を見たことがある人物で尚且つ戦争の時を見たご老人。もしかしたら、見たことがある方かもしれん」


 師匠に毎日逢いに行くウルは、神妙な顔をしながら頷く。


 そんな顔していても、毎日師匠の所に行ってイチャイチャした挙句、ガレンさんに惚気話していることを俺は知っているぞ。


 その日のガレンさんの顔を見るだけで、最近はウルが話したのかどうか分かるようになってきた。


「なら連れてくるよ。きっと村にとってもいい刺激になってくれると思う。俺達じゃ教えられない魔界でのアレコレが多くあると思うしね」

「そうだな。村の発展に知識は不可欠。もちろん使わない知識も多くあるが、知っている事が時として重要なこともある」


 ということで、俺達は早速お爺さんを連れてくることにした。


“ほう!!許可が降りたのか!!”とお爺さんは滅茶苦茶喜び、素早く荷支度を終えると転移。


 こうして、デモットの育ての親であるヤーレンお爺さんがこの村にやってきたのである。


 ちょっと村を育成するシュミレーションゲームをやっている気分になってくるな。優秀な人材を集めて村を発展。俺はあまり得意なゲームジャンルでは無いのだが、現実でやると結構楽しいかも。


 そんなことを思いつつ、ウルとヤーレンお爺さんを引き合せる。


 日を跨いでの来訪なので、今は朝方だ。


 ちなみに、デモットはナレちゃんに捕まって相手をしていたりする。


「ふむ。昔とまるで見た目が代わっておらんな。あの時の話は少しは為になったかな?」

「........ジーク、エレノア、少し席を外してくれ」


 お爺さんと顔を合わせたウルは、酷く驚いた顔をし、そして俺とエレノアに席を外すように促す。


 俺とエレノアは顔を見合せたが、反論する理由がないなめ大人しく家を出ることにした。


「少なくとも初対面ではなさそうだな」

「そのようね。一体何を話しているのかしら?態々外に話が漏れないように、ウルが力を使っているのが分かるわ」

「下手に盗み聞きしようものなら、俺達の信頼が無くなる。ここは大人しく待っておこう」


 信頼は積み木と同じだ。高く積み上げるほど難しく、時間もかかるが、崩すのは一瞬。


 社会に出て、信頼を積上げていくその横で崩れ去っていく積み木を幾つも見てきた。


 一時の好奇心でその信頼を失う方が損失が大きい。


 ここは大人しく待つべきだろう。


 エレノアもそれを理解しているのか、無理に話を聞こうとはしなかった。


「もしかして、とんでもない御仁だったりするのか?」

「かもしれないわね。デモットも知らない、何かがあるのかもしれないわ」


 ウルがあそこまで驚くような御仁か。想像もつかないな。


 少なくとも初対面では無いのは確実。お爺さんの口ぶりや、ウルの表情からそれは分かる。


 そして、ウルの記憶に残るような存在でもあった。


 考えられる事としては、何らかの知識を授けたとかそう言うことなんだろうか?


「もしかして、王に対する不信感を植え付けた?」

「でも師匠がその役割をやっていたわよ?」

「師匠が突き動かすための鍵となっただけで、考え方を変えたのは別の要因だったとしたら?」

「........可能性はあるわね」


 どれだけ考察しても、結局の所答えは出ない。


 気になるな。大公級悪魔の時代におそらく出会っていたと思うのだが、そこでどんな話がされていたのだろうか?


 しばらくエレノアと議論をしていると、ウルとお爺さんが家から出てくる。


 ウルの顔は普段通りに戻っていた。


「話し合いは終わった?」

「あぁ........ともかくヤーレン御仁はこの村に欠かせない存在だ。快く受け入れさせてもらうとするよ。デモットにもそう伝えておいてくれ」

「ホッホッホ。世話になる」

「可愛い孫と村の散策でもしてくるといい。きっと貴方が望んだ世界が広がっているはずだ」

「そうさせてもらおう、女帝よ........いや、ここでは村長と呼ぶべきか」


 お爺さんはそう言うと、芝生の上でナレちゃんと遊んでいるデモットのところに歩いていく。


 俺達はその背中を見送ると、ダメ元でウルに聞いてみた。


「何を話してたの?」

「少々昔話をな。それと、正直生きているとは思ってなかった」

「面識があったのね」

「私が大公として街を治めていた時にふらりと現れ、知識を授けて消えたご老人だ。何かと当時の私では考えられない事を語る方だったから、記憶に残っていたんだ。後、見た目が変わってないからな」


 どうやらウルは、詳しいことを語るつもりは無いらしい。


 これ以上のことは聞けなさそうだと判断した俺とエレノアは、それ以上のことは聞かなかった。


「村にいい発展をもたらしてくれる?」

「それは間違いない。この村に住む者たちは皆、知識の重要さを理解している。暴力という力が無かった者達だ。その不足分を補うために知識に目をつけ、色々と試行錯誤した結果こうしてこの村に居るんだしな」

「そっか」


 俺はそう言うと、ナレちゃんと共に村の案内を始めるデモットを見守る。


 どちらにせよ、デモットが楽しそうならそれでいい。


 ところでお爺さん、貴方の育てた子は滅茶苦茶この村ではモテますよ。




【西の大地】

 魔界の西側に位置する場所。ジュラ紀を彷彿とさせる植生と、乾いた環境が特徴的であり、昆虫系の魔物が多く存在する。

 が、初手にムカデ系の魔物が出てきてしまいジークの逆鱗に触れてしまったので全て天魔くんちゃんが滅ぼすことに。ちなみに、人類の敵も居るので判断は正しい。




「デモットよ。あの師匠の二人はどのような存在だ?」


 デモットとナレが村を案内する中で、ふとヤーレンはそんなことを聞く。


 人間という種族の存在は知っていたが、初めて見た。そんな人間の弟子をしているデモットに二人のことを聞くのは自然と言えるだろう。


 デモットは素直に答えた。


「家族にも近いかも。多分、兄や姉が居たらあんな感じだったと思うよ」

「ほう。それはそれは」


 それはデモットからすれば最大限の評価であった。デモットに血の繋がった家族はいない。


 そんなデモットから“家族”という言葉を引き出すのは容易ではないと、ヤーレンは知っている。


「兄や姉のような存在か。それは良かったな」

「うん!!ジークさんとエレノアさんに出会えてよかったよ。お爺さんが外の世界について話してくれなかったら、こんな出会いはなかったと思う。ただ........」

「........?」


 家族のような存在。しかし、家族であろうとも欠点のような部分もある。


 デモットは呆れながら、その欠点を口にした。


「レベルの事になると二人とも本気になりすぎるんだ」

「ほう?具体的には?」

「ジーク、エレノア、二人共、悪魔に容赦ない。気に入った相手は殺さないけど、それ以外は殺す」


 ナレが言葉を引き継ぐ。


 子供にすらそう言わせるデモットの師。ヤーレンは少し考えた後、1つの結論を出した。


「頭のネジが飛んでいるタイプじゃな?」

「そうだよ。基本はいい人なんだけどね」

「ん。普段は優しい。身内には」


 ヤーレンはこの会話から、ジークとエレノアは敵と味方の区別がハッキリとしすぎていると予想し、今後敵となるような行動は控えておこうと心に決めるのであった。

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