悪魔を変える者
知識とは何か。
そんな根源的な、哲学的なことを考えた人と言うのはかなり少ないだろう。
俺も実際に知識とは何か?と問われて答えられる気はしない。
と言うか、そもそも知識に答えはないだろう。
ヤーレンお爺さんは、そんな答えのない知識について考える哲学者なのだ。
「悪魔が力によってこの社会体系を作っていることは知っておるな?」
「もちろん。力と言うか、暴力ですね」
「暴力によって相手を倒し、押しつぶす。それが魔界の在り方だとは思うわ」
「そうだ。しかし、暴力とは知識の上に成り立つとは思わんか?」
「否定はしません」
知識にも様々な種類がある。例えば経験則に基づいた成功も知識による成功と置き換えられるだろう。
これをやったら上手くいく、これをやったら失敗すると言うのを知る。
これも知識のひとつと言えるだろう。
魔術を扱えるようになり、暴力という手段を得たとする。
しかし、その前には必ず勉強や実験が必要となる。
結局、知識の上に成り立っていると言えるわけだ。
「知識の上に全ては成り立っているというのに、悪魔達はその知識を軽視する傾向にある。儂は、その認識を改めさせたいと考えた」
「なるほど」
「デモットはそんな考えの元、多くの知識を授けられたのね」
「ふむ。そうだな。儂が教えてきた子の中でもかなり優秀で、何より好奇心が強かった子と言えるだろう。良い子じゃ」
お爺さんに褒められ、少し照れくさそうにするデモット。
俺たち以上に尊敬しているであろうその悪魔からの言葉が、嬉しくないわけが無い。
育ての親だしな。
「儂は多くの悪魔に、暴力ではなく知識の重要性と言うのを説いた。だが、その結果はことごとく失敗。古くから暴力こそが正義であり絶対と言う考えを変えさせることは出来なかったのじゃ」
「この街での話ですか?」
「いや、東から西、北から南まで、多くの街で長い間多くの事を説いたが、その話に耳を傾けたのは極わずかであったな。ひとつの街に大体50年ほど。それだけかけて色々とやっても、悪魔の考えは変わらんらしい」
なるほど。色々なところで布教活動をしていたのか。
どのように街に入り、そこの住民として暮らしたのかは知らないが、少なくとも多くの場所で自分の考えと知識を広めることを続けていたらしい。
「だいたいどのぐらいの街に?」
「ふむ。大体400ぐらいかのぉ。二万年近くは活動しておったわ」
「「「........え?」」」
俺とエレノアとデモットの声が重なる。
んなばかな。
悪魔の寿命はデモット曰く約1500年ほど。どんなに長生きする体質であったとしても、二万年を生きるのは無理がある。
と言うか、デモットの話では1450歳とかそこら辺じゃないのか?
「お、お爺さん?俺が年齢を聞いた時はそんなこと一言も........」
「ん?そうじゃったか?」
「だ、だって当時は1436歳って言ってましたよ?!」
「ホッホッホ。という事は、年齢を隠しておきたかったってことじゃの。デモットが幼すぎて、下手に周りの大人達に言い回らないようにしておったのかもしれん。当時のデモットは知った知識を披露したがる子だったからのぉ」
デモット、子供の頃から解説役の才能があったんだな。
小さい頃のデモットに益々会いたいよ。舌足らずな感じで覚えたばかりの知識を披露されたら、絶対気持ちの悪い笑みを浮かべる自信がある。
絶対可愛い。
っと問題はそこじゃない。
この爺さん、なんで二万歳まで生きてんだって話だよな。
「悪魔の寿命と噛み合いませんが........」
「ホッホッホ。ちょいと強引な方法で寿命を伸ばしておるのでな。まだあと1万年は生きられるぞ。まぁ、そこはあまり気にせんでいい」
いや、気になるって。
もしかして、フェニックスの血肉でも食った?
俺たちと同じように。
気になる事ではあるが、ヤーレンお爺さんはこれ以上話す気がないのか話を戻してしまう。
「二万年かけて多くの街に知識の重要性を説き、悪魔の社会に大きな改革をもたらそうと思ったが、そもそもの根本的な考え方が変わることは無い。ならば、どうするべきか分かるか?」
「自分が王になって新たな改革を促す?」
「自分が管理できるだけの数だけを生かして、残りは殺すのが早いかしらね?生かした残りを洗脳すればそれで終わりよ」
「どちらも正解だな。儂は根本的な原因が王にあると考えた。王にとって都合のいい傀儡を作り出し、自らの安全を図っているのではないかと。そして、幾つか研究している内に儂の過程はある程度正しかったことが立証されたのじゃ」
ヤーレンお爺さんはそう言うと、持っていた本のあるページを見せてくれた。
それはどこか見覚えのあるような画風で書かれた、絵と簡単な説明であった。
「悪魔の王“ソロモン”。あやつの権能は他者に鎖を付け、その鎖に繋がれた者に強制的な洗脳をかける力であった事が判明しておる。あの裏切り者のおかげじゃの。他にも何らかの力があるように見えたが........あの戦いはあまりにも激しすぎてじっくりと観察するのは無理じゃったのぉ」
悪魔王“ソロモン”。
悪魔王の話を聞いた時に、ある程度の力は聞いている。
鎖に繋がれた相手は必ず王の下僕となり、王の意のままに操られる。
権能の力はこれで間違っていない。他にも王には力があるのだが、詳細はウルも分かっていなかったな。
おそらく、ウルの持つ力と同じだろうとは言っていたけど。
「なぜ王が悪魔という種族が生まれてからこの方変わっていないのか。簡単じゃ、こやつが強すぎからじゃの」
「鎖の権能か。相手を強制的に支配できたら、そりゃ勝負にならんわな」
悪魔の領主が必ずタイマンでなければならない。そうでなければ、王から裁きが下るから。
この権能の力が、悪魔を統治している。
ウルもかなり厄介な力だったと言っていた。
「鎖を引きちぎる方法はただ一つ。己の意志による束縛からの解放のみだ。デモットはその力を強引に引きちぎっておる。心の強い子じゃの」
「それで、ヤーレンお爺さんは王を殺したいと?」
「ホッホッホ。叱り。知識が暴力を上回ると証明してやりたいのじゃよ。結局のところ、暴力に頼らなければならんと言うのが皮肉じゃがな」
王を殺す。
絶対的な支配体制を築いている王に知識で抗う。
現状の悪魔達は進歩が無い。知識を軽視すれば、やがてそのツケが自分たちに回ってくる。
その為に暴力に頼らなければならないというのは確かに皮肉だが、中々に面白いことを考えるじゃないか。
ウルや師匠以外にも、悪魔の王に対して抗うものは存在してる。
「........お爺さん。王には向かった裏切り者が住む村があります。もし、彼女の許可が降りればあなたも来ますか?きっと、あなたが望んだ悪魔のあるべき姿がそこにはあると思いますよ?」
「ほう?生きているのか。あの冷徹な女帝は。結構探したのだがな」
「まぁ、色々とありましてね。デモット、招待してもいいと思うか?」
「もちろんですよ。おじいさんの知識は凄いんですよ?きっと村の発展に役立ててもらえると思います。それに、ジークさん達の最終的な目標である王の討伐に大きな助言をしてくれると思いますよ」
ウルがデモットのお爺さんの来訪を断るとは思えない。何気にデモットのおじいさんのことはかなり気になっていたらしいしな。
自分を知っていながら生きている悪魔はかなり少ないらしい。物語ではなく、実際に見たことがある悪魔は。
こうして、俺達はデモットのお爺さんを村に招待することにした。
王に抗う知識の悪魔。悪魔の未来を憂いて、活動を続ける知識の悪魔にとってこの選択は良い方向に転がるのだろうか?
後書き。
先にちょっとネタバレすると、悪魔の在り方を変えたいから、古い考えを持った悪魔は全員殺そう‼︎が、このお爺さんの考え方。
ぶっ飛んでやがる。
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