お爺さん
デモットを育ててくれたお爺さんの住む街にして、デモットが生まれた故郷。
俺達はそんな場所にやってきていた。
「うわー、懐かしいですね。50年以上経った今でもそんなに景色が変わらない辺り、発展はしてなさそうです」
「悪魔の寿命は長いからな。その分変化するのも時間が掛かるんだろうよ」
「確かに。エルフとかドワーフといった長寿種程発展が遅くなる傾向にあるわね。やはり、変化を恐れる老害が増えるからかしら?」
「そう言うなよ。必ずしも変化が良い方向に恩恵をもたらす訳じゃない。時には停滞も賢い選択ではあるぞ」
「それもそうね。問題は、停滞を続けていても先がないから結局変化するしかないという事でしょうけど」
時代と共に、文化や生き方と言うのは変化する。それが必ずしもいい方向に導かれるとは限らない。
停滞が時として良い方向に向くこともあるが、どこかで変化しなければその停滞は後退と変わらない。
難しいところだな。
そんな歴史を乗り越えて、今があるわけだ。いつの日か、大きく世界が変わる日を目にする時が来るのだろうか?
「あ、あそこの少し大きめの建物。懐かしいなぁ。よくあそこに昇って遊んでたんですよ。山が良く見えて、陽の当たるいい場所でした。子供の頃は、あそこで日向ぼっこをよくしていたんですよ」
「へぇ。デモットが小さい子の話か。ちょっと見て見たかったな。絶対可愛かったぞ」
「デモットの幼少期の話ね?確かに小さい頃のデモットも可愛かったでしょうね。その頃のデモットも見て見たかったわ」
「やめてくださいよあ二人とも。俺はそんなに可愛い子ではなかったですよ」
いや、絶対可愛かったね。今もこんなに可愛いというのに。
デモットはどちらかと言えばイケメン寄りの顔立ちをしているが、とにかく性格が可愛い。
愛弟子だからというのもあるが、その可愛さというのは幼い頃から絶対に出ていたはずだ。
ハッ!!もしかして、お爺さんもデモットのことがとても可愛かったのでは?!
そんなアホなことを考えつつ、俺達は近くの山に降り立つ。
“また遊んでね!!”と甘えてくる黒鳥ちゃんをナデナデしてあげた後、俺とエレノアは悪魔の姿に変身して山を降り始めた。
「街に入れるか?」
「排他的な街が多いこの魔界で、旅人の振りは難しいでしょうね。夜になったら忍び込む方が安全だとは思うわよ」
「俺もその方がいいかと思います。それか、もういっその事この街を治めている領主に喧嘩を売って勝つとか」
「嫌だよ。悪魔達を従える気は無いんだ。デモットがやるなら応援するけど」
「俺も誰かの上に立つような悪魔では無いので、勘弁ですね。夜になったら忍び込みましょう。夜は警備もかなり手薄になるはずですから。ジークさん達の魔術があれば一瞬で入り込めるはずですよ」
正面から入ろうにも、悪魔達は旅人に厳しい。
という訳で、夜に忍び込むことが決定した。
夜になるまでゆっくりと待つことにしよう。その間に街の構図を頭に叩き込んでおくか。
「お爺さんの家がどこにあるのか分かるか?」
「場所が変わってなければ、あそこの少し離れた場所にある家ですね。昔からあまり悪魔達が近寄ることが無い場所でした。俺は好奇心で近づいて、お爺さんに見つかった訳です」
「へぇ。そこから今のデモットになった訳か」
「はい。ちなみに、あそこが俺が生まれた家ですね。あの赤い屋根の。親は俺が生まれて割と早い頃に亡くなったのですが、その前にお爺さんと出会っていたので保護して貰えることになりました。今思えば、悪魔の対応としてはありえないですね。親をなくした悪魔の子供が待つ未来は、基本的に魔物の餌ですから」
悪魔ってえげつないな。
親という加護を失ったその瞬間、子供だろうが弱肉強食の世界に無理やり連れてこられる訳だ。
そして、弱いから結果的に魔物の餌となる。
デモットはかなりの幸運なのだろう。冒険者としての才能がある。
死ぬ場面で死なない。生存能力という点においては、デモットは並外れたセンスがあるのだ。
俺達と出会って生きている時点でかなりすごいしな。師匠関連を除いて、俺が殺さなかった最初の悪魔だし。
「ちょっと偵察を送るか」
俺はそう言うと、転移用に黒鼠くんを数体送り出す。
“うい”と言わんばかりに小さく頷いた黒鼠くんは、そのまま街の方へ一直線に走っていった。
「黒鼠くんはクールね」
「ちょくちょく呼び出して遊んであげるんだけど、意外と甘えん坊だぞ。背中を撫でてやると滅茶苦茶喜ぶ」
「へぇ?そうなの?」
「クールに見せ掛けただけの甘えん坊だよ。ツンデレってやつだ」
ネズミのツンデレに需要とかあるのか?とは思うが、可愛いからヨシ。
撫でるのを辞めると“もうちょっと撫でてくれ”と言わんばかりに甘えてくるのは可愛いぞ。普段クールに振る舞うから、ギャップ萌えが凄いんだ。
黒鼠くん。実はそれを狙っている説。
なんと狡猾な子なんだ。
という訳で、みんなで黒鼠くんを甘やかしたり、デモットの闇狼と戯れたりしながら過ごすこと二時間。
日が沈み、夜がやってくる。
俺が地球にいた頃の星々は点々としていたが、この世界の夜は満点の星空が広がっている。
もしかしたら、この星々の中に太陽があるのかもしれないと思うと、ちょっとロマンがあるよな。
まぁ、多分その可能性はゼロに近いが。
「さて、行くか」
「そうね。いい頃合いだわ。既に転移場所は決めてあるのよね?」
「もちろん。お爺さんの家の裏が丁度空いているらしくて、周囲から見えないらしいからそこに飛ぶぞ」
「裏........あぁ。あそこですか。よくそこで本を読んでもらったっけ」
何やら懐かしそうな顔をするデモットを連れて、俺達は転移する。
先に偵察に行かせた黒鼠くんが周囲の安全確保をしていたので、悪魔に見つかるようなことは無かった。
「侵入成功。んじゃ、尋ねてみるか」
「ふふっ、楽しみね」
「既に亡くなっている可能性もありますからね?かなりの歳でしたし」
「その時はその時だ。とりあえず居ると思って行ってみよう」
既に家の中に悪魔の気配がある。
誰も住んでいないということは無さそうだ。
デモットが気配で気づけるかなと思ったが、デモットが気配を感じ取れるようになったのはおそらくこの街を出てからの事。
お爺さんの気配を覚えていないのだろう。
こればかりは仕方がない。
家の表へ回り、コンコンと扉をノックする。
ノックしたのはデモットだ。
せっかく帰ってきたのだから、デモットがやるべき。俺もエレノアもそう思うのは当然である。
少し待っていると、扉が開く。
そこにはかなり年老いた老人の悪魔がいた。
二本の角と尻尾。そして長い白い髭と目を覆うぐらいに長い白髪。
........ん?この爺さんかなり強いぞ?具体的には、男爵級悪魔よりも明らかに強い。
「誰じゃ?」
「お爺さん。お久しぶりです。俺を覚えていますか?」
「ふむ........ふむ?随分と懐かしい顔じゃの。50年ぶりぐらいか。久しいなデモット」
「正直、死んでると思ってたよ」
お爺さんがデモットの名前を呼ぶと、デモットの態度が一気に崩れる。
デモットにとって、このお爺さんは育ての親。
親に敬語を使う子供なんてほぼ居ない。
「ほう。ほうほうほう。あの頃とは見違えるほどに強くなったな。大きくなったようで何よりだ」
お爺さんはそう言うと、デモットの頭を優しく撫でる。
デモットの顔は見えないが、その表情を察することは出来る。きっと、泣きそうな顔をしているのだろう。
涙を堪えているかのよに、身体が震えている。
「お爺さん........」
「とりあえず中に入りなさい。そちらのお客人もな」
こうして、デモットは育ての親と再開することが出来た。
生きていてくれて本当に良かった。とりあえず、デモットが悲しむようなことになならなくて済んだな。
後書き。
Q.お爺さんが居なかったら?
A.一応デモットに滅ぼしていいか聞いてから、ノータイムで滅ぼす。
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