デモットの故郷
アルロトプレとか言う人類の敵を滅ぼすことが決定してから2日後。
俺達はデモットの故郷である男爵級悪魔の街を探していた。
デモット、50年ぐらい1人で旅をしながら生きていたらしいけど、西側から東側に横断できるって凄いよな。
魔界は修羅の国。
出てくる魔物は人類大陸では想像もできないほどに強く、それが当たり前のように出てくるのだからその日その日が命懸けだ。
出会ったら死亡みたいな魔物が溢れている中では50年間生き延びてきたと言うだけで、デモットの生存能力の高さが伺える。
普段は俺とエレノアの後ろを着いてくる可愛い弟子だが、良くよく考えると結構なハイスペックだな。
この魔界でいちばん弱い魔物ですら上級魔物と考えると、更にデモットの凄さが伺える。
力だけではなく知識を得たことによって生存能力が高くなったと考えると、やはり知識も生きるのに必要不可欠な要素と言えるだろう。
「あ、ここら辺ですね。植生が変わりましたし」
「ほー、ここら辺がデモットの生まれた場所か。東側の大地と西側の大地が混ざったかのようなところだな」
「西側の大地にしては自然が多く、何かと住みやすい土地ではあるんですよ。ちょっと降りて貰えますか?」
デモットがそういうので、俺は黒鳥ちゃんに指示を出して地面に降りる。
デモットは黒鳥ちゃんに“ありがとうございます”と言って優しく頭を撫でたあと、その辺に生えている植物を色々と調べ始めた。
尚、撫でられた黒鳥ちゃんは大喜びである。
俺の魔術は俺の意思を強く受け継ぐ。黒鳥ちゃんもデモットの事は大好きであった。
「........(わーい!!撫でられた!!)」
「黒鳥ちゃん、大喜びだな」
「ジークの魔術でデモットを嫌う存在は居ないわよ。何せ、その主人がデモットの事が大好きだからね。前にも言ったけど、私達も師匠のことは笑えないわ。弟子ってこんなにも可愛いのね」
「初めての弟子ってのもあるが、デモットが素直でいい子なんだよ........つまり、師匠から見たら俺達も素直でいい子だったって事か?」
「それは無いでしょ。何度師匠の家の近くの森を焼いたと思ってるのよ」
俺達と師匠が似ているなら、師匠も俺達をあそこまで気に入る理由も同じはず。
つまり、俺達も素直でいい子って言う証明になると思ったのだが、エレノアに否定されてしまった。
うん。まぁ、俺もそう思う。
素直でいい子かと聞かれたら、言うてそこまでではないよね。
自分で言うのもなんだが、俺は素直な方だとは思う。が、いい子かと聞かれたら首を傾げる。
いい子は両親に隠れて魔術実験して怒られたりしないから。大きな心配を掛けることもほぼ無いから。
「俺達よりもデモットの方がいい子か。俺達の弟子は最強だな」
「ふふっ、そうね」
そんなことを話しながらデモットを待っていると、デモットが首を横に振りながらこちらに戻ってくる。
何か分かったのだろうか?
「俺の故郷では滅多に見ない植物が多く生えていました。もう少し南側ですね」
「凄いな。植物がどれだけあるかで場所がわかるのか」
「はい。意外と便利なんですよ?植物はその土地の特徴を表しています。それを理解していれば、どこに飛ばされても大体の位置は把握できるんです。膨大な知識が必要になりますが」
「それを覚えられるだけすごいわよ。私達なんて直ぐに忘れるわ」
「それが必要ないからでしょうね。魔術でなんとでも出来てしまうからこそ、そのような知識を無意識のうちに不必要としているんですよ」
なるほど。確かに一理ある。
その植物がどこに生えているのかとかを覚えるよりも、自分が刺したポインターの位置から逆算した方が早いからな。
この魔界で生きていく上でデモットが培ってきた技術と、俺達が人類大陸で培ってきた技術はまるで違う。
自分の慣れているやり方でやった方が正確で効率もいい。そして、それ以外のものは割と忘れる。
植物の特徴は覚えていても、生えている地域を忘れるのはありがちだ。
「んじゃ、もう少し南側に行ってみるか。黒鳥ちゃん、よろしくね」
「........(はーい!!)」
元気よく翼を広げる黒鳥ちゃんにほっこりしつつ、俺達はさらに南下。
ちょくちょくその場で止まって、デモットに景色を確認してもらいながら移動する事数時間。
ついにデモットの故郷と言える場所の特定に成功する。
「かなり植生が近いです。ここら辺に間違いありません」
「ようやく見つけたな。それじゃ、後はデモットの生まれた街を見つけるだけだ」
「男爵級悪魔の街だったわよね?」
「はい。山が2つ近くに見えて、尚且つ川が流れている自然豊かな場所です。先ずは二つの山が連なっているところを見つければ、簡単に見つかるかと思います」
「んじゃ、ちょっと偵察用の魔術を飛ばすか」
俺はそう言うと、小型化した黒鳥ちゃん達を量産。
この子達は戦闘力を無くす代わりに、移動速度を重視した作りとなっており、こうした偵察に役に立つ。
東側の大地で悪魔狩りをしていた時にも使ってたな。あまり使う機会は無いが、あると便利な子達だ。
「今の話は聞いてたな?みんなよろしくね」
「「「「........(ラジャー!!)」」」」
小さな翼でピシッと敬礼を決めた黒鳥ちゃん達は、凄まじい加速で空を飛んで行く。
そろそろ昼時だし、俺達は一旦昼飯にしようかな。
「昼にするか」
「そうね。賛成だわ」
というわけで、昼飯作り開始。
先程気持ちの悪いクソ魔物を見つけてしまった為あまり食欲がない俺は、適当に切り取った肉を焼いてパンに挟む。
保存に重きを置いたパンのためかなり硬いのだが、肉汁と親父直伝のソースを使って柔らかくすると結構美味しいのだ。
出来ればシャキシャキの新鮮野菜もあったら最高なんだけどな。
野菜は腐るのが早いから、難しいんだよ。
一時期、異世界モノでよく見るアイテムボックスのよなその物の時間を止める魔術の開発を試みた事があったのだが、あまりにも難しすぎる上にそもそもの理論が開発されておらずまるで分からなかったので諦めている。
空間はともかく、時間という概念を操るのは難易度が高すぎた。
重力系の魔術を応用するか、白魔術で使われる光を応用する事でできないかなと思ったんだけど、その力を時間に変換するのが難しすぎる。
重力をできる限り重くすることで時間の流れを擬似的に止めるとか、光の速さで動かして相対的に時間の流れを遅くさせるとか、案は浮かぶんだけどなぁ。
もっと物理学について詳しく学んでおけばよかったかも。
こんなことろでも“勉強すればよかった”って思うのか。
「んー!!ジークの料理はやっぱり美味しいわね!!」
「ありがとエレノア........ん?あれ?サンドイッチは?」
「ん?もう食べたわよ?」
あの、肉200gぐらいのステーキを挟んだはずなんですが。
エレノアは食事の時はかなりゆっくり味わうタイプだ。美味しものはゆっくり食べて、幸せの時間を引き伸ばす。
そんな食べ方を昔はしていたのだが、今では爆食い早食いになってるな。
「昔はもっと食べるのが遅かったのに」
「ジークがいつも料理を作ってくれる上には美味しすぎるもの。一口食べたら手が止まらないわ」
「分かります。ジークさんの料理はいつも美味しいんですよね。俺もジークさんやデッセンさんに色々と教わりましたが、追いつける気がしません。これも血筋なんですかね?」
血筋で料理の善し悪しが決まってたまるか。
料理は経験だよ。
こうして、俺は美味しそうにご飯を食べてくれる2人を嬉しく思いながら昼食をのんびりと取るのであった。
そして、それらしい街が見つかったという事で、デモットの故郷へと向かったのである。
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