天魔軍団、出撃


 もうマジ無理。


 アル........なんだっけ。


 名前すら覚える価値のないクソみたいな魔物の出現により、俺は早くも西の大地が嫌いになりつつあった。


 本当に無理。マジで無理。


 あのウネウネとした奴らは生理的に受け付けない。めちゃくちゃ嫌い。


 俺の顔があまりにもマジだったのか、デモットが驚いた表情をしている。


 いつも余裕綽々で涼しい顔をしていたはずの師匠が、こんな姿になったのだから驚くのも無理はない。


 失望させてしまっただろうか?でも、ごめん。コレばかりは無理なのだ。


「ジークの数少ない弱点よね。多足系の魔物が死ぬほど嫌いな所」

「弱点と言うか、その弱点でここら周辺が滅んでるんですが........下手にジークさんにあぁ言う系の魔物や昆虫を見せない方がいいですね。巻き込まれて俺が死にますよ」

「昔みたいに隕石を降らせるだけならまだいいのだけれどね。ちょっとこれは........破壊力が強すぎるわ」

「ちょっとどころじゃないですけどね?一体何をどうやったら森がここまで綺麗に滅びるんですか........」


 第七級魔術を主力として使っていた時は、周辺を軽く更地にするだけであり、まだ可愛い方であった。


 しかし、今は心理顕現を覚え、人類種として進化し、更にはレベルも3倍近くはある。


 その結果森を一つ消せるぐらいにはなってしまったのだ。


 反射的に本気で力を使ったらやばいな。分かってはいた事だけども。


「滅ぼす。とりあえずアルなんちゃらは絶対に滅ぼす」

「アルトロプレね。デモット、どんな魔物なのかしら?」

「見た目については省きますが、全長10メートル程の魔物です。強さはトリケラプスよりも少し弱い程度と言われていたはずです。食べられないこともないそうですが、味は微妙との事でしたね」

「へぇ。ちょっと食べてみたい気もするけど、ジークが私のことを嫌いになってしまいそうだから辞めておくわ」

「その方がいいかと思います。ほら、食べられると聞いて更に顔が怖くなりましたよ」


 あんなゲテモノを食べる?冗談じゃない。


 エレノア、お前がもしあのゲテモノを食べたらいくら俺でも一緒に寝てやらないぞ。


「食べたら一緒に寝てくれないみたいね。一時の好奇心でジークに嫌われたくないわ」

「やめた方がいいですね。と言うか、どれだけ嫌いなんですか........」

「こうして見ると、野菜を嫌う子供のようにも見えるわね。ふふっ可愛いわ」


 エレノアはそう言うと、俺の後ろに回って抱きつきながら俺を撫で回す。


 済まないエレノア。食べたい気持ちもわかるが、俺には無理だ。


 今度またブラックドラゴンの肉で美味しいものでも作ってあげるから、それで我慢してくれ。


 俺はエレノアに撫で回されながら、奴らを滅ぼすために狩りに出ていた天魔くんちゃん達を呼び戻す。


 なりふり構わず全部消し去ってやる。


 奴らは俺の敵なのだ。


「........(総員、整列!!)」

「「「「........(はっ!!)」」」」


 天魔くんちゃん達は、呼び出された瞬間、俺が何を命令するのかを察して真面目モードで並ぶ。


 まとめ役の1人が素早く指示を出すと、軍隊も顔負けなぐらいの速さで綺麗に整列をした。


 絶対時間を見つけて練習してるよこれ。主人である俺には分かる。


「天魔軍に告ぐ。あの気持ち悪い見た目をした魔物達を滅ぼせ。手段は問わない。悪魔よりも先に、奴らを駆逐しろ!!」

「「「「「........(はっ!!)」」」」」


 ザン!!と、黒と白の剣を地面に突き刺し、かっこよくポーズをキメる天魔くんちゃん達。


 こういう所でノリがいいから、俺は天魔くんちゃんが大好きである。


 真面目なノリも、オフザケもこなせる天魔くんちゃん。ノリについて行けずちょっとあたふたしている天使ちゃんとかも可愛くて好きだけど、これはこれで満足だ。


 俺からの指示を受け取った天魔軍は、一斉に天使と悪魔の翼を広げると奴らの殲滅に乗り出す。


 効率とか今はどうでもいいんで、とにかくこの惑星上から奴らを消してくれ。頼むから。


「........終わったわね」

「終わりましたね........あんな軍団に狙われたら、命が幾つあっても足らないですよ」


 アルトロプレ、絶滅のお知らせ。


 お前らは見た目が気持ち悪すぎて生理的に受け付けないので、天と魔を敵に回しました。


 よって滅べ。


 やってる事が傲慢な神みたいな感じになってしまったが、人間でもないましてや言葉も話せない魔物な慈悲はない。


 滅べ。そして次に生まれる時は可愛い魔物に転生することを祈るんだな!!


「エレノア、もう大丈夫」

「そう?もう少し甘えてもいいのよ?」

「俺を撫で回したいだけだろ。一緒に寝る時に好きなだけ撫でさせてるんだから我慢しなさい」

「はーい」


 エレノアはスっと俺から離れる。


 そんなに俺を撫でるのが楽しいのだろうか?いや、楽しいというか、最早癖になってるんだろうな。


 毎日のように俺を抱き枕代わりにして撫でてるんだから。


 エレノア、もしかして俺がいないと寝れないんじゃ........


「さて、悪は滅びる。植物の回収は粗方終わってるし、デモットの故郷に行ってみようぜ」

「そうね。ジークが暴れて忘れてたけど、デモットを育てたお爺さんに会いにいく為だったものね」

「何度も言いますが、生きているかどうか分からないですよ?既にいつ死んでもおかしくない年齢でしたし」

「その時はその時だ。墓の一つでも建ててやろう」


 こうして、悪は滅びた。


 二度と俺の前に現れるんじゃねぇぞムカデ野郎。ここでのレベリングは全部天魔くんちゃんに任せます。


 エレノアには悪いが、奴らを滅ぼすことが最優先なのである。


 ダンジョンの魔物は全部あげるから、許して。




【アルトロプレ】

 アルトロプレウラと言う3億年前に実在したヤスデの一属とよく似た魔物。

 巨大節足動物として有名な古生物であり、2メートルを超える種類が含まれ、一部のウミサソリと並んで史上最大級の節足動物とされる。

 アルトロプレは10メートル程の大きさ。毒を持っており、噛み付くことで相手を弱らせ捕食する。

 ジークに見つかり滅びることになってしまった可哀想な奴。ちなみに、ムカデとか苦手なら興味本位で調べることはオススメしない。自己責任でお願いします。




 デモットの故郷とも呼べる男爵級悪魔が収める街。


 そこには一人の老人が住んでいる。


 悪魔はどこまで行っても実力主義の社会だ。特に暴力に関しては絶対的であり、かつて栄光を築いた英雄だろうが老いて弱くなれば淘汰される。


「ふむ。ここも失敗と考えるべきか。唯一、あの子は興味を持ってくれたが、その他は考え方も変わらんか」


 老人はそう言うと、パタンと手に持っていた本を閉じる。


 老人は悪魔の在り方に疑問を持った。


 強さで権力が決まる弱肉強食の世界。


 それ自体は何も間違ってないが、暴力だけが全てを決めるというのは些か早計過ぎるのでは無いのだろうか?


 かの悪魔達の王は、力による統治を施した。鎖で悪魔たちを縛り付け、後は自由な発展に身を任せる。


 その鎖を引きちぎるには、悪魔の考えを根本的に否定しなければならない。


 暴力ではなく知力で。暴力だけで世界が作られるのであれば、世界はもっと残酷なものとなっているはずだ。


 老人は若くしてその疑問を持った。


 そして、いつしか暴力以外の強さを求めるようになったのである。


「潮時か。王は儂の動きに興味がない。おかげで好き勝手に動けるのだけは幸いだな。鎖を引きちぎっても気にもしない。ある意味強者に許された傲慢よ」


 老人はそう言うと、この街を離れる準備を始める。


 まさか、かつての教え子にして孫のように思っていた子が帰ってくるとは知らずに。





 後書き。

 私はムカデが死ぬほど嫌いです。小学生の頃、首筋に登られた事があったので。

 それと、大人になってから昆虫系もあまり得意ではなくなりました。なんでなんやろうな?

 よって、今後昆虫系生物やムカデ系の魔物が出てくるような狩場は、大体滅ぼされるぞ‼︎やっちゃえジーク‼︎

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