生理的に無理


 ナレちゃんがイケメンすぎてナレさんと呼ぼうか本気で悩む頃。


 俺達は天魔くんちゃんの後を追って魔界の西側にやってきた。


 魔界の西側。ここにも多くの魔物が生息しているらしいが、新しい恐竜が見られるのだろうか。


 そんなまだ見ぬ魔物にワクワクしながらやってきた西の大地。


 そこは思っていた以上にジュラ紀を彷彿とされる植物で溢れていた。


「少し........いえ、大分雰囲気が違うわね。魔界のダンジョンで見た景色とは似ているけど」

「俺がいた場所よりもさらに西側の方ですねこれは。少し乾燥した土地に多くの自然。カラッとした暑さが特徴的な場所だったはずです」

「暑さと寒さに関しては魔術で対策しているから問題ないけどね。魔術は便利だよ」


 東側の大地とはまるで違う植生。同じ大陸でも、場所が違えば生えている植物は大きく異なる。


 以前訪れた(今でもレベリングとして使われている)草食恐竜のダンジョンを思い出させるその景色は、とても見覚えがあった。


 うわぁ。魔術を使ってここら一帯を吹き飛ばしてぇ........ダンジョンの感覚で暴れたいなぁ。


 観音ちゃんが本気で暴れられる環境は少ないのだ。


 攻撃範囲が広すぎてあのダンジョンですら抑えきれない。


 もっと本気で暴れさせてあげたいよ。最近は、観音ちゃんも俺達のノリが分かってきたのか結構表情豊かになったのだ。


「早速植物の採取と魔物の捜索をしてみるか。特に植物の採取は忘れるとポートネスに怒られるからな。忘れる前に先にやろう」

「そうね。ポートネスに毎日のように“植物取ってこい”って言われるのも嫌だしね。後、デモットを育てたお爺さんの捜索もしないと」

「そうだな」


 西側の大地にやってきた理由は、新たなレベリング場を見つけることはもちろん、デモットを育ててくれたお爺さんの捜索も兼ねている。


 レベリングよりも先にまずはデモットの故郷に行くつもりだ。


 レベリングはいつでも出来るが、デモットの親とも言える人の寿命は無限では無いのでね。


 でも、その前に植物の採取だけは済ませておこう。


 これを忘れるのが一番ヤバイ。


「デモット、これは?」

「それは頼まれていたやつですね。アプト草。草食系の魔物が好き好んで食べる植物です。ただし、悪魔にとっては毒となりますので、食べないことをオススメします」

「魔物が食べれても人間が食べれないものは多いからな。その逆ももちろんだけど」

「そういえば、悪魔が食べれて人間が食べれないと言うものはないわよね。私達の身体の構造は似ているのかしら?」

「解剖しないとなんとも言えませんね........やってみます?悪魔なんてそこら辺にいますし、人間を一人二人攫うぐらいならできますよね?」


 サラッとえぐいことを言うデモット。


 人間はともかく、同種である悪魔を解剖するつもりか?


 悪魔って本当に身内以外に厳しいよな。人間もそう変わらんけど、悪魔よりは慈悲がありそうだ。


「盗賊とか野盗で試してみるか?あいつはら人間じゃないからな」

「魔物以下のゴミが、悪魔と人間の関連性を見つけるための手助けとなる日が来るかもしれないわね。まぁ、正直あまり興味はないけども」

「ぶっちゃけ俺もない。デモットがやりたいならそこら辺の盗賊でも捕まえてくるけど........」

「あ、別にそこまで気になってないのでいいです。ジークさんとエレノアさんを見てたら分かりますよ。俺達は似て非なる者ぐらい」

「褒められてる?貶されてる?」

「どっちもじゃないかしら?」


 そんなことを話しながら、薬草やら植物を採取していると、近くに魔物の気配が現れる。


 この気配。今まで感じてこなかった魔物の気配だな。


「なにか来たわね」

「だな。デモット、この気配を知ってるか?」

「あー、こいつですか。知ってますよ。コイツは──────」


 ガサガサと、木の葉が揺れる。


 どんな魔物かなとワクワクしながら待ちつつ、迎撃の準備をした瞬間。


 それは俺の目の前に現れた。


「ヒッ........」

「あっ」

「─────アルロトプレですね」


 その魔物が現れた瞬間、俺は顔を引き攣らせた。


 俺の事をよく知るエレノアは、全てを察するとデモットの肩に手を置いて転移魔術を発動。


 俺は無意識の内に観音ちゃんを具現化。


 そして、この森一帯を吹き飛ばす。


「シネェェェェェ!!」


 ドゴォォォォォォン!!


 多分、ダンジョンで暴れた時よりも本気で心理顕現を使ったと思う。


 俺の感情に呼応した観音ちゃんは、一切の手加減をせずに森を破壊。


 半径十数km近くを吹き飛ばし、その場所にあった森のほとんどを消し飛ばす。


「はぁはぁはぁ........」

「........(大丈夫?)」

「大丈夫じゃないけど大丈夫。ありがとう観音ちゃん。助かったよ」

「........(顔色が悪い。少し休む)」

「あ、あぁ。ありがとう」


 普段は余裕のある戦いを見せる俺が本気で力を行使した為か、観音ちゃんが心配そうに俺を見てくる。


 目は髪に隠れて見えないが、魂で繋がっている俺には観音ちゃんの優しさが嫌という程伝わってきた。


 観音ちゃん!!観音ちゃぁん!!


 あいつ気持ち悪すぎるよ!!クソでかいムカデみたいな気持ち悪いウネウネとした奴がいたよ!!


「........やっぱりこうなったわね。ね?避難して正解だったでしょう?」

「........うわぁ........何もないじゃないですか。ジークさんがここまで本気で暴れるだなんて。本当にあぁ言う系の魔物が苦手なんですね」

「苦手なんてもんじゃないわ。昔、アルトロプレ?という魔物に似た魔物を狩っていた時期があったのだけれど、あまりにもジークが苦手すぎて一瞬で叩き潰していたわよ。ジークは足の多い昆虫が巨大化した魔物がとにかく苦手なの」


 転移で戻ってきたエレノアは、予想通りの光景に呆れ、デモットは見渡す限り森がなくなっていることに驚く。


 そう。俺はムカデのような足の多い魔物が苦手なのだ。


 小さい頃からムカデは嫌い。ダンゴムシはまだ行けるんだけどな。


 それと、我ら人類の天敵も大の苦手である。


 一人暮らしをしている時にヤツが現れた時は、それはもう死闘を繰り広げていた。


 頼むから滅びろ。全人類の威信に掛けて滅ぼせ。


「エレノア........俺、ここでのレベリング無理かも。全部ぶっ壊さないと無理だ」

「そのようね。ま、ここは人類大陸でもないんだし、派手にやってもいいんじゃないかしら?グランドマスターにも怒られないんだしね」

「よし。それじゃ、西側の大地は消すわ。こんな魔物滅びてしまえ」


 無理無理無理。生理的に無理なものはどう頑張っても無理なのだ。


 ならばどうする?


 この世から消し去るしかない。どんな手を使ってでも消してやるぞ。


 昆虫系の魔物とか、この世界にとって悪でしかないのだ。


 生態系が変わる?


 何を今更。生態系が変わったとしても、こいつらは滅ぼすべき俺の敵である。


「ジークさんにも苦手なものとかあるんですね。ちょっと意外でした」

「普段はしっかりしていても、子供らしいところもあるのよ。可愛いでしょう?」

「ちょっと可愛いです。俺も昔、家に出た小さな昆虫が苦手でお爺さんに泣きついていましたから。それを見ている気分になりますね」

「ふふっ、私は平気なのだけれどね。生理的に無理と言うのは仕方がないわ。なら滅ぼしましょうか。ジークの敵は私の敵よ」

「俺も僅かながら手伝います」


 こうして、ムカデもどきの魔物の処刑が決定するのであった。


 消す。この大陸から絶対に消し去ってやる。


 一匹残らず駆逐してやるから覚悟しやがれ。





 後書き。

 今回のレベリング回、全カット。ジークはムカデ系や人類の敵が苦手。と言うか、昆虫系全般があまり得意じゃない。

 ムカデっぽい姿をしたアルロトプレが悪いよ。

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