西の大地

バカ‼︎


 ウルが師匠に会いたいと言う欲を抑えきれていなかったので、なんとしててあげる為に一旦故郷へと帰った俺達。


 おふくろや親父の元気そうな顔を見れたし、師匠も相変わず元気そう。何よりも、ゼパードのおっちゃんとフローラが恋人となって子供を見る日も近いかもしれない。


 そんな色々とあった楽しい帰省も終わり、俺達は再び魔界へと帰ってきていた。


 当初の目的はウルと師匠を合わせる事だけだったしね。その目的は終わったのだから、これ以上長居する理由もない。


「ジークさんとエレノアさんのお陰で、ウル様が随分と明るくなりました。村を開ける回数も増えましたがね」

「そのしわ寄せがガレンさんに来ることまでは考えてなかった。済まない」

「いえいえ。気にしておりませんよ。私としては、余生を楽しむウル様が見られて大変楽しいので。知ってますか?ウル様は村に帰ってくる度に、私にノア様の話をするのですよ。それはもう楽しそうに」


 この村の副村長とも言える存在であるガレンさん。


 なんやかんや俺達に最初から優しく、そして色々と村の管理やら何やらをやっているこの悪魔はそんな事を言う。


 俺達がウルを師匠と引き合わせてしまったが故に、ガレンさんの仕事が増えてしまった。


 そこまで考えてなかったのは反省だが、それ以上にガレンさんは楽しそうであった。


 ガレンさんはウルが大公級悪魔をやっていた頃から仕えていた悪魔であり、師匠との交流も長い。


 そんな人が楽しそうにしているのが嬉しいのだろう。


 あの自分勝手な師匠に毎日逢いに行くウルを見て、我が子を見るような目をしている。


「ウルにもお嫁さんができる日は近いのかもしれないわね。いや、骸骨の嫁と言うべきかしら?」

「愛に性別も種族も関係ありませんよ。私としては、サッサと結ばれろとは思いますがね」

「それはそう。だけど、結ばれたとしてどうなるかだよなぁ。ウルは村のことがあるし、師匠は店のことがある。困りものだ」

「いっその事、悪魔の村を人類大陸に転移させる?森の奥地辺りに転移させれば、それほど危険はないわよ。ウルも安心できるわ」

「人間という驚異があるだろ?やるにしてもダンジョンの中とかになっちまう。そして、それができるのは俺達の家の横ぐらいだぞ」


 もし、ウルと師匠が結婚したらどのような生活になるのだろうか?


 一緒に暮らすのはお互いの立場的にちょっと難しそう。


 いや、俺が師匠に家族の護衛を辞めさせればいいのだが、お袋にあまりにも懐きすぎてしまっている。


 今じゃ本当に娘みたいな扱いをされてるからな。本人も満更でもなさそうだし。


 そして、ウルもこの村を手放せない。


 師匠との大切な約束の地であり、残さなければならないのだ。


 となると、通い妻とかになるのか?まぁ、そこら辺は本人同士で決めてもらうしか無さそうだ。


「私としましては、ウル様はこの村を捨ててでも幸せになって欲しいですけどね。あの方は責任感が強すぎますから........」

「考えものだな」

「そうね」


 もういっその事、魔界の王にでも俺がなればいいんじゃね?


 魔物の脅威こそあれど、この村を悪魔最後の生き残りの村にしてしまえば、ウル達の脅威はひとつ減る。


 天魔くんちゃんを一人配置しておけば、かなり安全にもなるだろう。


 最悪、あの遺跡に逃がせばいいんだし。


 あれ?やはり俺とエレノアが頑張るだけで住む話では?


 ウルと師匠からは多くのものを貰った。恩返しするにはちょうどいいのかもしれない。


「悪魔、滅ぼすか」

「そうね。それが一番早いわ」


 こういう時、俺とエレノアは思考が似る。


“とりあえず悪魔を滅ぼせばある程度の問題は解決するんじゃね?”と言う結論に至ってしまったのだ。


 大公級悪魔も、悪魔王も、いつかは戦うつもりなんだし。


 となれば俺達は早く強くなる必要があるだろう。兎にも角にもレベリング。


 家に帰っていた時も魔界のダンジョンが復活する度にフルボッコにしていたが、それ以上のレベリングが必要になるはずだ。


 ちなみに、現在のレベルは346レベル。


 進化する前のレベルを既に超えているのだが、やはりここまで来るとレベルも上がりにくい。


 新たな狩場が必要だ。


 今は丁度西側の大陸でデモットを育てたというお爺さんの捜索中。


 西側には魔境のような場所があると聞いているので、とりあえずそこでレベリングをするのが一番いいだろう。


「西側に行くか。もっと強くなって悪魔王やら大公級悪魔をぶっ飛ばしてくるわ」

「年内には終わらせるわよ。私、幸せそうな顔をする師匠が見て見たいわ」

「あの骸骨顔の形が変わるのか見てみたいな」


 俺達もあーだこーだ言いつつ、師匠のことは大好きである。


 出会いこそ最悪に近かったが、今となっては胸を張って俺達の師であると言えるだろう。


 俺達がここまで強くなれた要因は、あの出会いが全てであったと言っても過言では無いのだから。


 そんな師匠への恩返しだ。見たところ、師匠もウルの事は好きそうだしな。


 というか絶対に好き。だって明らかにウルに対しての態度が柔らかくて優しいもん。


 百合の花だよ百合の花。そして、それを邪魔する悪魔共は間に挟まる野郎だ。


 あー、そう考えるとムカついてきたな。


 百合の花の間に入っていいものなんて無い。処すべし!!処すべし!!


 そんなことを思いながら、早く強くならなくてはと思っていると、バン!!と扉が開く。


 仮にも村長の家。そんな家の扉を雑に開ける無礼なやつは誰だ?と思い全員が視線を向けると、そこにはナレちゃんが居た。


 むすーと、頬を可愛く膨らませながら、今私とても怒ってますと言わんばかりの顔。


 え?俺なんかしたか?


「どうしたのナレちゃん?」

「バカ!!ジークとエレノアのバカー!!」


 わぁ、ドストレートな暴言。


 ナレちゃんは基本礼儀が良くて物分りもいい子だ。そんな子が、俺達に面と向かって暴言を吐くとか相当何かやらかしたに違いない。


 しかし、俺もエレノアも心当たりがなかった。


 なにかしたっけ?いや本当に。


「えーと、ナレちゃん?一体何に怒ってるんだ?」

「怒っている理由を言ってくれないと困るわね。心当たりがないの」

「デモット!!ずっとブレスレットを見てニヤニヤしてる!!私と遊んでても私を見てくれない!!」


 ........あー。


 どうせならみんなでお揃いのアクセサリーを買おうという事で、デモットにもブレスレットを買ってあげたのだが、滅茶苦茶喜んでたよな。


 普段は絶対にしないハグまでしてくるぐらいには喜んでいて、俺達の弟子は可愛いなぁとか思っていたのだが、そんなブレスレットに嫉妬してしまう子が居ることをすっかり忘れてた。


 デモットにとって、初めて贈られた俺達からのプレゼント。


 可愛い愛弟子は、子供の面倒よりも俺達のプレゼントの方が興味津々らしい。


 師匠としてすごく嬉しくは思うが、ナレちゃんからしたら邪魔者以外の何物でもないのは事実。


 しかもそれがアクセサリーと来れば、そりゃ怒るさ。子供なんだし。


「........ふ、ふふっ。笑ってはいけないところなんだけど、笑えてしまうわね。デモットがそんなに喜んでいるだなんて」

「ナレちゃんに殺されるぞエレノア。恋する少女の執念を舐めちゃいけない。が........俺達がどうするとかもできないしなぁ」

「あのジークさん?私に解決案を求めても無理ですよ?流石に重すぎますって。ナレちゃんに恨まれたくないです」


 可愛い我儘だ。だが、言う相手が違う。


 いいかい、ナレちゃん。真の相棒とは、真のパートナーとは、そう言う不満を言ってもいい関係なんだ。


 俺とエレノアだって、お互いに気になったところは言う。


 デモットとそういう関係を築けるように頑張れ。そして、我慢だけが全てじゃない。


 俺は小さな恋する乙女にちょっとしたアドバイスを送ると、ナレちゃんも可愛いところがあるんだなと思いながらなんやかんやプレゼントを気に入ってくれているデモットを思い浮かべで笑うのであった。






 後書き。

 ごめん、章が終わってたのに何も書いてなかった。一話前の時点で一区切りであり、ここから新章です。

 この章では、西の大地に行きます。デモットを育てたお爺さん。見つかるかな?

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