弟子と相棒と買い物と
デモットが冒険者になる日も近い。
が、多分その前に魔界に戻るな。そろそろレベリングに戻りたいし、デモットのおじいさんを見つける旅に出たい。
デモットも冒険者となるのはいつでもいいらしく、まずは魔界のことを終わらせてからという話になった。
まだ公爵級悪魔とか大公級悪魔とかともやり合うつもりだから、だいぶ後になるだろう。
そう思いながら、俺達はようやく静かになってきた街を歩いていた。
今日は買い物をするつもりだ。
デモットに人間の街をよく見せてやりたいのはもちろん、お袋と親父に何かお土産のひとつでも買って帰るためである。
未だにネックレスを大事にしているのだ。古びたネックレス意外にも、形として残るものを渡してやりたい。
「........これなんの意味があるんですか?」
「俺もわからん。ナニコレ」
「私も分からないわ。なんなのよコレ」
という訳で、3人で買い物へと繰り出した訳なのだが、適当に入った魔道具店でデモットとともに首を傾げる事となっていた。
その原因となった魔道具。それは、魔力を入れるとなんか回るだけの玩具である。
ただの子供用の玩具なら首を傾げることは無いだろう。
しかし、子供の玩具に金貨20枚を払うバカはこの世界に存在しない。
金持ちの貴族だってもっと有意義な金の使い方をするよ。誰が買うんだこんなバカみたいな玩具。
「魔力を込めることで動力を生み出すと言うのは理解できますが、その生み出した動力が生活の役にも立たないとなれば意味が無いのでは?」
「俺も思う。玩具にしては高すぎるし、一体これを作ったやつは何を思って作ったんだ?」
「趣味で作って売れたらいいなと思いながら出したのかしらね........意味がわからないわ」
理解に苦しむ作品。
しかしこういう無駄な事が、やがて世界を大きく変えることもある。
ほら、この魔道具から着想を得て、車のようなものが出来るかもしれない。
そう考えれば、ゴミと罵ることは出来ないだろう。
まぁ、これ自体にそんな価値があるとは思えないが。
「こんな変なものが作れると言うことは、人はそれだけ余裕のある生活をしているということですよね。だって先に作るべきは生活を豊かにするものですし」
「魔界の悪魔達が魔術を学ぶ理由と同じだな。生活を豊かにしたいから、先に意味のあるものを覚える。そして、その後に趣味で色々と研究をする。間違っては無い」
面白い観点で人類の考察を始めるデモット。
なるほど、そんな視点で人類を見た事は無かった。
そんな考え方もあるんだな。
俺はデモットの着眼点に感心しつつ、両親へのプレゼントを選ぶ。
そしてプレゼントを選んでいる途中に気がついた。
あれ、もしかしてこれ3人分買わないとダメなのでは?
「なぁエレノア。両親だけにプレゼントを渡して、師匠にプレゼントを買わなかったらどうなる?」
「あっ........買うものが増えたわね。完全に失念してたわ。師匠のことだから、泣くわよ。冗談抜きに」
「師匠、俺達が絡むと子供っぽくなるからなぁ........」
両親へのプレゼントを買う。それはつまり、師匠にもプレゼントを買わなくてはならない。
だって絶対に拗ねるから。
あの人、拗ねると面倒なのだ。弟子が好きすぎるがあまり、若干メンヘラみたいなところがある。
でも、そんな師匠が俺達も好きである。尊敬は........まぁ、していると言えばしているし、両親の護衛と言うお願いをしているのでそんな師匠を労うためにも何か買ってやるとしよう。
護衛のお願いを忘れて、今じゃすっかりお袋に甘える娘のようになっている気もするが。
「何がいいかね?」
「どうせなら全員お揃いのものでもいいんじゃないかしら?となるとアクセサリーね」
「師匠にアクセサリーが必要か........?絶対色々な物を持ってるだろ」
「こういうのは物ではなくて、誰から送られたかが重要よ。ジークも同じものを貰っても貰う人によって反応は違うでしょう?」
それもそうか。俺もエレノアやデモットから貰ったものは嬉しいが、そこら辺の知らんやつに貰ったものとか愛着なんて湧かないしな。
このネックレスは絶対に無くしてはならないものである。
エレノアから貰った唯一の物なのだ。
ちなみに、ガチガチに魔術をかけてあるので、普通なら触れることすら出来なかったりする。
あれ?俺も師匠のことを笑えないのでは?
「魔道具よりもアクセサリーの方がいいか」
「そうね。そっちの方が無難だし、何よりお揃いのもので揃えられるわ。私達も同じものを付ける?デモットも一緒に」
「いいね。そうなるとウルの分も買うか。仲間はずれは寂しいし、世話にもなってるしな」
こうして、俺達は魔道具ではなく無難なアクセサリーを買うことになるのであった。
ネックレスは既にあるから、今度はブレスレットとかにしてみるか。
宝石とか着いているやつは人の目を引きすぎる上に、邪な考えを持つやつが多いからちょっと安めだけどしっかりとしたやつを。
【アトラリオン級冒険者】
ジークとエレノアの為に作られたような階級。冒険者ギルドのトップであり、人類の切り札。
なお、その試験内容があまりにも難しすぎるため、現在この階級に上がれるのは師匠ぐらい(人類大陸において)。
試験内容は、竜のダンジョンでブラックドラゴンの討伐。ジークとエレノアを基準にしているため、難易度がバグってる。
その日もシャルルとデッセンが営む店は繁盛していた。
ジークが多くの人と繋がりを持ってくれたおかげで、今は冒険者以外の人々もこの店にやってくる。
「あら、シャルルさん、そのブレスレットは?」
「ふふっ、ジークとエレノアちゃんのプレゼントです。昔ネックレスを貰ったんですが、それとは別にね」
ジークとそれなりに仲の良かったおばちゃんが、シャルルの右腕に着いていたブレスレットに気が付き声をかける。
シャルルは心の底から幸せそうな顔をしながら、そのブレスレットを優しく撫でた。
「あの子はあっちこっちに飛び回るから中々会えないけど、こうしてものを残してくれるだけ嬉しいんです。これがある限り、私達の息子は生きているって実感できるんですよ」
「あらあら。随分とジークくんの事を思っているのね」
「もちろんですよ。私はあの子の母親ですから。本人の前では母として少し厳しくも振る舞いますが、私達の可愛い可愛い息子なんですよ?本当は抱きつきて甘やかしたいぐらいですよ」
「この歳でも息子が可愛いだなんて羨ましいわ。私の息子はてんでダメよ。今じゃ綺麗な嫁さんを捕まえてマシになったけど、反抗期の時は大変だったわ」
「そういえば、ジークは反抗期らしい反抗期はなかったですね。まぁ、その代わり魔術の実験をして庭を破壊していましたが」
「........それはそれで考えものね」
人の会話は次から次へと移り変わる。ブレスレットの話はやがて息子の成長の話へと変わり、子育ての大変さの話になって行った。
「フハハ。シャルル殿も素直じゃないな。ジークが居ない時はあんなに嬉しそうにしていると言うのに」
「親だからな。甘やかしすぎちゃダメなんだよ」
「フハハ。私は師という立場だから、いくらでも甘やかせれるぞ?とは言っても、甘えてくるような子でもないがな」
「昔はこの髭を頬に擦り付けたもんさ。今じゃ、息子の背中を追うので精一杯だよ」
「そう言うな。アレは人の基準で見てはならんよ」
こうして、ジークたちが魔界へと帰ったあとの店では、しばらくの間ブレスレットの自慢話を聞くことになったと言う。
ちなみに、そのブレスレットはノアの魔術によってガチガチに補強され、盗むどころか悪意を持って触れた瞬間相手の精神を破壊するレベルの防御魔術が掛けられていたのは言うまでもない。
後書き。
新作を投稿しました。タイトルは『7665回死んでから始まる魔王道』です。
よかったら読んでね‼︎
ちなみに、新作の期間が短いのは、偶然他の連載が近い時期に終わったから。ちゃんと完結させてから新作書いてるから許して。
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