エレノア、強い(レスバ)
その日、冒険者ギルドに新たな歴史が刻まれた。
その日まで最高位であったオリハルコン級冒険者は上から二番目の冒険者となり、頂点に君臨する新たな階級が設けられる。
その名も、アトラリオン級冒険者。
現実には存在しない特別な鉱石の名前から取られ、その初代冒険者となった俺とエレノアは、人類最強の称号を手にしたのである。
星々が降る空から地に降臨し、邪神をうち滅ぼしたとされる剣の素材。
この階級はきっと人類の未来を守ってくれる。
そんな期待を込めて付けられた名前は、大陸中に知らされた。
今頃、全ての冒険者ギルドで話題になっていることだろう。
この数千年近く変わることのなかった冒険者の階級を変えてしまった規格外。“天魔”と“炎魔”の名前と共に。
もちろん冒険者ギルドの本部であるこの場所も大騒ぎ。
街に顔を出すとあっという間に囲まれてアレコレ聞かれるので、俺とエレノアはほとぼりが冷めるまでの数日間、オリハルコン級冒険者達と交流を深めていた。
次いでに、魔界についての報告もしておく。
「........で、その弟子が悪魔だと?お前、本当に滅茶苦茶だな」
「魔界の情報を持ち帰っただけじゃなくて、人類と悪魔の友好的な関係を築く手本を見せた功労者に対して酷い言われようだ。涙が出そうだよ」
「泣いてもないくせによく言うわ。つーか、ジークの話を聞いている限り、悪魔と敵対しているようにしか聞こえないんだが?」
「失礼な。俺と低期待する奴らを全員殺したら、残るのは友好的な奴らだけだろ?」
「何を言ってるんだお前は。おい、エレノア。お前からもなんか言ってやれよ」
「悪魔ってレベル上げにかなり適した存在なのよね。ジークがこうなるのも仕方がないわ」
「........お前もか」
魔界でのアレコレを話してやったと言うのに、頭を抱えるグランドマスター。
未だに未解明な部分が多い魔界の情報を持ち帰ってきた上に、その悪魔すらも連れてきたことに対して報奨金が出てもおかしくは無いと言うのに。
酷い扱いだな。
「それで........えーと、デモットだったか?君は悪魔らしいな」
「はい。ジークさんの魔術で角と尻尾を隠していますが、れっきとした悪魔です」
「こうして見るとただの人に見えなくもない。悪魔が自分の角と尻尾を隠す術を覚えたら見分けがつかんぞ........」
「その点は心配ないかと思います。悪魔の多くは自己主張が激しいので。俺のようにすんなりと隠すことを受け入れる悪魔は大抵変わり者です」
「なるほど........まぁ。とりあえずこの二人の弟子であるという事は、下手な騒ぎを起こすことは無いだろう。不本意だが、誠に不本意だが、コイツらはオリハルコン級冒険者の中では常識的な範疇に収まっているからな。魔物が絡まなければ」
なんとも失礼な物言いだ。俺をなんだと思ってんだよコノヤロー。
魔物を討伐して周囲の安全を確保し、そして人々の助けをしているオリハルコン級冒険者は貴重だぞ?
少なくとも市民に迷惑をかけた覚えはないっての。
「それにしても魔界か。実在すること自体は知っていたが、本当にそこへ行くやつが現れるとは思わなかった。悪魔と言えば、人間の魂を貪り食う邪神の使いって話なんだけどな」
「ウチのデモットがそんな奴に見えるか?ほら、見てみろよ。可愛い以外の何物でもないだろうが!!」
悪魔を悪く言うそれ即ち、デモットへの悪口。
グランドマスターはデモットの可愛さを知らない。俺はデモットの頭をナデナデしてやると、デモットの可愛さを見せつける。
見ろよ!!このちょっと困惑しながらも、嬉しそうな顔を!!
男の子の癖してちゃんと照れているウチの弟子は可愛いだろうが!!
「お、おう。そうだな可愛いな........」
「だろ?悪魔の中には数百年片思いを続けるような健気な乙女もいるんだ。意外と人間と変わらんよ」
「そうね。あまり人間と変わらないかもしれないわね。もちろん、価値観や文化は大きく異なるけど、邪神の使徒というよいな事はないと思うわ。後、経験値にしても怒られないのはいいわね。殺しやすくて助かるのよ」
「おい、弟子が悪魔なのにいいのか?」
「悪魔は基本“死んだやつが悪い”って考え方なんだよ。弱いやつが淘汰される世界。弱肉強食が人類よりもより顕著なんだ」
「そうですね。弱いやつが悪いと言うのは間違ってませんよ。ただ、強さにも色々とあるとは思いますが」
悪魔が殺しやすくて助かるとか言っても、デモットからすれば今更だしな。
デモットは確かに悪魔の中では変わり者だが、それはあくまでも悪魔の中での話。
人間の価値観と結構離れている部分も多いのだ。
特に、強い弱いに関しては。
暴力以外の強さがあると知ったが、殺されるのが悪いという考えは変わらない。
殺すことが悪であるとあまり感じていないようで、同胞が死んでも“あぁ死んだな”程度にしか思わない。
まぁ、言うて人間も似たようなものか。俺も家族や街の誰かが死ねば悲しいが、知らない赤の他人が死んでも悲しくはならんしな。
同情はするかもしれんが。
結局、人間も悪魔と同じく自分と関係の無い相手には冷たい存在なのである。
「でさ、グランドマスター。デモットを冒険者にしてやれないかな?まだ先の話になると思うんだけど、デモットに人類の社会や世界を勉強させてあげたいんだ」
「きっとデモットにはいい経験になると思うのよ。お願いするわ」
「........は?」
デモットを冒険者にしてくれと言う俺とエレノアに、目を丸くするグランドマスター。
当たり前だ。悪魔が冒険者になるなんて前例は無いし、聞いたこともない。
しかも、相手は人類の敵とも言われる悪魔だ。
グランドマスターが二つ返事をしようものなら、その立場すら危ぶまれる可能性だってある。
「誰を何にしてくれって?」
「デモットを冒険者にしてくれ」
「いや、いやいやいや。お前も分かってるだろジーク。確かにデモットは俺が見てもさほど危険がないように見えるが、種族が問題だ。悪魔だぞ?俺はどんな種族にも良い奴と悪いやつがいると思っているが、皆が皆同じ考えじゃない。悪魔は邪教徒としてこの世界から排除すべきと考える輩だって沢山いる」
「それ、どの種族にも言える話では?エルフだって人によっては人間を滅ぼすべきだと考えるやつはいるわよ。それも、かなりの数。冒険者ギルドは種族で人を判断するのかしら?」
「うぐっ........」
ド正論を言われ、言葉を詰まらせるグランドマスター。
エレノアの言う通り、人間だろうがドワーフだろうがエルフだろうが、特定の種族を下に見て滅ぼすべきだと考えるやつはいる。
それを理由にデモットを冒険者にしてはならないと言うのは、ちょっと理不尽だな。
エレノア、レスバが強い。
「冒険者ギルドは差別主義者なのかしら?」
「........だが、悪魔を冒険者にするというのは色々と問題が発生しかねない。特に、悪魔のイメージその物があまり宜しくないんだ」
「そのイメージ払拭役をデモットがすればいいのよ。私達の愛弟子は、そこら辺はわきまえているわよ。何せ、私達と出会って生き残ったどころか、今じゃ可愛い弟子になってるんだからね」
「ぜ、前例が........」
「何事にも前例は無いものよ。それに、デモットが活躍して人々が悪魔に興味を持てば、魔界への進出だって夢じゃないわ。そうすれば冒険者ギルドの一人勝ちよ?魔界の素材や資源を冒険者ギルドだけが扱うなんてかとも出来るかもしれないわ」
デメリットに対してメリットの提示。しかも、かなり魅力的なメリットだろう。
確約はしてないが。
エレノア、強すぎか?
俺との時は手加減してくれていたかもしれん。
こうして、エレノアに論破されたグランドマスターは“ちょちょっと考えるから待ってくれ”と最後の切り札を使い、エレノアの完勝で終わるのであった。
近いうちにデモットも冒険者になれる準備が整うだろうな。
後書き。
明日新作を投稿するつもりです。お楽しみに‼︎
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