新たなる階級


 オリハルコン級冒険者達の交流会を終えた翌日。


 俺達はグランドマスターに呼び出され、会議に参加する事となった。


 会議の内容は、もちろん新たなる階級の話である。


 オリハルコン級冒険者が現時点での最高位冒険者としての称号であったが、俺とエレノアがその基準をぶっ壊してしまったのだ。


 あまりにも強すぎるから。


 俺達と出会った人達が“これがオリハルコン級冒険者かー”と勘違いされると、ほかのオリハルコン級冒険者達も困ると言う事で、隔離が必要なのである。


 俺達と同じ戦闘力、同じ働きを期待されても困ると。


「........まぁ、言いたいことは色々とあるが、取り敢えず全員集まってくれたことは感謝しよう。訓練場をぶっ飛ばたり?街中で喧嘩を始めたり?急に消えて数日連絡が取れなくなったり?色々とあったが、お前達に言うだけ無駄だしなぁ?」


 これだけの問題児が一気に集まったのだ。グランドマスター胃もさぞかし痛い事だろう。


 明らかに俺達に向けて恨み言を言っているが、あいにくこの程度の言葉で反省する連中ではない。


 全員、グランドマスターの話を聞いているようで聞いてなかった。


「で?まずは何をやるんだ?強いヤツと戦えばいいのか?」

「お前は黙ってろウルヴァルス。お前が一番俺の胃に負担をかけていると知れ」


 グランドマスターは空気の読めないウルヴァルスに頭を抱えながら、“ゴホン”と、咳払いをすると本題に入る。


「オリハルコン級冒険者“天魔”並びに、オリハルコン級冒険者“炎魔”は他のオリハルコン級冒険者達とは一線を画す程に強い。よって、新たな階級を設けたいと思う。反対があるものは居るか?」

「私は無いわよん。事実だし」

「ホッホッホ。儂も異論は無い。サッサと隔離してしまえ」

「私も無いぞー。だって2人とも強すぎるし」

「俺も無いな!!昨日戦って分かった!!こいつら強すぎるぜ!!」

「無い。力の差は歴然」


 俺とエレノア以外のオリハルコン級冒険者が全員賛同する。


 俺とエレノアは当事者だったので、何も言わない事にした。


「よろしい。新たな階級を決めるにあたって既にその名前は決まっている。この階級は本当に特例中の特例に授ける階級にしようと思っていてな。オリハルコン級冒険者格を落とさず、それでいて人類最後の切り札としての意味を持たせたい。何かこう、基準を作りたいんだ。そこで、お前らに聞きたい。何を基準にしたらいい?」


 新たな階級。オリハルコン級冒険者よりも上の階級が作れらるにあたって、既存のオリハルコン級冒険者の格が落ちてしまっては意味が無い。


 彼らの格を落とさず、それでいて人類の切り札となり得るような基準が必要だと考えているグランドマスターは、みんなに意見を求めていた。


 なるほど。そのために俺達は呼ばれたわけか。


 まぁ、俺もエレノアも当事者なので、何も言えないのだが。


「現在のオリハルコン級冒険者全員の認可を受けるってのはどうかしらん?」

「それもいいとは思ったが、買収されたり、仲が悪くて認めたくないってやつが必ずどこかで現れる。それは困るな」

「む、そうなの?」

「ホッホッホ。ならば、その時に存在するオリハルコン級冒険者を全員相手にしても圧勝できるだけの強さがあるというのはどうじゃ?それなら認める認めないの話ではない。殴れば解決じゃ」

「いいな!!分かりやすい!!」

「純粋に破滅級、もしくは絶望級魔物の討伐ではダメか?」

「破滅級はともかく、絶望級の討伐は悪くないかもな。だが、そんな絶望級魔物がポンポン出てくるような世界なら今頃人類は滅んでいるぞ」


 あーだこーだと議論が始まる。


 俺としては剣聖の提案がいちばん丸いと思うが、どうなんだろうか?


 後、絶望級魔物なら竜のダンジョンに行けば出会えるぞ。もちろん、最下層まで潜る必要があるけども。


「んー、オリハルコン級冒険者の基準が、最上級魔物を単独で討伐なんだから、破滅級魔物の単独討伐でもいい気がするけどなー。ダンジョンなら出てくるだろう?その魔物の素材を持ち帰るとかでいい気がするんだが」

「不正が........あぁ、いや、その後でオリハルコン級冒険者と手合わせさせれば強さがわかるな。だが、人類の希望でなくてはならないのだから、破滅級でなくて絶望級魔物の単独討伐にさせるか?........そう言えば、絶望級魔物が出てくるおあつらえ向きのダンジョンがあったよな?ジーク、お前ブラックドラゴンの素材をどこで手に入れたっけ?」

「竜のダンジョンだね。三大ダンジョンの一つの」

「ホッホッホ。ならば、竜のダンジョンでブラックドラゴンの素材を持ち帰ってきたらで良いじゃろ。ジークやエレノアのような強さを基準とするならば足りんぐらいじゃが、それならば希望となるじゃろうて」


 え、もしかして本当に竜のダンジョンの攻略を条件にするの?


 あそこ、かなり難しいよ?環境に適応できるだけの魔術と力が無いとそもそも攻略できないし。


「んで、ブラックドラゴンの素材を回収出来たらオリハルコン級冒険者たちと手合わせさせればいいか。本当に持ち帰ってきたかどうかは、それでわかるしな」

「いいわねん。それなら簡単にはなれないはずよん。まさしく人類の切り札と言えるわん」

「ホッホッホ。異議なし」

「異議なしだぞー」

「ブラックドラゴン........!!くぅー!!戦ってみてぇ!!」

「異議なし」


 という訳で、新たな階級になれる条件は三大ダンジョン、竜のダンジョンの攻略に決定。


 しかも、ブラックドラゴンの素材を持ち帰った後、ちゃんと自力で持ち帰れたのかも確かめられるそうな。


 あれこれ、クリア出来るやついるのか?


 それと、フラルの街のギルドマスターの仕事が増えてしまう。


 しかし、既に決定みたいな雰囲気があるから何も言えない。


 ごめんギルドマスター。今度お詫びの品を持っていくから許して。


 普段はちょっと高圧的な態度だが、裏では色々と悩みながら頑張っているギャップ萌えギルドマスター。


 あの人可愛いんだよね。ギャップ萌を使いこなしている。


 見た目が某ヒーロー物っぽいって?そんなの行動次第でなんとでもなるんだよ!!ウチの可愛い子達はみんな魔術だぞ!!


「それではその条件にするか」

「で、グランドマスター。その名前は一体何なのよ」

「ホッホッホ。勿体ぶらずに早う言え」

「フッフッフ。ジークとエレノアの為だけに設立されたとも言える新たな冒険者の階級。人類の希望にして、絶対的切り札。時として悪魔を殺し、時として神をも殺す。実在はしないが、物語の中に出てくるとある邪神殺しの剣の元となった石の名前をつけた」


 あ、それ知ってるな。


 かなり有名なお話で、俺も昔お袋に読んでもらったことがある本だ。


 邪神、ケトゥヌスと呼ばれる神を殺した英雄の剣。


 ちなみに、ガチで創作物の話なので実在しないとされている。竜殺しの英雄ジークフリードの話とは違うのだ。


 そして、その剣の元となった石。


 遠き空から落ちてきたその石をその物語の中ではこう呼んでいた。


「アトラリオン。空から舞い落ちた人々を救った伝説の石。今までの鉱石が全て実在しているものだったんだ。規格外すぎて現実味のない奴らにはピッタリだと思わないか?」

「あら、グランドマスターにしてはまともねん。誰でも知っているようなお話だし、悪くないんじゃないかしらん?」

「ホッホッホ。儂でも知ってるのぉ。良いのではないか?」

「私も知ってるなー。アトラリオン級冒険者。特別感があっていいんじゃないか?」

「かっけぇな!!」

「悪くない」

「いいじゃん。ドラゴンズストーン級とかよりはマシだし」

「そんな名前だったら殴ってるわよ」


 こうして、この世界の冒険者ギルドの歴史が変わった。


 アトラリオン級冒険者という新たな階級が生まれ、オリハルコン級冒険者よりもひとつ上の存在が生まれたのだ。


 それは、人類の希望。この邪神をうち払った英雄の剣の素材にして、空から落ちてきた異物。


 ある意味、俺にはピッタリの名前と言えるだろう。




【アトラリオン鉱石】

 物語、『アーサスの英雄譚』に出てくる聖剣の素材となった鉱石。

 ちなみに完全な創作物であり、実在はしない。




 後書き。

 ヒヒイロカネなんじゃね?と言う予想が多かったのですが、私としてはオリハルコンが最上位の鉱石という印象。

 ジーク達は最早御伽噺の世界に生きてる面もあるから、完全創作物の鉱石の方がいいかなとも思ったり。

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