消える氷帝


 剣聖が他のオリハルコン級冒険者と一線を画すレベルの強者である事を改めてその肌身に感じながら、色々と昔話をしていた。


 かつて俺達が初めて討伐した魔王、オリハルコンゴーレムやその後の街の様子。


 どうやら俺達の防具と武器を作ってくれたドワーフの職人は、今も尚オリハルコンの精錬や形の替え方を模索しているらしい。


 オリハルコンはこの大陸において最も硬く丈夫な金属。伝説とまで言われるその鉱石を扱うのは、一朝一夕では身につかない。


 剣聖は“死ぬまでにはなんとかなるだろ”と言っていたので、もうしばらく装備更新は出来なさそうだ。


 そもそも、今も装備の意味はあまりないしな。俺は剣を使うには使うが、メインウェポンではないし。防具もそこまで恩恵があるかと言われれば無い。


 だって今だと魔力を纏ってた方が硬いし。肉体も最早人間のそれを超えているし。


 そう考えると、俺もエレノアも人類の枠組みを超えている。今更だが、鉄の剣とかを生身で受けでケロッとしていられるのってヤベーな?


 そんなことを話しながら、デモットとリエリーが仲良く話している姿を微笑ましく思っていると、ふらりと一人の亜人が目の前に現れた。


 リザードマンの亜人。気配がかなり薄く、気を抜くと見失ってしまいそうな存在。


 俺は彼女を知っている。


 いや、正確には彼女のことを聞いたことがある。


 リザードマンの英雄、亜人種の中で最強とまで言われながら、あっちへフラフラこっちへフラフラと移動する変わり者。


 俺達を除いて唯一魔王の討伐に成功したとされ、市民からは最強のオリハルコン級冒険者とまで言われているその人物は、やる気のなさそうな顔でこちらを見ていた。


「フロスト。何じゃ?酒を冷やしに来てくれたのか?」

「........お前は黙ってろジジィ。後輩を見に来ただけ」


 フロスト。


“氷帝”の二つ名を持つオリハルコン級冒険者。


 確か、彼女にしか扱えない魔剣を使い戦うとされていたはずである。


 強さは言わずもがな。しかし、世間で言われているような、オリハルコン級冒険者最強では無いのは確かである。


 だって剣聖の方が明らかに強いし。


 しかし、人類の中ではトップクラスに強いのは間違いない。


「初めまして“天魔”並びに“炎魔”........私はフロスト」

「天魔、ジークだ。よろしく」

「炎魔、エレノアよ。よろしくね」


 二足歩行のトカゲと言われるリザードマンの姿をした彼女は、軽い自己紹介をするとフラフラとどこかへ歩いていこうとする。


 しかし、その歩みは剣聖によって止められた。


「待てい。フロスト。貴様、勝手に出歩くなとあれほど言われておるだろうが」

「........ん?暇」

「儂らが相手してやるから、ここにおれ。お主が消えたら探すのは儂らなのじゃぞ」


 剣聖は心底嫌そうな顔でそう言うと、自分の隣の地面をぽんぽんと叩く。


 そして、彼女をそこに座らせた。


 オリハルコン級冒険者はある種の問題児たちの集まりだ。俺は別だが、基本みんな何かしらの欠点を抱えている。


 オカマだったり、アル中だったり、魔術バカだったり、喧嘩野郎だったり。


 そんな中、彼女は以外にも市民からは普通枠として扱われていたりする。


 俺が噂を聞いてきた時も、オリハルコン級冒険者の唯一の良心とまで言われていたのを覚えていた。


 が、しかし、彼女はオリハルコン級冒険者の中で最も厄介な問題児としてギルドからは扱われていたりする。


 確かに彼女は市民に迷惑をかけない。しかし、それはそもそも彼女は街にほぼ姿を表さないからに他ならない。


 冒険者ギルド及び、彼女を知っている冒険者は皆口を揃えて彼女をこう呼ぶのだ。


“消える氷帝”と。


「私をほっとけばいい」

「巫山戯るでないわ。一度貴様を見失えば、再び見つけるのに何年かかるか分かったものでは無い。こうして人前に現れたのは何年ぶりだ?」

「........3年ぶりかな?あっちこっち歩いてたし」


 静かで落ち着く声のフロスト。


 彼女が問題児扱いされる理由は、その居場所の把握が難しすぎる事にある。


 方向音痴なのか知らないが、彼女はよく消えるらしい。


 冒険者ギルドですら居場所を把握できないほどにあっちこっちに移動しては、ギルドにも顔を出さないのだ。


 お陰で彼女には仕事が頼めない。グランドマスターが昔、嘆いていたのを俺は知っている。


 俺達もよくあっちこっちに移動するが、拠点となる場所では必ずギルドに顔を出す。


 今は魔界に行ってるから仕方が無いが、どうやって人類大陸の中で人々の視線から逃げられるんだよ。


 まぁ、そんなわけで、彼女はグランドマスターからするととても困る人材なのだ。


 居場所が掴めず、仕事の以来もできないから。


 そう考えると、固定の場所を持つマリーと剣聖はまだ扱いやすい部類だよな。リエリーは割とあちこち巡っているらしが、それでも居場所の把握はしやすいだろうし。


 俺とエレノア?


 俺らの場合は転移があるから、ちょっと把握しにくいかもね。昨日まだ北の大陸にいたのに、翌日には南の大陸にいたとか普通にあるし。


「これで全員揃ったわね。オリハルコン級冒険者達が全員」

「確かに。ウルヴァルスとフロストには会ってなかったもんな」

「ホッホッホ。新入りであるジーク達も混じえて全員集まるのは初めてかの。グランドマスターは今頃“面倒事を起こしてくれるな”と願っておるだろうな」

「グランドマスター大変そう」


 主に俺たちのせいでね。


 俺はそんなに迷惑をかけた覚えは無いが。


 それにしても、これでオリハルコン級冒険者全員と出会ったことになるのか。


 噂に聞くよりはマシだが、それでもヤベー奴らばっかりだな。リエリーに至っては噂通りだったし。


 こうして見ると、あまりにもみんなキャラが濃い。


 俺もなんかキャラ付けした方がいいのかね?


「ガハハ!!見つけた!!フロスト、俺と勝負しようぜ!!」

「断る。犬は犬らしくそこら辺で吠えてろ」

「ちょっとウルヴァルスちゃん?ついさっき怒られたばかりよねん?絞め殺すわよん」

「お?マリーがやってくれるのか?いいぜ勝負だ!!」

「はぁ........話が通じない........」


 フロストと親交を深めていると、ウルヴァルスまでやってくる。


 下手に面倒事を起こさないようにする為か、マリーまで添えて。


 これで、全員集合だ。


“剣聖”“武神”“炎の魔女”“氷帝”“獣神”“天魔”“炎魔”。


 この7人が今のオリハルコン級冒険者であり、人類の最高峰なのである。


 そしてその中にしれっと混ざりながらリエリーと楽しそうに話すデモット。


 お前も近いうちにオリハルコン級冒険者になるんやで。少なくとも人間社会で生きたいなら、冒険者としての資格は持っておくべきだ。


「ホッホッホ。全員揃ったようじゃの」

「オリハルコン級冒険者がこうして集まるのは何年ぶりかしらねん。下手したら十数年とかそんなレベルよん」

「あぁ。全員と戦いてぇ........!!」

「賑やか。うるさい」

「んで、ここがこうなるのか!!なるほどー頭いいなデモット!!」

「ジークさん達の弟子ですからね。このぐらいは当然ですよ」

「リエリー達は気づいてないな。そして気が合いすぎだ」

「ふふっデモットも楽しそうね」


 一気に騒がしくなる訓練場。


 ちなみに、当たり前だか俺たち以外にも訓練所を使う冒険者はいる。


 そして、彼らは全員俺たちに視線を向けていた。


 そりゃ、オリハルコン級冒険者が勢揃いしているのだ。見るなという方が無理だろう。


「で?なんでみんな集まってんの?」

「む?聞いてないのか?お主らの新たな階級を決める会議じゃよ」

「........あーそんなこと言ってたな」


 そういえばそんなこと言われてたわ。すっかり忘れてた。





 後書き。

 全員集合。ようやく出揃ったぜ。

 ちなみに、グランドマスターからしたら、獣神が最悪でその次がリエリー、そして剣聖、氷帝、ジーク&エレノア、マリーの順で問題児。

 まぁ、全員問題児な事に変わりはないんですけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る