相変わらずの者達


 この世の終わりみたいな顔をしたグランドマスター。


 今日はもう疲れたから帰れと言われ、俺達はギルドに用意されているオリハルコン級冒険者専用の宿に泊まることとなった。


 まぁ、1週間ぐらい帰らないかもとは言ってあったから問題ない。


 今更家に帰ってこなくても心配されるような年齢でもないしな。


 こうして、冒険者ギルド本部に来た訳だが、とりあえずデモットを楽しませてやろうという事でこの街の観光をしてやる事にした。


 デモットは好奇心旺盛な子である。


 こんなにも栄えた街を見たら、そりゃ居てもたってもいられないだろう。


 それでも我慢して、俺と手を繋いでたからね。偉いぞデモット。やっぱりお前は出来る子だ。


 そんな訳で、街を見て回ろうと思った廊下を歩いていると、聞きなれた爆音が響き渡る。


 ドゴォォォォォォン!!


 ........あぁ。今日も元気そうだね。


 この音一つで、誰がいるのか分かってしまう。


 俺とエレノアは顔を見合わせると、クスリと笑った。


「相変わらずだな」

「えぇそうね。相変わらず元気そうでなによりだわ」

「なんの音ですか?凄まじい爆音でしたが........」

「行ってみるか?今後この大陸で活動したいなら、出会っておいて損は無いしな。特にエルフ関係では」


 デモットが“是非”と言うので、音がしたであろう場所に向かっていく。


 どこにいるのかなんて既に分かっている。どうせギルドの訓練場だ。


「む?おぉ!!ジークにエレノアお姉ちゃんじゃないか!!久しぶりだな!!」

「久しぶりだねリエリー。相変わらず派手な音を出してるな。グランドマスターに怒られないようにするんだぞ?」

「久しぶりねリエリー。また失敗したのかしら?」


 俺達と同じオリハルコン級冒険者にして、“炎の魔女”と言う二つ名を持つロリっ子エルフ。


 精霊に愛され、精霊を良き隣人として従える、エルフの英雄リエリー。


 飽きもせず訓練場を爆破していた彼女は、俺達の気配を感じ取ると嬉しそうな笑顔を浮かべながら両手を上げてぴょんぴょんと跳ねていた。


 こうして見れば、ただの可愛い子供なんだけどなぁ。魔術実験を場所も考えずにやり始めるような子だから、オリハルコン級冒険者の中でも屈指の問題児となってしまっている。


 素直で言うことはちゃんと聞いてくれるからいいが、ひねくれた性格だったらやばそうだな。


「二人もここに来てたのか!!魔界に行ったという話は聞いていたが、どうやら本当のようだな!!」

「ん?どういうことだ?」

「だって、そこの彼、悪魔だろう?魔術でなにか隠蔽しているらしいが、精霊の目までは誤魔化せないし、何より風の精霊が今教えてくれたからな!!」


 そうか。リエリーは精霊と会話できるから、精霊の力を使って俺がかけた幻術すらも見破れるのか。


 精霊は、俺達とは違う次元の世界に住んでいるとされているある種の神秘生命。


 簡単な幻術程度は楽に見破られてしまうと考えると、かなり侮れない存在だな。


 まぁ、敵対する気なんてないが。


 精々精霊王と手合わせ願いたいぐらいだ。精霊の中でも最強と謳われるかの王に勝てれば、俺は精霊よりも強いことが証明されるのだから。


「リエリー、まだグランドマスターにも言ってないから、出来れば黙っててもらえるか?」

「もちろんだ。私もそこまで空気が読めない訳じゃないさ。初めまして、魔界の住人。私はリエリーだ。“炎の魔女”なんて言われているが、エレノアお姉ちゃんの方が圧倒的に炎の扱いが上手いから、名前負けしているぞ!!」

「あ、えーと、ジークさんとエレノアさんの弟子、デモットです。初めまして。よろしくお願いします」


 自分を悪魔と知った上で、まるで気にせず挨拶をするリエリーに少し驚きつつもデモットとリエリーは握手をする。


 そして俺は忘れていた。


 研究者同士を引き合わせたら何が始まるのかを。


 そう。研究者達は、気になることを話しまくるのだ。


「悪魔についてはよく知らないのだが、悪魔には悪魔なりの魔術が存在するのか?」

「一応、権能と呼ばれるものがありますが、魔術のように自由度が高い訳ではありません。それに、魔力そのものに属性を付与しているので、対応している属性以外の魔術は使えないんですよ」

「ほう!!権能か!!それはまた初めて聞いた力だな!!魔術に使えるかもしれん!!詳しく聞かせてくれ!!」


 あぁ、始まってしまったよ。


 魔術バカ達の話し合いが。


 これは長くなるぞー。


「今日の観光は無理そうね。この調子じゃ日が暮れても話してるわよ」

「デモットが楽しそうだからいいけど、観光は諦めるか。俺達はどうする?」

「ふふっ、デモットが楽しそうなんだから私たちはそれを見守っていましょう。これも師としても役目よ。私達が魔術について話している時、師匠は見守っていたでしょう?」

「それもそうだな」


 デモットが楽しそうだから、それでいいか。


 流石に悪魔であるデモットをこの場に放置はできないし、しばらくはデモットとリエリーの話を聞くとしよう。


 そんなことを思いながら耳を傾けていると、ふらりと左の老人がやってくる。


 まだ朝方だと言うのに、頬を赤く染めたその老人は俺達が知っている人物であった。


「む?朝からうるさいと思えば、懐かしい顔ではないか」

「やぁ。剣聖。こんな時間から酒か?体を壊すぞ」

「あら、久しぶりね」


 酒飲みのジジィにして、酒の為ならば喧嘩する問題児。それでいながら剣の頂きに立つドワーフの英雄剣聖。


 リエリーの爆音に釣られたのか、彼がふらりと現れた。


 それで彼は、俺達を一目見てあることに気がつく。


「........ほう?どうやら自らの道を見つけたようじゃな。その若さでできるとは、大したもんじゃ」

「悟りの事か?」

「ホッホッホ。そうだの。自らの道を見つけ、世界の真理を悟る。言うだけならば簡単だが、実際に行うとなればあまりにも難しい。どうやら魔界で自分たちを見つめ直す機会があったと見える」


 酔っ払ったジジィのくせして、とんでもない洞察力だ。


 俺達が悟りを得て新たな力を手にしたことを素早く見抜くとは。


 流石はオリハルコン級冒険者の最年長。長年生きてきた経験による目は、今も尚健在らしい。


「して、あのリエリーと楽しそうに話しておるのは誰じゃ?雰囲気的に悪魔と同じ感じがするのだが........」

「悪魔だよ。そして、俺達の弟子さ。間違っても攻撃するなよ。そんな事をした日には、オリハルコン級冒険者の席が一つ空くからな」

「私達の愛弟子よ。その剣を抜いたら殺すから覚悟しておきなさい」


 剣に手をかけた剣聖を牽制する俺とエレノア。


 神速の一撃と、俺達の魔術。どちらが早いか試してみるか?


「ホッホッホ!!冗談じゃろうて。儂も悪魔は見たが、あれはほかとは違う雰囲気を纏っておる。なんというべきか........そうじゃな。力だけが全てでは無いと言った感じか?それに、あのリエリーが純粋に話しているのを見るに、悪い奴ではないのは明白。だからその殺気を収めい。老人にはちとキツイわい」

「冗談でもそんなことはしない方がいいよ剣聖。俺もエレノアも、初めての弟子でかなり浮かれてるんだからね」

「えぇ。あまり冗談が過ぎると、その首を間違えてへし折ってしまうわ」

「おぉ、怖い怖い。昔ならいざ知らず、今ならば儂の方が圧倒的に弱いからの。このような冗談は辞めるとしよう」


 それにしても鋭すぎるな。


 デモットが単純な暴力だけが力では無いと考えていることを見抜きやがった。


 他のオリハルコン級冒険者ももちろん強いが、この爺さんだけは一線を画すレベルで強い。


 その片鱗を俺とエレノアは見たのであった。


 でも、俺達の方が強いけどね!!(謎の対抗意識)

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