グランドマスターは疲れてる
強い奴に喧嘩を売りに行くヤベー奴“獣神”ウルヴァルスを躾け、マリーと再会した俺達はそのまま冒険者ギルド本部へと足を運んだ。
もちろん、デモットの紹介もしてあげた。
どや。ウチの可愛い可愛い愛弟子は。可愛いやろ?
マリーはデモットの強さを一目で見抜くと、かなり友好的な態度でデモットと握手を交わす。
尚、デモットはタイプではなかったのか、マリーにロックオンされることは無かった。
マリーの好みはムキムキマッチョのイケメンだからね。しょうが無いね。
デモットは普通にイケメンだし、何より真面目で性格もいい。それでいながら優しさもあり、社会性もあって強いから悪魔達からとても人気が高いのだが、マリーは強さとかは求めてないからな。
多少荒くれ者でも、見た目が好みならそっちを優先するし。
そんな訳で、デモットはマリーの魔の手から逃れたのである。もし狙うような真似をしてたら、俺とエレノアが黙って無かっただろうが。
「それにしても、随分と雰囲気が変わったわね。見た目は変わってないのに、とても........なんと言うか、上位の存在を前にしている気分だわ」
「それは間違ってないよマリー。俺は事実、上位種族になったからね」
「........?というと?」
「エルフの上位種族にハイエルフがいるでしょ?それと同じで、人間にも上位種族が存在していたって事だよ。今の俺は、正確には人間じゃない。人間という種族の一つ上の存在に至ったってことさ」
「なるほど。確か、エルフ種はその上位種族を本能的に見分けられると言うし、それと同じって事ねん。また少し見ない間に凄まじく強くなったわね。私が100人いたとしても、今のジークちゃん達には勝てそうにもないわ」
マリーはこんな見た目だが、純粋な人間である。
もちろん、俺の変化にも気が付くし、強いから自分との実力差がどれほど開いているのかもある程度は把握できるのだ。
武神と呼ばれているだけはある。
これで見た目もマトモなら、本当にオリハルコン級冒険者の中でも屈指の常識人なのに........どうしてオリハルコン級冒険者はこう、一つ二つ欠陥があるんだ?
俺を見習って欲しいものだ。
しばらく歩いていると、グランドマスターのいる部屋に辿り着く。
“魔界に行ってくるわ!!”と言ってから何も報告せずにフラフラとしていたが、果たしてグランドマスターは怒っていたりするのだろうか?
「だから大人しくしてろっつってんだろ!!毎回苦情を入れられるこっちの身にもなれや!!」
「ガハハ!!そう硬いことを言うなよグランドマスター。それに、ちゃんと被害が出ないようにやってるっての。怪我人も出てないだろ?」
「そういう問題じゃねぇんだよ!!この戦闘狂が!!やるにしてもギルドの訓練場でやれ!!」
........うん。怒ってるな。俺にじゃなくてウルヴァルスに。
そういえば、つい先程ウルヴァルスがグランドマスターの所に行かされたのを忘れてた。
そりゃ怒るよ。街中でオリハルコン級冒険者が喧嘩を始めたら。
グランドマスターも大変だな。そう思いながら、マリーが部屋に入るので俺も後に続く。
そこには、予想通りのキレた顔をしたグランドマスターがいた。
「あら、随分とご立腹ね。グランドマスター、そんなに怒ると血管がキレるわよ」
「もう十分に切れてらァ!!こちとら毎日あの馬鹿どもの面倒を見てんだぞ?!ここは孤児院か?孤児院なのか?!いい歳こいた奴らをどうして俺が面倒見なきゃらなんのだ!!」
「あら、喜びなさい園長。子供が増えたわよ」
「誰が問題児だ。少なくとも俺は苦情が入るような騒ぎを起こした記憶はないぞ」
「私も無いわね」
顔を真っ赤にしながら、頭を掻きむしるグランドマスター。
しかし、俺達の顔を見て一瞬表情が固まると今度は全てを諦めたかのような顔に変わる。
人間ってここまで器用に表情を変えられるんだな。そう思うぐらいには、表情の移り変わりが早かった。
「終わった........全員揃っちまった........もうこの世の終わりだ........」
「おい、マリー。グランドマスターをぶん殴ってもいいか?俺があそこの戦闘狂と同列に並べられてんのは酷く遺憾なんだが?」
「言っておくけど貴方達も似たようなものだからね?一般市民に迷惑をかけることはほぼ無いけど、貴方達の場合は生態系その物を消し去るからタチが悪いのよ?」
「大丈夫だ。増えたら減らすだけや」
「その思考が既にやばいって言ってんのよ。このレベル上げ狂い」
解せぬ。
そんな俺の心の声が聞こえるはずもなく、絶望したグランドマスターは今にも死にそうな顔をしながら俺達を見ていた。
「あれがグランドマスターですか?」
「そうだ。意外だろ?俺達よりも、なんならこの場にいる誰よりも弱いはずなのに、事実上のトップはあのオッサンだ。これが人間なんだよデモット。面白いだろう?」
「強さではなく、ほかの能力が優れているってことですかね?」
「そうよ。現場を知り、書類をまとめられてコネの回し方も上手い。これが人間社会と悪魔の社会の違いね。様々な強さが求められるのよ。だから発展したと言っても過言ではないわ」
何度もデモットが考えていたであろう人間と悪魔の違い。
その最たる例がここで死んだ顔をしているグランドマスターだ。
グランドマスターは確かに人間の枠組みでは強い部類にいる。しかし、オリハルコン級冒険者達と比べれば、赤子と大人ほどの差があるのだ。
それでも俺達よりもその権力も立場も上。それは一重に、強さだけが条件では無いことを意味するのである。
「あー........もう終わりだ........世界の終わりだあ........」
「失礼すぎやしないか?おい、グランドマスター。魔界の情報を持ち帰ったのに報告せずに帰るぞ」
「なんなら悪魔も連れてきたわよ。後、冒険者登録をお願いしたいわ」
「魔界?あぁそういえば........そういえばお前ら魔界に行ってたじゃねぇか!!そうだよ!!それでこちとら連絡が付かずに滅茶苦茶困ってたんだぞ!!せめて連絡手段だけでも残しておけよ!!そのせいでこっちは2ヶ月もこの問題児の面倒を見させられてんだぞ?!」
死んでいたかと思えば、急に復活するグランドマスター。
情緒が激しすぎてジェットコースターに乗ってる気分だ。登ったり降りたりが激しすぎる。
大丈夫?その内鬱になりそうで心配だよ俺は。
「しょうがないだろ?魔界の魔物が俺達を待ってたんだから。後、連絡手段とか一々考えてないよ」
「欲しかったのならば、私たちが来た時に行ってくれないと困るわ。それらのミスを私たちに押し付けられてもねぇ?」
「ふざっけんなよ!!急に夜中にフラッと現れたかと思えば、“魔界に行ってくるわ”とだけ言って消えていくやつに連絡手段を渡すもクソも無いだろうが!!」
「まぁまぁ、落ち着きなさいグランドマスター。おかげで魔界の情報が手に入るのだし、何よりジークちゃんたちの安否が確認できて良かったじゃない。魔界に行ったから死んだのかと思われていたのよん?その辺はマルネスちゃんと同じね」
「マルネス?」
マルネス........確か、俺達と同じオリハルコン級冒険者の名前だったか?
「私達と同じオリハルコン級冒険者よん。いつもフラフラ放浪しているから全く連絡がつかない上に、冒険者ギルドでも居場所を把握出来ないのよん。あちこちに飛び回る貴方達と同じねん」
「ようやく見つけたから呼び出したが........またフラッと消えられても困るんだよ。あー........頭が痛い。お腹も痛い。薬を飲まないとやってられん」
グランドマスター、体調悪そうだな。
それが俺達の責任でもあるという事を棚に上げて、俺とエレノアはグランドマスターに哀れみの目を向けるのであった。
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