獣神ウルヴァルス
当たり前のように従業員として馴染んでいるウルとデモット、そしてそれらを当たり前のように受け入れている両親や街の人々を見て俺がおかしいのか首をかしげならがも、俺とエレノアはデモットを連れて冒険者ギルド本部へと足を運んでいた。
冒険者ギルド本部には、魔界に行く直前に顔を出した以来だな。
グランドマスターは元気にしているのだろうか。
魔界に行くと言った時、目を丸くして固まっていた記憶しかないのだか。
それと、マリーも元気にしてるかな?
見た目はオリハルコン級冒険者の中でも最もパンチが強いが、なんやかんやそこさえ目を瞑れば常識人に収まるような人である。
酒のためにそこら辺の冒険者と喧嘩を始めるどこぞのドワーフや、ところ構わず実験をして大帝国を出禁にされる魔女に比べたらまだマシだ。
それでも相当滅茶苦茶なんだけどね。
そんな訳でやってきましたは冒険者ギルド本部。俺とエレノアはオリハルコン級冒険者なので、列に並ぶことも無くあっさりと街に入ることが出来た。
もちろん、付き人として扱っているデモットも難なく通れる。
これ、オリハルコン級冒険者が世紀の大犯罪者だったらやばいんじゃないのか?
何せ、人類の敵である悪魔をあっさりと街の中に入れてるんだからな。
まぁ、デモットはいい子なので問題ないけど。
そんなことを思いながら久々にやってきた冒険者ギルド本部の街は、特に変わっている所はなかった。
1年ちょっとで大きく変わられても困るから、これでいいんだけどね。
「うはぁ........すごく賑わってますね。伯爵級悪魔の街に潜入した時の何倍あるか分からない程に多くの人々が居ますよ」
「人類大陸において、最も多くそして広く拠点を持つ冒険者ギルドの総本山だからな。そりゃ、人も多いし街も広い。デモットからしたらかなり新鮮なんじゃないか?」
「そうね。村と伯爵級悪魔の街ぐらいしか知らないデモットからしたら、大都会よね。あまり街を見すぎてはぐれないようにね」
「はい!!あ、ジークさん手を繋いでください」
「はいはい分かったよ」
迷子にならないように手を繋ぐ。あれ?子供かな?
小学生にも満たない小さな子供が勝手にどこかに行かないように手を繋ぐのと同じく、デモットが勝手にフラフラと消えてしまわないようにと手を繋ぐ。
最近甘える事を覚えたデモットは、兎に角機嫌が良さそうであった。
可愛いよ。可愛すぎるよ俺達の弟子。
しかし、これだと身長の関係で俺が手を繋がれている側なんだよね。
デモットの方がお兄ちゃんなんだよね。
師匠としてちょっと複雑な気持ちになりながらも、結局はデモットが楽しそうならそれでいいやということで俺は機嫌の良いデモットに付き合う。
可愛い弟子なのだ。多少のことは飲み込んで、弟子の好きなようにさせてやろう。
「ふふっ、お兄ちゃんと弟ね。もちろん、ジークが弟だけど」
「思ったけど言わないでくれ。師匠としての威厳がないなとは思ったが、諦めた」
「私もジークと手を繋ごうかしら?あら?そうしたらジークが私とデモットの子供のように見られてしまうかしらね?」
「本当に勘弁してくれ」
「ふふっ、ふふふ」
機嫌良さそうに俺の頭を撫でるエレノア。
そんなエレノアの冗談にも付き合いながら冒険者ギルド本部の街をしばらく歩いていると、ガキン!!と剣がなにかのぶつかる音が聞こえた。
喧嘩か?こんな天下の冒険者ギルド本部の街で堂々を剣を抜くアホもいるんだな。
この街での抜刀はもちろん禁止である。街の治安を守る兵士も余程の事がない限りは剣を抜くことはなく、そして剣を抜けば即座に罰せられるのだ。
酔っ払って喧嘩する剣聖の爺さんですら、剣を抜くことは無い。普通に鞘に収めた状態でも勝てるからなあの人は。
「どこのバカかしらね?」
「さぁ?見に行ってみるか?やばそうなら止めるか。俺達も一応オリハルコン級冒険者だしな。同業者が市民に迷惑を掛けてたら申し訳ないし」
「........」
もしかしたら凶悪犯が暴れているのかもしれない。
もしそうであれば、俺達が止める義務がある。冒険者の理念は常に一つ。
“弱き民の為に”。
これを守ってさえいれば、ある程度のバカをやっても許されるのだ。
そしてオリハルコン級冒険者と言う、場合によっては化け物扱いされかねない存在も、この理念に則っているから人類として社会に入り込むことが出来ている。
まぁ、あの頭のおかしい奴らが本当に“弱き民の為に”と思って行動しているのかどうか甚だ疑問だが。
そんなことを思っていると、デモットが不思議そうに俺を見る。
どうしたんだ?
「どうしたデモット?」
「いや、魔界にいた時のジークさんからは考えられないような言葉だったので........」
「デモット。俺達も人間である以上、人間として生きる義務がある。ましてや俺達は冒険者だ。この大陸にいる間はオリハルコン級冒険者“天魔”としてあるべき行動をしなきゃならないんだよ」
「こういう規則に縛られているから、私達は人として生きていけるのよ。強ければ正義である魔界とは違って秩序こそが人類の正義なの。まぁ、それを都合よく解釈して自分の中にだけ存在する秩序を振りかざすやつもいるんだけどね」
「なるほど。こういう考えたかの違いが、人間と悪魔の発展の違いを生み出したんですね。社会体系が先に行っている人類の方が文明の進みも早いのでしょうか?」
「それは知らんが、少なくとも弱いやつでもほかの才能があれば生きていける。魔界よりは選択肢の多い社会だとは思うよ」
「それは言えているわね。魔界よりも就職先は多いわ」
人と悪魔の違い。それは弱いやつにも使い道がちゃんとあるということを理解して、どれだけ効率的な労働力を得られるのか。
弱い人類はそれを考え、悪魔はそれを切り落としてきた。
それが今の発展の違いに繋がっていると考えると、賢さという点においては人類の方が圧倒的に優秀だな。
体が弱くとも、頭が良ければ重宝される。
俺としては人間の複雑な権力構図や社会構図は分かりにくくて、“強いやつが正義!!”な悪魔の方が分かりやすくて好きだが。
単純明快。故に発展が難しい。
しかし、何でも難しくすればいい訳でもない。
世界の循環は実に難しいものである。
「ハッハッハ!!なんだぁ?!この程度かァ?!」
「く、くそっ........」
騒ぎがあった方にやってくると、そこには一人の獣人と巨大な大剣を持った冒険者がやり合っていた。
先程の金属音は彼が鳴らしたのか。しかし、状況を見るに大剣の男の方が圧倒的に不利な状況に立たされている。
対する獣人は、金色の髪をなびかせながら鋭い爪をペロリと舐めていた。
「強いわね。マリーや剣聖と同格レベルだわ。あれ、おそらくオリハルコン級冒険者よ」
「だろうな。俺も思った。金色に輝く獣人の王であり、オリハルコン級冒険者並の強さを持つ存在と言えば一人しかいない」
ようやくその姿を見ることが出来たか。
“俺より強いやつに逢いに行く”をスタンスとして、兎に角強いやつを見かけたら喧嘩を吹っ掛けるオリハルコン級冒険者の中でもかなりの問題児。
それでいながら圧倒的なカリスマ性と強さで獣人達からの人気が高く、一瞬の神格化までされている獣人。
「終わらすぞ」
「........っ!!」
獣人がそう言うと、一瞬で背後に回り込み首筋に軽く手刀を当てる。
実力差があり過ぎだな。今の一撃にも反応できないようでは、彼に勝つのは無理だ。
「“獣神”ウルヴァルス。俺達と同じオリハルコン級冒険者か」
これで4人目のオリハルコン級冒険者。後は一人だけなのだが、彼女はここに来ているのだろうか?
後書き。
五人目も出てくるよ。オリハルコン級冒険者は今回で出すつもりなので。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます