変わらない幽霊達
カール皇国の聖女システィーナと世間話をした後、俺達は元五大魔境“へゲス”へと足を踏み入れた。
聖女曰く、五大魔境はかなり安全になっており今はある程度の調査が始まっているらしい。
俺がほぼ全部の魔物をぶっ飛ばしたからね。今頃は魔境に住み着いていなかったはずの魔物がぞろぞろと入り込んでいるはずだ。
ちなみに、幽霊達は俺達の友人だから手を出すなと釘を刺しておいた。
聖女は昔と違って、割と柔軟な考えができるようになっている。この俺の忠告を受け入れるどころか、むしろ会って話してみたいと言う程だ。
変わりすぎだろ聖女様。これがかつて俺と喧嘩をした聖女だとは思えない。
「久しぶりだな。ここに来るのも」
「そうね。みんな元気にしているのかしら?幽霊だからそう簡単に死ぬとは思ってないけれども」
「死ぬというか、浄化だな。研究の真理に至ったら天へと帰るんじゃないか?」
「あら、なら未来永劫消えることは無いわね。研究に人類の知識の欲望に終わりはないわ」
確かにそうだな。知識とは知恵とは未来永劫尽きることの無い人類の進化。この世界が存続し続けている限り、この世界は知識に溢れている。
研究者気質な彼らが、滅ぶことは無いだろう。
それこそ、人の手によって滅ぼされない限りは。
みんな元気にしてるかな?もしかしたら、数が増えていたりして。
そんなことを思いながら、幽霊達が拠点にしていた場所を目指して歩く。
しばらく歩くと、その場所が見えてきた。
この魔境はほかの魔境と違って洞窟型であり、かなり奥深くに大きな広場がある。
幽霊達はそこで暮らし、日夜研究に励んでいるのだ。幽霊となり、不便な体になってもなお、その魂はこの世界にしがみついているのである。
本当はど真ん中に転移しても良かったのだが、せっかくの再会なので道中に用意したポインターに飛んで歩いている。
人様の家に入るのだ。ちゃんと玄関から入らないとな。
「だーかーらー!!ここはこうなるって言ってるでしょうがぁ!!」
「違うだろ!!ここはこうなるはずなんだよ!!このバカ!!」
「アァン?馬鹿だと?!誰がバカだと?!もう一回言ってみろや!!」
ギャーギャーと喧騒が聞こえてくる。
懐かしい声だ。女の声と男の声。いつも言い合いをしていた、薬関係の研究をしていた馬鹿な幽霊どもの声でもある。
「バカはどっちもだろ。毎日このうるさい喧嘩を聞かされる身にもなって欲しいものだ」
「あんたも大変そうだな。バディエゴ」
「いつも喧嘩してるわね。私達がいる時も煩かったわ」
「大変なんてもんじゃない。あの二人が喧嘩を始めると────ん?んんん?」
サラッと話を流そうとしたバディエゴだが、彼は途中で聞き覚えはあるが聞きなれない声に気がついてこちらに顔を向ける。
白髪の老人にして、人類の進化について調べる研究者。
かつて、人間の進化についての論文を出し、異端者としてこの地に落とされた亡霊。
宗教と言う思想によって、人間の先を閉ざされた者。
俺達がこの魔境で初めてであった幽霊にして、レベル100を超えてもある条件を得なければ人間は進化しないと言う仮説を立てていたバディエゴは、俺達を見て目を丸くし固まった。
「やぁ。条件がわかったから来たぞバディエゴ。元気にしてたか?」
「条件と言っても、私とジークしか検証していないから、確実なものでは無いけどね」
「お、おぉ........」
バディエゴはしばらく固まっていたが、俺達が声をかけると今にも泣きそうな顔をしながら俺とエレノアの顔に手を差し伸べる。
彼は幽霊だ。魔力による干渉以外は彼に触れることは出来ない。
だが、その手が触れずとも彼の手が暖かい事は何となくわかる。
当時は気が付かなかったが、今思い返せばバディエゴは俺達を孫のように思っていたのだろう。
もしくは貴重な実験台か。
「ジーク........エレノア........2人なのか?」
「俺たち以外に誰がいるのさ。安心してくれ。ちゃんと生きてるぞ」
「こんな反応をされるとは予想外ね。私達が恋しかったのかしら?おじいちゃん」
「ハハッ、ハッハッハ!!正直、もう会えないと思っていた。2人が生きていても儂らのことを忘れていたり、既に死んでいる可能性も考えていたからな」
「約束は守るさ。世話にもなったんだし」
「そうよ。そこまで恩知らずなわけないでしょう?ちゃんと進化して帰ってきたわ」
想像とはあまりにも違った反応を見せてくれたバディエゴ。
彼が静かに涙を流し始めたことにより、ほかの幽霊たちも俺達が帰ってきたことに気がついた。
「ジークにエレノアじゃないか!!久しぶりだな!!元気にしてたか?」
「見ての通り元気そのものさ。そっちも変わりない様でなによりだよカエナル。また毒をばら撒くのか?」
「アッハッハ!!この前薬を作ったら調合量を間違えてな!!そこの隅に焦げたあとがあるだろ?間違って爆発させちまったよ!!」
そうケラケラと笑うのは、この亡霊たちの中でもイカれた存在であるカエナル。
彼女は薬屋としてそれなりに名を馳せていた存在であったが、過去に調合をミスって毒ガスを発生させてしまった。
それにより、街の人々は死亡。さらに、カエナルは黒魔術が薬の研究に役立つかもしれないと黒魔術の研究もしていたものだから、結果として異端者としてこの地に落とされてきた経緯を持つ。
事実、今も絶賛薬の研究中。まるで懲りてない。
「久しぶりだなジーク、エレノア。また新しい魔術理論が出来上がったんだ。ちょっと使ってみてくれないか?」
「後でね。今は先にバディエゴの進化論についての報告をしたいから。あ、そういえば複合魔術の条件が判明したかもしれんぞ」
「マジかよ?!やっぱりお前らは天才だな!!」
魔術の話をし始めてるのは、ガロム。
彼は複合魔術に関する研究者であり、実験に失敗して村を吹っ飛ばしま経緯を持つ。
もちろん、黒魔術の研究もしていたので、宗教国家的にはアウトだ。
今はこうして、亡霊となりながらも魔術の研究をし続けている。ちなみに、かれが作った魔術理論は俺達も使っている。
ある意味では魔術の師匠とも言えるわけだ。
他にも
その大半は、そりゃ異端審問されて有罪になってもしょうがないなって奴らが集まっている。
前にも思ったが、カール教って割とまともの部類なのでは?
「で、なんであの爺さんは泣いてんだ?」
「そりゃあれだろ。ジーク達に会えないと思ってたからじゃないか?研究者ってのは興味のないことは忘れるしな。何百年かかろうがいいよと言っても、心の中ではモヤモヤしてたんだろ」
「意外と弱いメンタルしてんだねぇ。まぁ、爺さん、割とジーク達のことを可愛がってたからそれもありそうか」
「ふたりが寝たあとの寝顔とかよく覗いてたしな。孫が出来たらこんな感じだったのだろうかとかも言ってたし」
「ジーク、エレノア。悪いが暫くはあの爺さんの相手をしてやってくれ。あの爺さんが泣くなんて初めて見たからな」
「分かってるよ」
やっぱり俺たちを孫のように思ってたんだな。というか、寝ている時の顔を見られてたのか。
俺達の近くによくそういう事をする骸骨がいるから慣れてるけど、ちょっと恥ずかしいかも。
「あぁ。そうだ。ここはお前達の家じゃないが、一応言っておくか。おかえりジーク、エレノア」
「「ただいま」」
こうして、久々に再開した死した亡霊達は家族のように俺達を出迎えてくれた。
頭はおかしいが、基本は優しい奴らなのだ。俺達を研究材料としてみてなければ、だけど。
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